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「散歩」 ~ 雨の匂いのする街 ~

部屋の観葉植物に水やりをしていたら、思い切り立ち上がった緑の匂いに鼻がびっくりしてしまったことがある。
「ぷっはーッ!」
ビールの第一声が聞こるような見事な飲みっぷりに、以来見慣れていたヤシ科の鉢植えは一緒に呼吸する”同居人”になった。

コロナによる自粛生活で、散歩が日常になっている。
雨催いの空であっても、いそいそと出かけてゆく優雅な新習慣。こと「雨上がり」の贅沢さには時を忘れる。

草木がいっせいに囁き出すようなにぎやかな、そして静かな時間。
「ああ、美味しい雨!」
「久々のシャワー、さっぱりしたー」
「いいお湿りでしたね。お肌もつやつや~」
そんな仲間のお喋りを聞きながら、静かに余韻に浸っている枝や小さな花も皆キラキラと輝いている。そして葉の一枚一枚が呼吸をするたびに、”鎮守の森”のような清冽な香りがあたりに漂う。

花よりも草木の匂いに惹かれる私が、いつも不思議に思うことがある。

花の香りが「誘い」なら、草木の香りは外敵から身を守る「防護」や「攻撃」。成分のフィトンチッドも「Phyto(植物)」と「Cide ("殺す"を意味するラテン語)」から来ているという。
そんな物騒な匂いに癒され魅了されるのはなぜ?

草木に寄り添うとき、私もその中にあって守られていると感じるからだろうか? ヒトは自然の一部。敵は「外」にいると?

そうありたい。そうであって欲しいと、強く思う。
不都合な自然にアタックされている今。何に守られ、何と闘っているのか見失いそうになりながら、手に届く小さな自然に救いを求め、そして救われている。

自粛しているうち、日本一爽やかな季節も終わりが近づこうとしている。愉しみを得た今年の梅雨は、いつもより少しいい季節になるかも知れない。道端の花でも摘んで、部屋に明かりを灯そう。

【連載】余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす”香道”の世界に迷い込んで十余年。
日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」
前回の記事: 「墨香」~ ゆらら、さららと ~

【著者】Ochi-kochi

抜けの良い空間と、静かにそこにある匂いを愉しむ生活者。
Photoマガジン始めました。「道草 Elegantly simple」

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