ハンガリー2 想いは通じる?通じない?
旅にまつわる音楽を聞きながら、記事をお楽しみ下さい♪
「どの町から見るドナウ川が、一番好き?」
ヨーロッパ周遊旅行をした仲間達の間では、こういう質問が出ることもある。
ドナウ川はドイツ、オーストリア、ハンガリー、スロヴァキア、セルビア、ルーマニアなど、実に色々な国々を流れているため、この質問は盛り上がることが多い。
私はもちろん、2の1番に
「ウィーン!」
と答える。
例え、ヴァッハウ渓谷から見えるドナウ川がより優美に感じても、だ。
ウィーンから見る四季折々のドナウ川には、それぞれの場所に思い出が詰まり、私にとって格別だ。
第二の故郷とは、そういうものなのかもしれない。
ドナウの真珠・ブダペスト
しかし、世の人々はこの質問を受けると、たくさんの人は
「ブダペスト!」
と答える。
「ドナウの真珠」と言われる程、ここブダペストで、ドナウ川はより輝きを放っている。
さて、そんなドナウ川を船から見ようと、ピアノの恩師・岩田先生と前々から計画をしていた。
しかし私達は、思いの外、「ゲッレールト温泉」で優雅・時々愉快な時間を過ごしてしまい、船の最終乗船時刻までの間は、相当タイトスケジュールになってしまった。
ドナウクルーズをする予定が、大幅に時間が遅れ……
時計を見てギョッとした私達は、大急ぎで着替えを済ませ、路面電車の駅へと向かった。
リスト音楽院を卒業されている岩田先生がハンガリー語を読むことが出来、通訳下さったおかげで、私達は最短で路面電車に乗れた。
ただこの路面電車が、なかなか時刻通りに進んでくれない。
「ごめんなさい……私が波のプールではしゃいだりしていなかったら……」
「理菜ちゃん、船に乗れなくても大丈夫よ。ブダペストなら、また来れるしね」
優しい先生は、車内でそう慰めて下さるが、車内から美しい橋やドナウ川が見えると、私はいても立ってもいられない気分になった。
「なんとしても、先生と今日、船に乗りたい……」
そう思っていると、やっと路面電車は乗船場の最寄り駅に着いた。
とりあえず、乗船場の最寄り駅に到着
「先生、チケット売り場はどちらですか?」
「あの、橋をおりた向こうの方だと思うけれど……え?理菜ちゃん?」
私はすでに、走り出していた。
「先生、ゆっくり来て下さい。私、チケットを買って来ます」
「え……ええっ?」
貴族のような優雅な走りをされる先生を、全速力で走らせるのは、あまりに申し訳ない。
チケットを買うのは、元運動部だった弟子の役目だろう。
私はその輝く船に向かい、全速力で走った。
グランド一周分もなかったのか、思ったより早く船着場が近くに見えて来た。
船着場に着くなり私は、
「チケット売り場はここですか?」
と英語で聞いた。幸い、英語は通じた。
「あそこの窓口です。でも今日はもう、最終船が出航してしまいます。残念ですが」
最終便はすでに出航していた……が?!
「いえ、乗ります!あそこですね」
瞬時に窓口に走り、めげずに言ってみる。
「大人2名、お願いします」
「残念ですが、本日のチケットは」
「まだ船、出ていないじゃない!お願いです!」
「いやいや」
「私達は今日このクルーズをするために、はるばる日本から来ました。乗れずに日本には帰れません。遠い日本から、次はいつ来れるか分からないのです……」
「そうなの?でもなぁ」
「お願い!無理なら直々、あそこの彼らにお願いしてみます!」
「……しょうがないなぁ……よしっ!」
想いは通じる?通じない?
窓口から、お兄さんが出て来た。
「着いておいで」
「はい?!」
窓口から歩き出すと、船は出発し始めた所だった。
「だめ!待って〜!」
という私の叫び声と、お兄さんの叫ぶようなハンガリー語が重なる。
なんと……船は止まった。
お兄さんが大声で、何やら船の人々と話をしていたが、やりとりの後、お兄さんは私に
「よし、船に乗れるよ、君たち。おいで!」
と英語で教えてくれた。
ちょうど息を切らしながら、先生も船着場に到着した所だった。
「理菜ちゃん、ふ、船……、どうなったの?」
「先生、乗せてもらえるみたいです!」
「ええ〜っ!」
私達は彼らに英語で心からの礼を述べ、急ぎ乗船させてもらえたのだった。
信じることの大切さ
完全に大人になり切った今、「船を止める」なんてことは、思いつかないだろう。
でも、学生は怖いもの知らずだ。
当時の私は、信じていたのかもしれない。
「想いは通じる!」
と。
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