うまい食事は命の源。それが最後の食事になったとしても。
『鍋に弾丸を受けながら』 原作*青木潤太郎 作画*森山慎
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,000文字
・あらすじ
どんなとき、どんな場所でも人は食事をする。
そして空腹が最高のスパイスになると聞く。
筆者の訪れたヤバい場所もまた、同じくらい最高の調味料あるいは食材になるのかもしれない──。
・レビュー
本作に登場する料理は確実に美味いのでしょう。
なぜか登場人物の全員が女性だったり、ショットガン的な何かが弓矢になったりしますが、そんなのは些末な問題に過ぎません。
大事なのはヤバい場所で美味いメシを食べた、という事実です。
美食の文化圏というイメージがある欧州ではもちろんなく、メキシコ、ブラジル、アメリカのシカゴといった、銃口から立ち上る煙が似合いそうな場所です。
紹介される料理も焚火で焼いた肉や、果実そのままを搾ったジュースなど、高級感とは縁遠いものが多いです。
けれど紹介される料理はどれも美味しそうで、おそらく周囲の環境を含めての味なのでしょう。
観光ガイドには載らない、というか載せられないであろうスラムだったり、かと思えばドバイの地元民から教わった菓子屋だったりと様々です。
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最新2巻で著者は、もはや食べ物と言えるか謎の薬品まがいな食品と出会います。
店の奥から謎のブツを出してきた店主は、あやしい笑顔でもって言うのです。
そうした説明不可能なものも紹介されていますが、思うに本書の魅力は料理そのものというより、作者が食を通じて感じた人や文化との繋がりであるような気がします。
その源泉が趣味の釣りで、私も少しだけ釣りを趣味にしていた時期があるので、作者の姿勢あるいは向き合い方が好ましく映ります。
魚を得る手段としては効率の悪い釣りですが、だからこそ釣りを楽しむ人は「何か」を持っている気がします。
それは自然への感謝であったり、同じ釣り人への厚意だったりと様々ながら、好ましく感じられるものであることは確かです。
釣りを愛する人々の心の繋がりが生む、たぶんミシュ○ンガイドには載らない料理その他を知れるのが、本書の魅力を作り出しているのでしょう。
ただ、今も世界に蔓延する感染症もあって、新しい旅や再訪ができない影響なのか、やや方向性がマイルドになっている感じもします。
異国を自由に旅できるのが幸せなことだと、失ってから気づくのが人間というものですけれど、本書を読んでいるとそれさえ何だか愛しく思えてくるのが不思議です。