アカデミック読書会(第41回)- 貴金属の流入が経済に及ぼした影響 -
読書会概要
3月10日(木)20:00~21:30、アカデミック読書会(第41回)を開催しました。オンライン(Zoom)の読書会です。参加者は3名(うち、お一人は初参加)、ファシリテーター1名の合計4名で進めていきました。
課題本は、フェルナン・ブローデル『地中海II』「第II部 集団の運命と全体の動き1」「第2章 経済 - 貴金属、貨幣、物価」。テーマは、「貴金属は16世紀の地中海地域の経済にどのような影響を及ぼしたか?」です。
アメリカから貴金属が地中海地域に流入したことで、物価が上昇、インフレが生じました。賃金の上昇が追いつかず、労働者の実質賃金が下がってしまいました。地中海地域は通貨不足に陥り、17世紀には悪貨が出回るようになりました。
スペインでは、フェリーペ2世が財政を破綻させ、11年後には、息子のフェリーペ3世が財政を破綻させてしまいました。しかし、その教訓が国際資本主義の始まりだとブローデルは述べます。(pp.270-271)
今回の読書会では、アメリカから大量に入ってきた貴金属が物価の上昇を引き起こし、スペインを破綻させる一因になったことがわかりました。
また、参加者のかたから、歴史を学ぶのは楽しい、現代を知るには歴史を学ぶ必要がある、というご感想もいただきました。現代と過去は断絶されたものではなく、過去からの積み重ねで、いまの状況が生まれていることが、改めて理解できました。
ご参加されたみなさまには、厚く御礼申し上げます。
読書会詳細
【目的】
読み込んで当時の貴金属についてしれたらよい
通貨はどれくらいあったら経済は回るか、知見がほしい
著書に少しでも触れられたらよい
【問いと答えと気づき】
■Q
流入した貴金属の量はどれくらいですか?
■A
ギニアから年に700キロの金
アメリカからは年4トン以上の金
スーダンからも来ている→1トンくらいあった
■気づき
大した量ではない
■Q
16世紀になぜ価格革命が起こったのか?
■A
大量の貴金属がインフレを引き起こした
銀行や企業家がダメージ
メキシコ(ポトシ銀山)の銀の流通が地中海に入ってきた
→アジアにも入ってきた→アジアの絹に変わった
■気づき
一気に貿易が広がった
商工業が発展した
封建的な階級が衰退した
激動の16世紀
金銀が世界に流通した
金の交換価値が高い(銀の算出が増えた)
紙幣のものがこの時代に生まれた、流通しはじめた
■Q
・地中海において、貴金属は経済に対していかなる影響を与えたか?
■A
貴金属の種類、地域、価格によって、影響は多様性がある
■気づき
多様性がある(一枚岩ではない)
【対話内容】
■貴金属の流入とインフレ
スペイン王家:贅沢三昧→資本家から借りた→返せなくなった
金銀や紙幣ができたので、好き放題やって失敗した
価格が起こった、貨幣価値の低下がどうして起こったのか?
→新大陸からの金銀が入ってきた
→必然的にインフレが起こった
→スペインが中心になって、ダメージを受けている
■物価上昇と実質賃金
物価の伸びに対して、賃金の上がり方が遅い
金貨や銀貨で労働者には支払っていない
→実質不可能
→貿易や資本家のところで流通しているのではないか
→労働者には銅貨で払った
■「移動」の意味
貴金属は経済に対してどういう影響を与えたのか?
→地域、種類、価格
→物とか人の移動しかなかったのか? 移動はそこまで地中海で大切だったのか?
→第1章で空間の話があった移動は地中海では大きな意味があった
→物が動く、その反対で貨幣が動く
→他にも説明する概念があるのではないか? 戦争とか、災害とか?
→そんなに移動にプライオリティが高いのか?船や馬で移動で取引していた
→いまは電子取引になっている、移動しなくてもできる
→「物々交換」から「金銀で貿易」
→物流が盛んになった、世界につながっていった
→自分が欲しい物を手に入れるのに、貨幣を通じて行った
→かかる手間が減っていった
■お金の価値は信用
いまはお金自体に価値はない
→金や銀は価値がある
→金や銀をどれだけ得るかが価値があった金や銀は、東西でどうしてお金として価値があったのか?
→鋳造や貯蔵ができる
→小麦などだと、腐る、大量に貯めなければならないいまは信用貨幣、国を信用できるかどうか
景気を支えるために紙幣を刷りまくっている
→信用がなくなれば、一気に暴落する16世紀には改鋳、悪貨もあった
市場に悪貨が出回る→良貨を駆逐する
移動ではなくて、戦争、災害、政治で説明できそう
→第III部でやっている
→だから、第II部は移動
■スペインの破綻と国際資本主義の始まり
フェリペ2世→フェリペ3世:11年で再度破産(p.263)
改鋳(悪鋳)もいまとなっては仕方のない面もある
スペインは、結局、インフレで自らのクビを締めた
→当時は、名目賃金や実質賃金のきっちりしたデータがなかった
→インフレを理解していなかった2回の破産が教訓にはなっている(ジェノヴァ)pp.270-271
→国際資本主義のはじまりスペインは借金取りに追われている
お金も人も移動している
当時は見えていない部分もある
→資本主義と名付けてもいなかった
→実際の社会のシステムはあるけれど、人間は認識していない資本が循環する仕組みの原型ができあがっていった
資本主義は交換から始まった、市場ができたときから始まった
船にも保険があった
→保険料はそれほどかかっていない、うまくいっていたのではないか小さな工夫がシステムにつながった
→成り行きでできた商人が資本主義が発展させたのではないか?
→帳簿をつけたり、簿記の原型ができたのではないか?貸借対照表的な考えもこの頃からあったのではないか?
王室のバランスシートは、債務超過になっているのではないか?
→貸す側も考えないといけないその当時は、手形(負債)などを発行していた
最初は、徴税権を持つ人に貸していた
【気づきと小さな一歩】
■気づき/学び
16世紀のインフレが結果的に資本主義の発展につながった
インフレは経済にとっていいこと→スペインにとっては苦しかった
■小さな一歩
金を買う(金は希少価値が高い)
■気づき/学び
訳がうまい、難しくない→読み進めるのが楽しい
話を聞いてみても、地中海はよいと思った
塩野七生の本に近いと思った、そう思って聞いていた
■小さな一歩
『地中海を読む』(ダイジェスト本)を読む
■気づき/学び
当時社会のなかでは賢いと思われた王家や商人でも、失敗している
■小さな一歩
荒唐無稽なアイデアでも、口にだしたり、(他人のアイデアを)受け入れることを意識したい
専門家も疑ってみる
【読書会で紹介された本】
『地中海』のダイジェスト版とのことです。以前、アカデミック読書会で課題本とした『近代世界システムI』の I. ウォーラーステインも、執筆者の一人です。
I. ウォーラーステイン他 著『『地中海』を読む』
次回の読書会のご案内
【開催日時・場所】
2022年3月24日(木) @ZOOM
【テーマ】
16世紀の地中海では、どのような貿易が行われていたのか?
【課題本】
・フェルナン・ブローデル著、浜名優美訳『地中海II 集団の運命と全体の動き』「第3章 経済 ― 商業と運輸」
【詳細・申込み】
※『地中海I』「第I部 環境の役割」まとめ動画:
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