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みぞれ

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ななと東城
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2019年1月の記事一覧

みぞれ・4

寒い日だったから、あれは何度か前の冬だろう。彼女はキャメルのコートと淡いピンクのマフラーをしていた。

「あなたはわたしの事なんて見てないじゃない」

涙ながらにヒステリックな声を浴びせられ、部屋を追い出された。まぁ、その通りだと思った。女は好きだ。ただ、女だから。

それを伝えたとしてもあの女には理解されないだろうし理解して欲しいわけでもないから大人しく退散したが、それも気に障ったのか携帯が鳴り

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みぞれ・3

エアコンが静かに音を立てて動いている。空気が乾燥しながら暖められている。沈黙が続くことが怖くないから、自由に動ける。息が出来る。

「そういえばさ」

彼が言う。低い、ラジオから流れるノイズがかったバイオリンのような声だ。ビオラかな。美化しすぎだと自分でも思う。

「なっちゃんの前の彼氏、今度ウチと仕事するよ」

からだが固まる。なぜ知っているんだ。前の恋人と付き合う前から東城さんと会っていたけれ

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みぞれ・2

前の恋人の最後の言葉が「ななに俺は必要ないでしょ」であったくらいには、わたしはきっと可愛げが無い。甘えるのが下手なのかも知れない。自分では精神的に自立しているのだと思っているけど、何かが起こったときに頼りにされずひとりで解決法を探されてしまえば確かに恋人の立場からしたら必要ない、と思われても何も言えない。恋人同士は、支え合うもの、らしいから。

仕事の上ではこれは割と良い癖だと思っている。問題が起

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みぞれ・1

髪型を変えた。

今日たまたま違っただけかも知れない。前よりも、オールバックというのか後ろに少し流すような髪型。わたしが彼に惹かれていることを彼は恐らく知っている。というよりは感覚的に分かっている、という感じだろうか。少し変わった人。でも、とても愛しい人。

「髪、いつもと違う」
それを聞くと彼はにやっと笑って、左手で髪を撫で付ける。自分の外見が絵になることを分かっていてやっているのだから、性格が

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