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農福連携と、雇用率ビジネスについて思うこと(前半)

農福連携と、雇用率ビジネスについて思うこと(前半)
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 たまにはちょっと硬派?な話題を。今回は「農福連携」と「雇用率ビジネス」についてです。

 精神障がい当事者の就労支援に医療の世界から携わった経験があり、誘われて行政の事業(就労定着のための連携促進)の委員を務め、就労支援に携わる法人(社福)のお手伝いをちょろっとしている私です。このテーマを語る主体として、それなりの“資格”があるのではないかと思うので。

※お読みいただくにあたっては、私の属性から視野に入るものについての記事であり、大きなテーマを”切り取った”一部であることをご承知おきください。特定の個人・団体を示唆するものでもありません。

 分かりやすく説明しているはずなのですが、とにかくボリューミーなので、前後半の2回に分けて掲載します。前半は、農福連携とは何なのか、ということと、農福連携と雇用率ビジネスとの関連を考える上での前提となる、障害者雇用のあらましについてご説明します。

1.農福連携とは


 最近、障がい者むけ福祉サービス(引きこもり当事者の方の支援でも)において、農福連携という発想・手法がもてはやされています。「農福連携」とは、農業と福祉が接点を持ち、農業が福祉に貢献する(支援・雇用の場の提供など)のと同時に、福祉が農業に貢献する(人手不足の解消など)というやり方です。農業の場という職場で、福祉サービスの対象者が働く、ということなのですが、実際にやっていることは、一般の農家さんとさほど変わりがない(いわゆる”援農”)、というイメージでよいかと思います。

 この農福連携の現場に、営利企業が参入し、ビジネスを展開するようになっているのです。ちょっとご説明しましょう。最近注目されているのが、障害者雇用における農福連携なので、その分野に絞ってご説明していきますね。

2.障害者雇用の仕組みについて


 一般企業は、法律(障害者雇用促進法)に基づき、一定の割合で障がい者を雇用しなければなりません。この“割合”を法定雇用率といいます。働く(それと、働くことを希望する)障害者が増えるにつれ、法定雇用率の割合は大きくなり続け、現在は2.3%(行政機関などはもう少し高い)で、将来的には2.7%まで増えることが決まっています。ちなみに、法定雇用率が2%を超えていれば、従業員数50人未満の小さな企業でも障がい者を雇用することになります。法定雇用率が引きあげられるほどに、より小さい規模の企業にも、新たに障がい者を雇い入れる必要性が出てくるのです。

 この基準通りに障がい者を雇用できない場合には、雇用調整金を納入しなければならないことになっており、(全てではないが、それなりの割合の)企業は、障がい者の雇い入れについて頭を悩ませている状態だ、といってよいでしょう。

3.障害者雇用に関する企業の困惑


 さて、勘のよい読者の方ならば、「ふつうに求人を出して、障がい者を雇用すればいいではないか」とお気づきでしょう。何を悩む必要があるのか、と。

 障がい者を雇用する場合、障がいの特性や個々人の事情により、採用や就業環境において合理的な範囲での配慮(合理的配慮、と縮めていう場合が多い)を提供する必要があるのです。この配慮の必要性は、例えば、車いすのユーザーが働くためには、当然スロープを設置しなければならない、など“一般的な常識”として理解できるものだけでなく、法律(障害者差別解消法)でも指摘されていること※なのです。

※法が求めるのは、個々人の思想信条についてではなく、各種団体(企業や学校、行政など)の行動についてであることに留意が必要。

 合理的配慮の提供に関する主なポイントは、必要な配慮を、当該障がい者自身が申し出る必要がある、ということと、配慮を提供する側(ここでは雇用する企業)は、その申し出に“合理的な範囲で”応える必要がある、ということです。配慮を提供するに当たり負担が過重な場合には、負担の少ない合理的な方法をとってもよい(車いすユーザーのために“スロープを設置する”のが難しければ、“誰かが出てきて担ぎ上げる”などでもよい、ということ)のです。同時に、仮に積極的に差別的行為に加担していなくとも、合理的配慮が提供できない場合は、差別と見なされるものだから改めなくてはならないのです。

 障がい者を雇用しようとする企業にとって悩ましいのは、合理的配慮をどう提供したらいいのか分からない、配慮の申し出に対応できるか自信がない、配慮にかかるコストが重荷である、そもそもどんな仕事をしてもらったらいいのか分からない…などの事情を抱えてしまう場合がある、ということです。特に、障がい(生活のしづらさ)が目に見えにくく、障がいの現れ方に個人差が大きい精神障がい者を雇用しようとする企業が、そのような悩ましい思いをするであろうことは、充分に理解できるところです。

4.農業の側の事情


 さて、今回のテーマのもう一つのテーマである「農業」については、私は残念ながら、深い知見を有しているわけではありません。ただ、農業を含む第一次産業は、人手不足が深刻で、外国人技能実習生などにも頼らなければ成り立たない産業分野であること、海外からの安価な農産物との価格競争にさらされていること、気候・天候の影響を受け生産高・品質・収入が不安定になりがちであること、行政による規制や小規模事業者(営農者)が多く、イノベーションが進みにくい業界であること、などなど、一般的に知られた事情を確認しておきたいと思います。

5.後半に向けて


 さて今回(前編)は、「農福連携」の概要と、そういった連携の必要性が生じる背景のあらましを、障害者雇用の観点からまとめました。次回(後編)は、そこに営利企業が参入して展開するビジネスと、そこで私たちが留意するべき(と思われる)ポイントをまとめたいと思います。

(つづく)

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