とある海外大生が教育プログラムをゼロから作った話
自己紹介
初めまして(?)、Rinyuです。
UC Berkeley 新2年生で教育科学を専攻しつつ、52Hzでは理事をやってます。このマガジンで特集されていく(はずの)「52Hz Accelerator」というプログラムを作っている人です。
Twitterはこちら: https://x.com/Rinyu_DtD
少し自分語りをさせてもらうと、僕は、高校時代(奈良の男子校に中高6年間幽閉されていました)から読書教育に関するメディア運営と研究開発をしてきました。きっかけは高校1年生の時、コロナ禍で時間を持て余したことだったのですが、読書好きが高じて、高校生ならではの視点からおすすめの絵本・児童書を紹介するフリーペーパーを創刊し、いつの間にやら全国の書店・図書館・カフェにて頒布するまでに。さらに、より本質的な読書教育の課題を解決するため、新しい読書教育のカタチを学術的な観点から模索していました。
活動を続ける中で、こうした成果を多くの皆さんの目に留めていただき、高2・高3では、自分の活動の傍で、講演や伴走を通じて後輩の探究学習やPBLをサポートする立場をしばしば任されるようになります。
高校を卒業してUC Berkeleyに入学するまでの半年間、せっかくなら日本にいるうちにできることを色々やってみよう、と考え、教育系のNPOでインターンなどをさせていただいていました。ETIC.にて社会起業家育成プログラムの設計・運営をしたり、カタリバにて探究学習支援ツールを企画・開発したり、BEAUにて地方密着型の探究学習に伴走したり……。高校時代から合わせると述べ1000人以上の中高生の教育支援に携わってきた計算です。
そんな中、教育インフルエンサーRyogaのツイートから、海外大進学支援コミュニティ「52Hz」を知り、自分自身の大学受験経験(海外大受験については別のnoteで改めてまとめたいと思っているので、乞うご期待!)を後輩のために活かそうと、UC Berkeleyに進学するのと同時期にジョインしました。加入時の面談でRyogaに、「Rinyuには、探究とか課外活動の知見を還元してもらえるよう期待してる」的なことを言われた時には、まさか半年後にこんなことが待っているなんて、一ミリも想像できていなかったのですが……。
プログラムの始まり
「Rinyu、探究プログラムを作ってくれん?」
全ての始まりは、ある日Ryogaに言われたこの一言でした。52Hz理事の間ではお馴染みの、Ryogaからの権限委譲(という名の丸投げ)です苦笑 「Accelerator」という名前だけが決まっている状態で、中身は全くのゼロ。
確かに、52Hzで高校生の質問に答えたり、1on1で相談に乗っているうちに、僕自身ももどかしさを感じていました。一度質問に答えたり、単発で相談に乗っているだけでは、僕は深くサポートしたくてもできないし、本人も前に進もうと思っても踏み出せない。そんな中で、もっと何か海外大生側からできることがあれば…!という課題感をRyogaと共有していたのです。
そこで、自分自身も興味・ワクワクを深ぼってきた経験があり、後輩の探究学習や課外活動を幅広いアプローチでサポートしてきた実績もあり、純ジャパながら海外大進学を果たした、ということから、Ryogaに僕ならできると見込んでもらえたのでしょう(と好意的な解釈をしておきます)。
2024年2月頃だったでしょうか。52Hzの法人化準備と並行して、教育プログラムの構想を一人で練り始めました。全く土台がない状態でチームを作る段階から始めると、プログラムの思想や軸がぶれてしまうと考え、より良いものを作るためにとりあえず叩き台は自分一人で作ろう、と決意したのを覚えています。
これまで52Hzで接してきた高校生には何が必要だろうか?
彼らのチャレンジを阻むハードルはどうやれば乗り越えられるだろうか?
学校にできなくて52Hzだからこそできるサポートは何だろうか?
52Hzのミッション「海外大進学の民主化」を実現するには何ができるだろうか?
学校や親、社会など多くの障壁が立ちはだかる課外活動や海外大受験において、コミュニティにいる400人の中高生のワクワクや海外への憧れが潰されてしまわないように、自分たち海外大生にできることを考え抜く日々でした。
そして一方で、なぜ自分が今までうまくいってきたのかを因数分解する、ということも欠かせません。僕が作るプログラムだからこそ、僕自身の経験・知見を最大限還元したい。自分のワクワクを軸にしつつも、ある程度メタ認知や戦略的な思考を活用しながら活動を深め広げてきた結果、今の僕があるからこそ伝えられるものがあるはずだ、と確信していました。
自分はどんな思考回路で探究してきたんだろう?
学校外で活動している人がほぼいない環境で、自分がここまで課外活動に打ち込めたのはなぜ?
これまで中高生の探究への伴走で心掛けていた接し方は?
僕の目指す「自分らしい生き方」「健全な教育」とは?
