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ジュラシックパークと消えゆく仕事

スティーブン・スピルバーグ監督の『ジュラシックパーク』をご存じですか。

ナンバーワン恐竜映画ですよね。


当時の興行収入はだんとつの一位で、1990年代を代表する映画です。

noteで映画の面白さはログラインと呼ばれる、一行程度のあらすじで決まると書いていますが、ジュラシックパークのログラインはこうなります。

『科学技術で甦った恐竜で作った恐竜テーマパーク。その恐竜が逃げ出し、人々に襲いかかる』

これはログラインを読んだ途端、『この映画見たい』ってなるじゃないですか。

実際マイケルクライトンが原作となる小説を発表すると、映画会社で映像化権の争奪戦がくり広げられたそうです。

ただこれって映像にしたら面白いのはわかりますが、問題はどうやって映像にするかです。どれだけリアルな恐竜を作れるかに映画のすべてがかかっています。

それをCGで作ったんでしょ。CGで作れると考えたから、監督のスピルバーグは企画したんでしょ。

みなさんと同じように僕もそう考えていたんですが、実際のところは違いました。

スピルバーグはまず最初、この恐竜をロボットで作ろうとしたんですね。

そこで『プレデター』や『エイリアン』などのSFX担当のスタンウィストンに依頼しました。

ただこんな巨大なロボットがジャンプしたり走ったりすることはできません。そのアクションに関しては、ストップモーションアニメの大家であるフィル・ティペットに頼んだんです。

ストップモーションアニメとは、人形などを少しずつ動かしてアニメにする手法ですね。有名どころはティムバートンの『ナイトメアビフォアクリスマス』ですね。

ただストップモーションアニメって、動きがかくかくするのが難点でした。そこでそこをスムーズにリアルにするためにCGを使おうとスピルバーグは考えたんです。

つまり最初、CGはおまけぐらいの感覚だったんですよね。

ところがこのCGアニメーターのウィリアムズはちょっと変な男だったんです。

被写体のブレを補正するだけでは面白くねえぜと四ヶ月かけてティラノサウルスが歩くCGを勝手に作りはじめたんです。上司の許可もなしで。

そして上司を無視し、プロデューサーとスピルバーグにその歩く恐竜CGを見せたわけです。

そのできばえにスピルバーグは衝撃を受け、「これでいこう」とCG制作に切り替えたというわけです。

かわいそうなのはティペットですよ。ずっとストップモーションアニメで恐竜をどう動かすか研究していたんですから。ウィリアムズのおかげでその努力と時間がすべて水の泡となりました。

スピルバーグに恐竜はCGで作ると告げられたティペットは、「僕らはこれで絶滅だ」と嘆いたそうです。

このセリフどこかで聞いたことないですか?

実は本編の中で使われてるんです。古生物学者のグラントがジュラシックパークで恐竜を見て、「僕らは失業だよ」と嘆くんです。

だって実際の生きた恐竜がいるのならば、化石を発掘して研究する仕事なんていりませんから。

その発言を聞いた皮肉屋の数学者が、「絶滅だろ」とからかうわけですね。

このセリフがすごい印象的だったんですが、スタッフのティペットの想いそのものだったんですよね。なんかセリフに力が乗ってますよね。

このセリフが妙に記憶に残っているし、このティペットのエピソードがすごく興味深く感じてしまいます。それって僕が、時代によって消える仕事に関心がある証拠なんでしょうね。

アメリカではピクサーのおかげで、3Dアニメが主流になりました。そのせいで手描きアニメしか作れないベテランアニメーターが次々とクビになったんですよね。

ただティペットは失業したわけではありません。ストップモーションアニメで製作した恐竜の動きをデジタル入力するツールを開発したりして、CG部門の手助けをしたんです。

その貢献もあってアカデミー視覚効果賞を受賞しました。

経験はすべて無駄にならないんです。

ただ自分を脅かす新しいものが台頭してきたら、「へっ、あんなもん」とバカにしたり、意固地になったりしたらダメなんですよね。

勇気を出してそこに飛び込む力は、これからの時代はますます必要になる気がします。

このジュラシックパークの詳しい話は、Netflixのドラマ『ボクらを作った映画たち』で紹介されているので、ぜひ見てください。


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