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旅にまつわる音楽を聞きながら、記事をお楽しみ下さい♪

訪問国8 スロバキア

スッピンとフルメイクが、別人のような顔の人

「ここ、本当にブラチスラヴァですか?」
スッピンの時とフルメイクをしている時と、顔が別人のような人がたまにいたりする。
スロバキアの首都・ブラチスラヴァもまた、そんな所だった。

恩師の別荘で思いついた、夢の日帰り旅行

その夏私は、ウィーン国立音楽大学の入試を終えて、夏季ドイツ語語学研修を受けた後、数日間、ピアノの恩師、岩田朋子先生のウィーンの別荘に滞在させて頂いていた。
「ルイ16世と結婚する前のマリー・アントワネットが、どこからか出て来そうですね……」
ロココ様式の美しいお部屋で、めでたく合格出来たウィーン国立音楽大学のことを先生から教えて頂いたり、先生の美味しい手料理を頂いたりと至れりつくせりで、まるで気分はハプスブルク皇女、マリー・アントワネットの様だった。

その上先生は、日帰り旅行もしようと提案して下さった。
「ヨーロッパに住んでた先生と、日帰り旅行まで出来るなんて!」
私はとても嬉しく、どこがいいかを早速探し出した。

「ドイツやイタリア……それからスロバキアも、オーストリアの隣国ですね」
「あっ。スロバキアはいいかも。”ひっくり返したテーブル”があるのよ!」
その不思議な名前は始め、ピンと来なかった。

「ひっくり返したテーブル」がある町とは

「ちょっと怖いですね……。テーブルひっくり返すなんて、お母さんやおばあちゃんでも出来ませんね」
先生は、大笑いされた。
「絶対に無理よ!スロバキアの”テーブル”は、実はお城なのよ」
「えぇっ?!それ、気になります!」

こうして先生と私は、ひっくり返したテーブルを見るため、スロバキアの首都ブラチスラヴァに日帰りで訪れることにした。
「ウィーンよりも素朴なドナウ川の景色も、楽しめるみたいよ」
「楽しみです!こういう中長距離のローカルバスも、初めてです!」
子犬の様に先生の後を追いながら、私はウキウキしていた。

ウィーンからローカルバスで、ブラチスラヴァへ

バスに乗ると、朝が早かったという事もあり、すぐに眠気がやって来た。
「起きたら、”ひっくり返したテーブル”が迎えてくれそうですね」
「うーん……どうだろう……」
先生の返事が曖昧だったのは不思議だったが、私はあっという間に眠り始めてしまった。

「理菜ちゃん、着いたよ」
小一時間位経っただろうか。
ブラチスラヴァのバス停に着いたようで、先生が起こして下さった。
「え……?」
起きた途端、私の目は丸くなり、そして冒頭の言葉が口から出て来た。

「ここ、本当にブラチスラヴァですか?」
「そうよ。元共産国だから、バス停や観光地以外じゃこんな感じかと想像出来たわ」
さすが岩田先生。
東欧諸国各地で演奏会に招致され出演されているからか、全く驚かれているようでもない。

着いた場所は、中世の町というよりも……?

駅は薄暗く、中世のおとぎ話に出て来そうな街並みは全く見られない。
どちらかというと、バス停は工場のようだ。
「あ、あのつぶれそうな建物は何ですか?”テスコ”って書いてますね?」
「スーパーよ。薄暗いけれど、きちんと営業しているわ。あれが普通なのよ。ここでは」
「記念に、買い物したくなりますね」

相当なインパクトの、スーパーマーケット

スーパーの中は予想以上の暗さで、切れてしまいそうなほど無愛想な蛍光灯が、不気味だった。
ただ、商品はきちんと売られていた。それも安価で。
「キットカット風のチョコがありました!半額位ですね」
商品を安く買えることは嬉しかったが、ウィーンや日本のスーパーで流れている可愛らしい音楽が全く流れていないのには、相当な違和感があった。

スーパーを後にした時、思わず呟いていた。
「ここ、スッピンですね……完全に」
私の素直なつぶやきは、先生の笑いのツボに大いにはまったようだった。
笑いが止まらない先生に、私は謝った。

「すみません、ネガティブ表現でした。でも、世界遺産の町なんだし、もう少しインテリアをお洒落にしたり、照明を暖色系にしたり、せめてナチュラルメイクできないんでしょうか?」
「ユニークな表現ね!元共産国は、旧市街など中心地を栄えさせることで手一杯なのよ。さあ、”フルメイク”された旧市街へ行きましょう!」
私の表現を早速使用して下さる先生には、この日も脱帽である。

スッピンは、今も存在するか?

自身が学生だった頃から月日が流れ、今はブラチスラヴァも「スッピン」の場所が少なくなっているかもしれない。
でも、永遠に受け継がれて行くだろう旧市街より、このスッピン地区の方が、ある意味、その時代にしか見られない貴重なものかもしれない。

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