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言葉の贈り物

 夫が退職して、もうすぐ一年になる。服用していたメンタルの薬は徐々に減って、今は朝食後に半錠だけ。もはや飲んでも飲まなくても良くない?くらいのレベルになっている。

 夫の気分の波も安定し、半年前に始めた週2日のアルバイトにも機嫌よく通っている。一時期、低下していた夫の能力も回復し、今は頼もしいばかりだ。

 来春からは厚労省が新設する仕事にも挑戦しようと思っている、と今朝、夫から聞かされた。夫に向いているし、これまでの経験が生かせる良い仕事だと思う。

 今はアルバイトの傍ら、始まったW杯サッカーを心ゆくまでテレビ観戦している夫。このストレスフリーな生活に満足しているようだ。
 もともと真面目な人なので、メンタルが回復したら暇人ではいられなくなるだろう…と予測していたものの、自分なりに今後のことを考えたり、資格取得のその先のことまで考えていて「ああ、この人らしさが戻ってきている」と本当の意味での【回復】を実感する。こんなにも頼もしい人だったんだな。

 「僕らはいいコンビやと思う」2ヶ月くらい前に、ふと夫が言った。私といると、いろいろと前向きなアイデアが湧いてくるんだそうだ。横にいるだけでアイデアの泉を刺激するのなら、たしかにこんなにいいコンビはないだろうなと思う。

 そんなわけで、そうだな…この夏の終わりくらいから、夫は私にたくさんの言葉の贈り物をくれる。たぶん夫自身はそういう意識はなくて、その時に思いついたことを口にしたりしているだけなんだろうけど、一時期の、エネルギーが底をついてしまった夫を見ていただけに、今は夫が話してくれるいろいろなことが私にとっては贈り物に思えるのだ。

 一年前に限界を感じて、私が退職するのを待たずして、早々に退職した夫。あの時、退職をとめて無理をさせていたら、いまこんな幸福を味わっていただろうか。たら、れば、と言い出せばキリがないけど、私たちはギリギリのところで間違わずに済んだのかもしれなかった。

 今は私のほうがこの先が見えず、不安が高まることがあるけれど、たぶん夫についていけば大丈夫だろうと思う。一番くるしいところをくぐり抜けた夫の「大丈夫、何とかなるよ」という言葉には、以前よりしなやかな強さが備わっている気がする。

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