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アイコンのチカラ

良い仕事を見たら、無性に良い仕事がしたくなる。

おえかき帳

そのいとこの絵が上手いことを知ったのは、私が5歳のときだ。いとこは小学4年生くらいだったと思う。
私は大家族のくせに人が集まる場所が苦手で、正月はよく一人、部屋の端っこで絵を描いていた。とはいえ私が描くものなんてお花とか蝶々とかがせいぜい良いところで、具体的に何を描きたいか、とか上手くなりたい、とは考えたこともなかった。ただ幼稚園のおともだちや姉や妹よりも、自分の目で見て上手だと思えたら満足していた、そんな時期。

その時も例のごとく絵を書いていたら、そのいとこがいきなり「ちょっとそれ貸して」と私のおえかき帳を指差して言ってきた。彼女とはあまり話したこともなかったからびっくりしたけど、私は無言でそれを手渡した。

すると、それからものの数十秒で、彼女は一人のイケメンアニメキャラを完成させたのだった。

正直それが何のキャラだったかは忘れたし、その頃は言われても知らなかったと思うのだけど、ただそれがもう、べらぼうに上手い。線も、描く対象すらも、私とはベツモノ。
兄弟と比較されてはヘソを曲げる私だったけど、その私が「あ、レベルが違すぎる」と感じて悔しさも出ないくらい、いとこは上手だった。


描いていない、訳がない

先月、93歳になる祖母と、そのいとこ親子と旅行する機会があった。祖母もそろそろ最後の旅行だろうということで、房総をぐるりと回るコースで、そのいとこも休みを取って参加してくれていた。
彼女は正月の集まりに来ることは少なくなっていたし、その後お互いどう過ごしていたかは知らなかったけど、旅行ではまるで嘘みたいにスラスラとお互いの話をした。
多分、それぞれ色んなことを経験していた。

その夜飲みながらの会話の中で、私は自然と、本当に自然と「そういえば最近は絵、描いてないの?」と聞いていたのだった。

私にはそのとき、彼女が「絶対に絵を描き続けている」という謎の確信があった。途中でその道を諦めていたとしても、これだけ創作ツールが溢れている世の中で、彼女が描くこと自体を放棄するなんてことはありえない、とまで思っていた。

私が指している「最近」が、20年前から今にかけてを指していることは、彼女に伝わったらしかった。

「ずっと、、は描いてないかな。でも、前は結構、イラストとか、好き勝手描いてたよ」
「見せて!!!」

多分かぶせ気味で言っていたと思う。もちろん私にも、彼女の言う「前」がここ数年、SNS上で自分の創作物を見てもらえるようになってからのことであると、容易に理解できた。


彼女のスマホのカメラロールには、実にいろんな種類のテイストの絵があった。
それが本当に、ドンピシャで私の好みだったのだ。

「お金払うから、2種類、描いて欲しい」
私はつい、その場でお願いしてしまっていた。



振れ幅

2種類と依頼したのは、10年以上変えていないLINEのアイコンをそろそろどうしようかと考えていたことと、本名のLINEアカウントとは別名義でnoteを使っているから、それも何か欲しいなあとぼんやり思っていたからだった。

拙い言葉で「あの、こんなイメージで、その、用途はこれで」と私が伝えたことを、彼女は実に的確にキャッチし、修正も対応してくれた。

それで完成したのがこちらのイラストである。

完成品を見た瞬間テンション爆上がり。

すげー!2つとも全然テイストちがーう!すげー!
それぞれオーダー内容違うからそうなんだけど。それでも、それに対応できるのがまずすごいし、振れ幅大きーい!

っていうか可愛すぎないか。可愛すぎないか!!?

実物の私は、ツレから「ドワーフ族」と表現される程度には、ちんちくりんだ。そのちんちくりんが、今、こうして超美形の仕事できる風の女と、ほんわかヘルシーな女の子に生まれ変わった!!!

控えめに言って最高。
最強のアバターを手に入れた気分。

いとこに感謝とイラスト代を送りつつ、早速その日のうちにイラスト①をnote用に、イラスト②をLINE用に設定してみた。

やべえ、満足感半端ない。

実は学生の頃はアイコンをコロコロ変える人種を軽く軽蔑していた。なんだよポリシーねえな、くらいに思っていた。
ごめんなさい、かつてのその人たち。
今は中身があればその見た目はなんだって良いと思ってるよ。本当だよ。

私は家族のLINEグループでもこのイラストを自慢し、いとこの母親に自慢し、祖母にも自慢して、数少ない友人にもまざまざと見せつけてやった。

「可愛いだろ?」
「やべえだろ?」
「可愛いって言え。言えよーう!」
口裂け女でも多分もう少し柔らかい言い方をすると思うけど。

でも実際、自慢しながら、嬉しかったのと同時に自分の背筋も伸びたのだ。いとこの絵に対する「好き」という気持ちにも、テイストの幅広さにも。

彼女は仕事としても趣味としてもイラストのオーダーは受けていないと言っていたけど、完成したものを見てこんなに喜んでいる私がいる以上、紛れもなくこれは「良い仕事」だと思った。

私もこのアイコンに見合う書き物をしていきたいとも思ったし、仕事であれば、いとこのようにオーダーに最適なものをお返ししたい。



良い仕事を見ると、無性に良い仕事がしたくなるなあ。

あー。ちんちくりん森逸崎、今日もがんばろう。


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