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8月のなまずねこ本記録

夏休みの宿題である「読書感想文」は大の苦手でしたが、大人になってからnoteにつらつらと「読書記録」を書く日が来るなんて、不思議なものです。

📕残り全部バケーション/伊坂幸太郎

伊坂さんの本には、殺し屋のようなヤバい仕事をしてる人がよく登場しますが、今回は”当たり屋”が中心人物でした。自分の車にわざと衝突させて、お金を巻き取る溝口は最悪な男です。でも、話が暗いわけではなくコミカル要素や滑稽な作戦が面白く、ワクワクしながらの読書が楽しめました。

全5章立てとなっておりますが、第1章でキーマンとなっていた男が、2章以降でも度々登場します。章ごとの繋がりが、ワクワクをさらに膨らませてくれました。そんな面白ポイントがありつつも、人間の本質やグッといいことが書かれているのも、見逃せません。

弓子先生は、餌やりを忘れたことは怒るけど、その子を軽蔑したりしない。お母さんの場合は逆なんだ。失敗すると、失敗した中身じゃなくて、失敗した俺を軽蔑する。俺のことを信じていない気がする。

最終章は書き下ろしのようですが、ずっと気になっていた男の安否が明らかになりました。伏線が負担なく全て回収されるので、読了後のスッキリ度が高いのも伊坂さん作品の好きなところです。

📗歩いても 歩いても/是枝裕和

久しぶりの帰省で味わう、ざらざらとした感情。15年前に亡くなった兄と、その兄に縋り続けている母。不機嫌を隠さない父と明るく冗談を言う姉。非常に窮屈で、すぐにでも帰りたいけれど、自分にできることは時が流れるのを待つのみ。

是枝さんの描く家族や父親・母親の解像度の高さが凄まじいと思いました。父親がやるから許せないことや両親の何十年と続くやりとり、気になってしまう相手の物言いなど、身近に潜む家族の形がくっきりはっきりと浮き上がっていく感覚になります。主人公のざらざらした感情は私にも伝染し、たった数時間の読書時間にも関わらず、この家にお邪魔した気分を味わいました。

あんなにも関わりたくなかった両親でも、いなくなると寂しさを感じてしまうのが人間の面倒臭いところ。失ってから蘇る記憶や美化された思い出が、心を占めていきます。

人生はいつも、ちょっとだけ間に合わない。それが父とそして母を失った後の僕の正直な実感だった。

本書をお盆休みの帰省前に読むことができてよかった、と感じました。家族への向き合い方が、いつもより温かくなれた気がします。

📕君が手にするはずだった黄金について/小川哲

怪しい人々と対峙していく短編集。自分とは何か?自分の求めているものは?自分の才能って?など、色々考えだしてしまう気持ちになります。頭を難しく動かしていく中で、論理的な思考から腑に落ちてしまうことも多々ありました。

人間の醜い面や認められたい気持ちを、一つ一つ言葉にして積み上げている感覚が、とても面白かったです。本書に登場する変わった人たちが周りにいたら、こんなに冷静にいられない気がするけれど。笑

個人的には「三月十日」が好きでした。震災が起きた三月十一日のことは覚えていても、前日何をやっていたか覚えていないことが気になってしょうがなくなるお話。どうでもいいのでは?と思ってはいけなくて、どうでもいい一日を過ごしていたことに、心が引っかかっていきます。

断片的な情報や思い出から、少しずつ三月十日をストーリーにしていくのですが、その過程や寄り道が、人間臭くて興味深かったです。ちなみに、私の三月十日の記憶は、学校で授業を受けていたことのみ。それも、覚えているというより、あの年の自分はきっとそうだろう、という程度です。

📗東京タワー/江國香織

最近、令和版でドラマ化された「東京タワー」平成の映画実写化も含め未視聴のため、小説が「東京タワー」の入り口となりました。サラサラと読み続けられる、この魅力はなんでしょう。大学生の透と年上の既婚女性・詩史との愛の物語。同時に、透の友人・耕二と人妻・喜美子の話も広がっていきます。

どうしようもなく惹かれ合う二人は、優美で儚い印象を感じました。世間的に批判される愛であっても、お互いが一緒に生きていきたいと願う繋がりが、二人をより美しくさせている気がします。視点がコロコロと移り変わりながら、淡々と日常が描かれていく流れに慣れてくると、この物語は今まさにどこかで起きているかもしれない、と急に近くに感じてしまいました。雨に濡れた「東京タワー」を見るたびに、透と詩史を思い出しそうです。

📕夜明けのすべて/瀬尾まいこ

PMSとパニック障害により、社会での生きづらさを感じる男女の物語。自分の心と体なのに、思うようにコントロールができない絶望や、20代で一生この病気と付き合わなければいけないのか、と感じる失望など、当事者でないと深く理解することができない気持ちが描かれています。

瀬尾さんの小説は柔らかな言葉の中に、感情の機微が表現されているので、大変読みやすく没頭することができます。本書は映画化もされているので、実写化の役者さんを頭の中で動かしながら、読んでいきました。

病気による”制限”や”諦め”にフォーカスがあたっているところから、自分の元々持っている隠れた”好き”や”可能性”にベクトルが移り変わっていく様子が、とても素敵に感じます。まずはできることから、と私の大好きな言葉である「小さいけれど、大きな一歩」を思わせるストーリーでした。(この言葉はなまずねこオリジナルです。笑)

📗閃光スクランブル/加藤シゲアキ

加藤さんの本は「オルタネート」「なれのはて」など最新作を中心に読んでいたこともあり、デビュー作に近い本ほどまだ手にとっておりませんでした。本書は、女性アイドルとパパラッチ二人がメインの物語で、加藤さんの過ごす世界をリアルに覗かせてもらった気分になりました。

芸能人が直面する”時代の流れ”や”制約と自由” 主人公のアイドル・アッキーは、人気や批判、我慢や秘密がこんがらがってしまい、どんどん自分を追い込んでいきます。自分を追い込んでいたのは、パパラッチである巧も同様。カメラマンとして栄光を掴みかけた時に、失った最愛の妻と子のことをずっと心と体の傷として抱えていました。

二人の人生がどう交差していくのか?アッキーの不倫がリークされるのか?巧と男女関係になるのか?色々と予想をしながら読み進めていきます。自分を縛っているのは、他人の声なのか自分の罪悪感なのか、そんなことを思いながら二人の結末を見送りました。

📕2020年6月30日にまたここで会おう/瀧本哲史

若い世代に向けてのメッセージを送り続けていた瀧本さん。伝説の東大講義をそのまま一冊の書籍にしたものを拝読しました。懐かしい大学の感覚を抱きながら、熱と芯がある話を楽しむことができます。

今、自分は20代後半を生きており、同世代の仕事の話やメディアの顔ぶれなどをみていると、徐々に自分たちの世代が社会を作っていく段階に入ってきている、と感じていました。お気楽な学生生活を卒業していても、心はまだまだフワフワしていたので、瀧本さんの主張はガツンとして何かが揺さぶられますね。

自分の未来は自分で切り拓く力、日本の将来を明るいものにする力、そんな武器を若者に与えてくれる講義でした。「最重要の学問は言葉である」と題されていたように、言葉は自分の拠り所にもなれば、人を動かすこともできる魔法のツールです。noteで言葉を書き留めることも、自分にとっての武器を磨いている過程のように感じました。

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