食べるために登る私も好きだから
『山と食欲と私』 信濃川日出雄 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,100文字
・あらすじ
日々野 鮎美 27歳 会社員
どこにでもいそうな彼女には「登山」という趣味がある。
正しくは「山で美味しいご飯を食べること」かもしれないが、そんなのはどうでもいい。
大事なのは動いた後の食事が美味しくて、また来たいと思うことだ。
楽しむ彼女の姿を見て、あなたもきっと食欲を刺激されるものと期待する。
・レビュー
主人公の日々野 鮎美が山を登り、山頂などで美味しいご飯を食べる。
それが本作の基本的な流れなのですが、たまにアウトドア趣味で俺カッコイイとイキりたい男や、車を家にして旅をする女が登場したりします。
現在の情勢を反映しているのも特徴で、workとvacationを合わせたワーケーションのために愛媛へ行ったり、ある山でYouTuberの動画撮影に協力するなど、秋元治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を連想させます。
最新15巻ではアウトドア趣味のブームにより、高価な道具類が盗まれる被害について取り上げており、「よくぞ描いてくれた!」と感心しきりです。
とはいえ、そもそも山に登るのは大変だし……と敬遠される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
幼いときに家族でキャンプに行っていた私自身、興味はあるけど手を出しにくいのがアウトドアという趣味だと感じます。
テントや寝袋は良いものだと数万しますし、調理器具や食材などを運ぶ体力がないと家を出発することもできません。
主人公の鮎美はテント類を背負って数日に渡る登山が可能で、同行者ありでなら雪山にも入れる中~上級レベルの登山家です。
そんな彼女も山に登ろうと出かけたものの、麓で菜の花を買ってしまって登らないまま終える日もあります。
山に登るのは「楽しみ」の1つであって、それ以外を切り捨てないのが本作の魅力です。
もちろん登山の楽しさについても抜かりなく描かれています。
時間をかけて山頂へと辿り着き、周囲360°を見渡せる絶景の中での食事は、安いカップラーメンですら極上の味へと変えてしまいます。
そして食事に対する思い入れが強い鮎美は、様々な山で、麓で、ときには近所の河川敷や自宅を舞台に、様々な料理を作ります。
先の菜の花のようにそれぞれの物語が加わり、その日、そのときだけの特別な料理が出来あがります。
お腹と心が満たされると創作意欲が湧くのか、
などと読んでしまう面白い彼女は、これからも山に登ったり登らなかったりするのでしょう。
一部は出版社のサイトやpixivコミックで読むことができます。