そんな中、痛感したのが、自分の知識不足です。もちろん、色々とやってきたし考えてきたことはあるけれど、体系的な知識があるわけではありません。UC Berkeleyの授業でも、ドンピシャにハマるクラスはなかったのです(ちなみに、とある教育系の授業のfinal paperでこのプログラムの構想を書いたのですが、B+の評価しかもらえませんでした泣)。
というわけで、自分に足りない学術的知見を取り込むため、大学の勉強そっちのけで参考になりそうな書籍や論文も読んでみることに。
主に参考にした本たち
本を読みながらぐるぐると考えていた時のツイートがこちらです。
プログラムの教育思想の確立
こうして、デューイをはじめとする教育哲学の議論や、自己決定理論などの発達心理学の知見をつまみ食いしながら、自分の体験や中高生をサポートしてきた経験と照らし合わせて、僕なりに自分らしく生きるための教育論を構築していきます。
あれこれと考えた末に、プログラムのミッションとして、「自己開拓力の育成」を掲げ、夢中と憧れをもとに社会における自分と向き合う、という構想を組み立てられたときの、「しっくりきた」手応えは忘れられません。大学の勉強よりも熱中していたくせに、学術的な基礎の大切さを思い知りました笑
こうした思想が固まってくる頃には、一般社団法人格を取得し、いつの間にか僕も理事に加わっていました。これほど法人化を急いだのには、訳があります。4月上旬締め切りの三菱みらい育成財団の助成金に応募するためでした。
三菱みらい育成財団への無謀すぎる応募
プログラムの構成など詳細を詰めることもできないまま、3月には大急ぎで助成金の申請書類に取り掛かりました。「脳内がごちゃごちゃでもちゃんとした文章に落とし込める」という僕の強みが最大限に発揮された瞬間です笑
コンセプトとして打ち出したのがこちら。
ね?それっぽいでしょ? これを作っているのは、実は海外大学で教育を学び始めたばかりのペーペーなんですが苦笑 応募書類の項目に従って、プログラムの特徴や独自性、社会的インパクトなどの詳細を詰めていきます。
プログラムのコンテンツのモデルとなっているのは、実は大学入学前にメンターを務めていた一社BEAUの取り組みです。BEAU LABOというオンラインプログラムでは、教育や医療、メディアなど高校生の興味ごとに少人数の「ラボ」を作り、大学生が伴走する、というスタイルで探究学習のサポートをしているのですが、その形式に僕自身も手応えを感じていました(パクったとか言わないでください笑)。そこで、このAcceleratorプログラムでも、「ゼミ」という形で、興味領域や活動の深さなどで少人数のグループに分けるのを核として、海外大生との1on1で個別最適化を図りつつ、受講生全体向けのレクチャーで体系的な知見を補完する、という三部構成にすることに。
何よりも苦労したのが、予算計画です。そもそも公式サイトの募集要項には、「助成金額は、申請いただく団体の財政規模の 2割を一つの目線とさせて頂きます」と書かれている中で、法人化してまもない我々の自己資本はクラウドファンディングでいただいた200万円余りのみ。それでも、これまで2年以上コミュニティとして築いてきた実績をアピールし、分不相応な500万円以上の額を申請するという暴挙に出るしかありません。団体の財政規模の20%どころか、250%以上の金額ですが、これからのプログラムの継続性や発展性のためにはダメ元で応募する以外、どうしようもありませんでした。
地方に住む高校生を重点的に支援するため交通費は全て自己資本から拠出することにする、など我々のスタンスが伝わるように工夫しつつ、提出期限ギリギリまで予算案を修正し、締め切りの当日に滑り込みで提出しました。僕だけかもしれませんが、海外大学にいると睡眠時間を削って締め切りギリギリまで粘る癖がついてしまうので良くないですね苦笑
そして、待ちに待った結果は……なんと…….
採択!!!
当時の興奮を抑えきれていない理事たちのチャット欄がこちらです笑
周りの教育関係者に聞いても、52Hzの規模の小ささや活動歴の短さからして、かなり異例だったようです。それでも、採択が決まったからには、もう後戻りはできません(当たり前)。結果発表に先立って募集を締め切っていた海外大生のメンターと中高生の0期生は、それぞれ結果発表の前日深夜まであーでもない、こーでもないと悩みに悩んで、より良い学び合いのコミュニティを構築できるよう、慎重に選考していました。
プログラム始動
全国・全世界から寄せられたエントリーは100人以上。20人足らずの海外大生メンターで伴走できるであろう最大のキャパの30人に絞ったことで、良質なコミュニティにするための目標としていた倍率2.5倍も無事に達成し、海外大生メンターだけでの事前打ち合わせも経て、いよいよAcceleratorをスタートさせる時がやってきます。
予想以上に多くの応募があったために選考に時間を要し、開催時期が後ろ倒しになってしまったので、中高生の期末考査のスケジュールを調査して、開校式を7月7日(日)午後に設定。
zoomを開いて14:00の開始を待っている時のドキドキは、今でも忘れられません。最初の開校宣言でAcceleratorに詰め込んだ僕の思いは十分に届くだろうか……。0期生同士の交流タイムは、うまく盛り上がるだろうか……。いざ始まってみると、そんな心配は無用でした。ブレイクアウトルームが閉じるギリギリまで粘って喋り続けていた0期生に感想を尋ねると、
「最高にキラキラした時間でしたー!改めて海外大目指す勇気もらえました! 」
「これから、いろんな人の話を聞くのが楽しみすぎる! 」
「時間足りないー!」
というたくさんのアツい声がチャット欄に溢れます。1人の0期生を指名して話を聞くと、もう早速、興味の近い人を見つけて一緒にプロジェクトを立ち上げることになった、とのこと!
こうして、中高生が中心となって立ち上げた海外大進学コミュニティ52Hzから、中高生のワクワクに海外大生がとことん寄り添って探究学習・課外活動・海外大受験をサポートする、唯一無二の伴走プログラム「52Hz Accelerator」が幕を開けたのです。
お知らせ
52Hz Acceleratorは、三菱みらい育成財団の助成を受けて来年度以降も毎年開校します。
次年度1期生の募集は2025年4月〜5月頃を予定しています。
プログラムの概要はこちら:
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