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読書|滅びの前のシャングリラ
1ヶ月後にこの世が終わるなら、この瞬間をどう過ごすのか。
死ぬ前最後に食べたいものは何か、そんな話題を誰もが口にしたことがある気がします。
本書を読んでいる間、私は毎日のように何食べたいかなと考えていました。近々自分が死ぬなんて思っていないからこそ、最後の晩餐を優雅に考えられているんだと思います。
この本の世界では、地球の終わりに向けて人が街が秩序がどんどん崩壊していきます。
未来に向かって積み上げてきたものが意味を成さなくなる現実を突きつけられた瞬間、多くの人が混乱と絶望の渦に巻き込まれてしまいました。
人々が明日を健やかに生きていくためにある秩序が失われ、殺人、強盗、放火などが日常へと化していきます。
そんな無法地帯な世界で、最後の瞬間まで一緒にいることを選んだ4人。
親からのそして自分が奮ってしまう暴力の支配下で戦い続けていた信士は、恋人の静香と息子の友樹に対して家族愛が生まれていきます。
いじめられっ子だった友樹は大好きな雪絵を守る力強さを手にいれていきます。
むちゃくちゃな暴れっぷりとは裏腹に、信士はひどく自虐的な男だ。自分を馬鹿で腕っ節しか取り柄がないと思っている。実際そうなのだが、だから価値がないということではない。愛情はそんなものとは無関係に生まれることを信士はわかっていない。幼い頃に親から愛情を与えてもらえなかったからだ。人は食べたことがないものの味を知ることはできない。
自分が経験していない愛情を人に与えられるのか、静香の心配とは裏腹に、信士は子ども二人に不器用だけれども温かい愛情を注ぎます。
「おまえ、あたしたちが幸せな家族に見えるのか」
…生活するだけで精一杯で、後悔ばかりの中で育ててしまった息子。その息子が恋している女の子。十八年も前に別れた暴力男。とりとめのない組み合わせのあたしたちが、この男には幸せな家族に見えるのだ。
苦労や悲哀で溢れかえっていた人生であっても、誰かから見ると今の自分たちは幸せに見える。今、絶望の淵に立たされているのに、4人で笑っていられていることに幸せを感じている。
この描写がとても好きだと感じました。人が幸せか不幸かは、見る人によっても変わるし、当事者がこの瞬間に何をどう感じどう解釈するかでで変わっていく気がします。
最後の最後の瞬間まで、4人で一緒にいる姿が想像できてなんだかホッとしてしまいました。滅びた世界のあと、どんな新しい世界が待っているのだろう。
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