藤岡淳子編著 「治療共同体実践ガイド トラウマティックな共同体から回復の共同体へ」 (本のご紹介)
藤岡淳子編著 「治療共同体実践ガイド トラウマティックな共同体から回復の共同体へ」 (金剛出版 2019年)
なんか、もやもやする。
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精神障害者の脱・施設化や地域ケアから、刑務所における加害者対応、依存症者の回復コミュニティまで、さまざまなものが、ごっちゃに「治療共同体(TC)」を名乗っているからだろうか。一つ一つの実践は意義ある貴重なものだと、充分に理解できる。しかし、TCの定義や基準について、字面を追ってはみたものの、個々の取り組みが互いに馴染んでこない。
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明らかに、キーワードの一つは「境界(バウンダリー)」である。精神病院であれ刑務所であれ、依存症者の“病理”であれ、そこに境界の問題(その脆弱性=自己を守る力の弱さ、境界を侵す関係性)を内包する。
しっかりとした境界は、中のモノを庇護する。柔軟な境界は、外から(養分を)取り込み、中から(不純物を)排出することで、中のモノを保つ。そして、境界の内側は、安全安心に統べられ治められる。これがコミュニティの“あるべき姿”(の一つの表現型)である。
けれども。
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地球温暖化と砂漠化が進んだ土地に、エアコンの利いた小部屋を設けるのは、とても大切なことである。だが、温暖化、砂漠化自体を何とかしなければならないのは、いうまでもない。点々とオアシスを作っていくだけでは足りない(量的にも質的にも)のだ。
そしてその時には、異物を排除しようとする力動も賦活化されるに違いない(総論としては賛成でも、隣の敷地に精神障害のグループホームができることには反対、のように)。私たちの悲しい性なのだけれど。
バウンダリー(TC)の中のエッセンスを、バウンダリーを超えて外に持ち出し活かすには、どうしたらいいのか。まだ、よく分からない。もやもやするのは、その点だ。
…まあ、焦らないことだ。
(おわり)