アカデミック読書会(第30回) 開催レポート - 世界システムかプロテスタンティズムか -
読書会概要
8/26(木)のアカデミック読書会では、イマニュエル・ウォーラーステインの『近代世界システム I』を課題本とし、「資本主義企業にとって国家はどのような役割を演じたか?」をテーマに対話しました。
対話の前半では、国家と貴族とブルジョワジーが資本主義の成立過程でそれぞれどのような役割を演じたのでしょうか? そこには相互依存的な関係も、敵対的な関係もありました。貴族とブルジョワジーの境目があいまいになったとあります。
対話の後半では、宗教改革は資本主義の成立にどのように影響したのかが論点となりました。資本主義が発達した国はプロテスタントの国でした。ウォーラーステインの「世界システム」とウェーバーの「プロテスタンティズム」(『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』)のどちらが資本主義の始まりだったのでしょうか? ウォーラーステインは、「思想史的には偶然としか言いようのない諸事情からプロテスタンティズムは、宗教改革時代には、強力な国民国家の中で商業資本主義の発達を促す諸要因と混じり合っていた。というより、もともとプロテスタンティズムは、このような諸要因が強く作用している諸国でこそ発展したのである」(『近代世界システム論I』「3 絶対王政と国家機構の強化」)と主張します。ウォーラーステインの見解が妥当なのか、ウェーバーの見解が妥当なのか、それともほかの説が妥当なのか、それぞれの説を読み、自分で考察していくことが必要になってくると思います。
今回の読書会は、資本主義の起源に迫る、白熱した意見が交わされる読書会でした。ご参加されたみなさまには、厚く御礼申し上げます。
読書会詳細
【目的】
・新興勢力(企業)が国家とどのように関係性を得たのか?
・新しい規範の誕生や変化を理解したい
・国家、企業、領主、農民にもいろいろある。ブレたところを確認したい
・近代世界システムの成り立ち、経済と政治を理解したい
【問いと答えと気づき】
■Q
・資本家と国家機能の担当者(官僚)の間で、政策の実行するときの談合は実際にあったのか? それとも阿吽の呼吸なのか?
■A
・169ページ(名古屋大学版):国家と資本家の関係
・国王・官僚は資本家ではない、貴族・ブルジョワジーが資本家
■気づき
・特定できない
■Q
・資本主義的経済がどのように発展したか?
■A
・宗教と経済の面から考察(166ページ、名古屋大学版)
・貴族とブルジョワジーは区別できない
■気づき
・ヨーロッパにおいて資本主義が発達した理由:宗教、価格革命
・資本の根源的蓄積、富が偏在(主導権を握った国が変わっていった)=宗教改革が起こった地域と一致
■Q
・新興勢力である企業をなぜ重用しようとしたのか?
■A
・国王、貴族、ブルジョワジーのバランスを取ろうとした
■気づき
・権力闘争を利用しようとした
・相互依存もあった、新興勢力が既存の権力層に溶け込んでいった
・椅子取りゲーム的
■Q
・投資のもととなる規範として、明日はもっと豊かになる、に対して国家はどんな役割を演じたか?
■A
・私有財産の保護、規範を強化した
・国家事業、企業を重用して、あすはもっと豊かになる、をより広めた
■気づき
・トヨタのCM、免許を取りましょう、母集団を増やす、規範を広めた
【対話内容】
・ブルジョワジー、資本主義によって成り上がった人たち?
→地主、貴族が変化した
→換金農作物を交換することで資本を蓄積することを覚えた人たち
→イギリスのブルジョワジーとは違う
・商人はブルジョワジー?
→商業資本のブルジョワ、時代で定義がずれている?
・現代を見れば、政府の要人が財界人と会食する
→現代は国家と資本家の役割は見えている
→16世紀:売官制度、身の保身で資本家よりのことをやってきた
・商人と国王は敵対関係にあった
・企業活動を国家は奨励した
・コストベネフィットで見ると…、利益にも障害にも
・官僚は自らの信じる政策を実行したと言えなくはない(常に取り入っていたわけではない、信念があったのでは?)
・資本主義:統制型(中国、官僚制度、政治的資本主義)、自由型
・『資本主義だけ残った』みすず書房、官僚によって効率よい運営ができた、特殊な資本主義
・アメリカ型は富の偏在が起こっている(リベラル能力型)
・なんでそもそもそれをしようとしたのか?
→治安を維持しようとしたのか?
→中国は、旧社会勢力を排除しようとした、外国支配を覆す、新たな資本主義を作った
→16世紀、地主が衰退した
→経済活動が安定していることが最優先(時代は問わない)
→そのために政治がある、国家機構がある
→農業、商業、産業のときにはそうなのかも
→知識社会の場合は?
→どこがどこを支配しているのか? どこに富が集中しているのか?、が大事
→富が集中する、安定的に集中していればよい、不安に感じると変える
・自由な資本主義は賃金の上昇を目指す→資本が外に移る、資本家が墓穴を掘る
・銀による価格革命(インフレ)→資本が国家に蓄積された→新たな投資へ
・富を集めたり、追及する、倫理的によいこと(仏教、キリスト教ではいけないことと言われた)ということが広まった
・日本は「金儲けは悪いこと」という感覚の人が多い
・キリスト教は投資をしないことをいさめている
→ウェーバーの説は逆転している(余剰ができたから、プロテスタンティズムは後押しされた、というのがウォーラーステイン)
・中核の国は結果としてプロテスタントの考えが合っていた
・フランス人で家族システムを考えた人(エマニュエル・トッド)→国民性が共産主義にあっていたから、そうなった
・社会科学はどういう見立てがすっきりするか、が分岐点になる
・解釈によっていろいろな見方がある
・ウォーラーステインはウェーバーの理論を批判しているわけではない、理論を信奉している人たちに対して批判している
・ウォーラーステインとウェーバーの学説の対立は振り子のようなもの
・ヨーロッパ人はシステムを作るのがうまい、日本人はわかるように言語化して提示できていない
【気づきと小さな一歩】
■気づき
・社会にとって安定が大事
■小さな一歩
・コロナが主なテーマ、知識、専門家、ガバナンスについてツイッターでつぶやく
■気づき
・国家という組織は規範を発生させたわけではないけど強化していた
■小さな一歩
・規範の原点を突き止めるのは難しい、どのように強化されたかのほうに着目したい
■気づき
・資本主義企業は労働力を商品として売る者、異議申し立てが起きない程度に自分たちの資本維持を目的として活動している
・動的に観察し分析しなければならない
■小さな一歩
・『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』をきちんと読まなければならない
■気づき
・国家は生産性の上昇をもたらす活動を後押しした→資本の蓄積→資本主義を後押し
・晴天を衝く:金融の発展と産業の発展を取り入れないと大変なことになる
・資本の蓄積を起こさせる、国家が後押しする
・16世紀に発端があった
■小さな一歩
・日本人は投資を嫌う
・投資リテラシーをもっと学ばなければならない、後押しできる活動をしたい
【読書会中紹介された本】
下記は『新しい学』の著者、山下範久氏の紹介ページです。
次回の読書会のご案内
・開催日時・場所:2021年9月23日(木)20:00~21:30 @ZOOM
・テーマ:アムステルダムはどのようにして「世界経済」の中核となったのか?
・課題本:イマニュエル・ウォーラーステイン著、川北稔訳『近代世界システムI ― 農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立 ―』(岩波現代選書、岩波モダンクラシックスは『近代世界システムII』) ※「岩波現代選書(岩波書店)」「岩波モダンクラッシックス(岩波書店)」「新版(名古屋大学出版会)」どれでもOK
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