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かわいい、は誰?

私の姪孫てっそんの話である。
先日この子の親、つまり私の甥夫婦が流行り病にかかり、その間私の家で預かっていたことがあった。

(姪孫についてはこちらを参照)


姪孫は今2歳。言葉を少しずつ覚え始め、意思表示もしっかり行う。果物を頬張り、野菜に嫌な顔をして吐き出し、お菓子の袋を見つけるとすかさず指をさして「ちょうだい」と言い、あげないでいると泣きやがる。
それなのにむかつくどころか愛嬌たっぷりで憎めない。

中でも一番微笑ましかったのは彼女のナルシスト具合だった。なにしろ鏡を見る度に「かわいい!」と舌足らずな言葉で人差し指を鏡に向けているのだ。
洗面台の鏡を見て「かわいい!」、玄関のところにある全身鏡を見て「かわいい!」、消えたテレビの画面に映った自分を見てまた「かわいい!」。

おお、お前中々にいいメンタルだ。

そうだぞ、お前は可愛いんだぞ。自信持っていけよ。あともう少ししたら社会たにんの中で揉まれて言えなくなっちまうかもしれないからな。今のうちに言っとけよ。

その夜、この姪孫の祖母にあたる人物、つまり私の姉からテレビ電話がきた。

例のごとく彼女は、
「●●ちゃーんどちたのー??ご飯食べたのー?」
「猫見るー?にゃんにゃんだよ、にゃんにゃん」
といった具合に孫にメロメロなのだけど、驚いたことに、スマホに映った姉を指差して姪孫はいきなり「かわいい!」と言い放ったのだった。

それもしきりに「かわいい!」「かわいいがいる!」「しゅごいねえ!」と興奮気味である。

おいおい、もう自分より可愛いと思う対象を見つけたのかよ。

でも姉ちゃん今、風呂上がりでスッピンにメガネでタオルターバン巻いて、二日酔いの柴田理恵と大久保佳代子を足して2で割った感じの風貌なんだけど。(柴田理恵と大久保佳代子に失礼)  

まあ価値観は人それぞれだよね。
よかったね、姉ちゃん。

そんなこんなで、甥っ子夫婦が流行り病から復活して、姪孫を届けに行った時である。

私は例のできごとについて「そういえばそんなことがあったんだよ」とその子の様子を奧さんに伝えた。

「だからさ、姉ちゃんのあの風貌のどの辺を可愛いって思ったんだかが不思議すぎてさ」
と私が笑いながら話すと、甥っ子の奧さんは申し訳なさそうに言ったのだった。

「ごめんなさい実は、私と旦那があまりに普段この子のこと可愛い可愛いって言うもんだから、自分の名前を『かわいい』って認識してしまっていて…」

は!!???

「だから普段●●さん(私の姉)とテレビ電話するときもそうなんですけど、テレビ電話の小さいワイプに映った自分にも、指差して『かわいいがいる!』って言うんですよね…」


え、待ってそんなことある!!??
名前の認識まで変わることある!!?


でも、そうだ。確かにそうも言っていた。
「かわいい」だけではなく「かわいいがいる」

つまり彼女はずっと、鏡に映った自分の容姿を見てナルシスト的に「かわいい」と言っていた訳でも、ましてや柴田佳代子になった姉のことを可愛いと思ったわけでも決してなかった。

そう、ただシンプルに「自分がいる!ねえ、自分が映ってるよ!」という意味だったのだ。



なんなんだ我が姪孫。可愛すぎかよ。
自分の名前を「かわいい」だと思ってるのはヤバい気もするけど、あんたら夫婦が溺愛していることがよく分かって嬉しくなったよ、この親バカが。

あー今日も今日とて海おばちゃん、愛嬌たっぷりのこの子に貢いじゃおう。



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