(読書感想文)「透明な螺旋」
東野圭吾著「透明な螺旋」読了。
読み終わった後、登場人物の背景を知ったうえでまた読みたく、もう一回始めから読んだ。
母と子、遺伝子の螺旋
男性は「自分の子がこの世に存在していることを知らない」ということが起こりうる一方、出産する女性はそれがあり得ない。
それゆえ、母子の絆にもなったりする。この物語では、この母と子の絆を感じさせるエピソードがいくつもあった。
出産以外にも、産前産後は仕事につけないこと、産後授乳で自身の栄養をとられること、男女の関係性において女性が DV の標的になりうること、選んだパートナー次第で人生が変わること。
どれも女性特有のものだ。幸せなことも悲しいことも悔しいことも。
正直であること
今でも良く覚えている。
通っていた塾で、講師が言った言葉。
「(自分は)正直であることを何より大事にしている」と。
私はその言葉のその方のパッションに影響を受け、同様に正直であることを意識してきた。それが信頼を構築するものだとも。
だが、あれから20年以上経て思う。正直であることは自分にとっては楽だけど、相手にとって最善かというと必ずしもその相関はない。
何を言わないかが品性。
言うのを控えること、相手のことを想った嘘をつくことが、優しさであることもあること。
湯川の人間味
「容疑者Xの献身」に続き、本作では物理学者湯川学の人間味について触れられる。
「本当のものなんか何もない、人間はみんなひとりぼっち」と青臭く気取った台詞を言った学少年は、様々な人の様々な生き方を見て、考えを変える。
「人は誰もひとりでは生きられない。今の僕があるのは多くの人たちのおかげ」だと。
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読了後、湯川が「友人の前で平静を装うのに苦労した」シーンを再読した。
私もいつか、内心飛び上がるほど驚きながら、それでも平静を装って「悠然としたしぐさでコーヒーを啜る」ことができる日が来るだろうか。