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汗と血と硝煙の似合うスターたち :男優編 ~ 林冬子に倣って②
最初に
あらためて、「林冬子に倣って」の意味を伝えておきます:
80年代、芳賀書店より出版された「激動する'60年代~男ベスト60」という映画本は、主に60年代の映画で活躍した欧米映画スター男優たちの特集版で、林冬子という方の編集・執筆でした。この本の最大の魅力は、林冬子さんによる、俳優たちの特徴を的確に分析し、女性ならではの視点で彼らの魅力を見事に描写した点です。
たとえば、スター男優たちの特徴をカテゴリー化して、次のようにまとめて見せる手腕が素晴らしいのです:
アクション派 / 汗と硝煙の似合う男たち
クリント・イーストウッド、スティーブ・マックイーンなど
男臭く、荒々しく、ほこりっぽい彼らは、ひっくり返せば孤独で、寂しがり屋なのかもしれない。荒野を駆ける西部劇のヒーローから洒落たスーツに身を包み、秘密兵器をいじくるスパイまで、明日の生命の保証のない人生。一匹狼の潔さ、生や金銭への執着、本音をさらけ出した生きざまに乾杯!
以上のような、林冬子さん独自の分類に強く刺激を受けて、私なりに、今回のような一連の記事を書いてみたのです、・・。。
本題に入ります
前回の女優編では、そもそも、「汗と血と硝煙」を全く好まないし、似合わないスター女優たちが大半なので、作品の数は少なかったのでした。
しかし、男優スター主演のアクション映画となると、手を変え品を変え、無数に量産され続けてきたので、逆に候補選びが大変になりました。
そこで、史劇、西部劇、戦争、架空の近未来SFものは省き、20世紀以降の現代を舞台にした映画に限定してセレクトしました。
ジョージ・ペパード George Peppard
華麗なる暗殺:The executioner
1969年アメリカ
70年代にTV放映吹き替えで見た、第2次世界大戦サハラ砂漠が舞台の戦争映画「トブルク戦線」で、颯爽として粋で勇敢な軍人役のジョージ・ペパード、火炎放射器を背負って敵戦車を数台炎上させ壮烈な最後を迎えるところなど、まさに「汗と血と硝煙の似合う」男で、まだ小学生だった私には憧れの男性像となりました。
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そんな彼が演じた、原題は「死刑執行人 」というスパイ映画「華麗なる暗殺」では、ロンドンとチェコを舞台に、非情と裏切り、陰謀と殺し合いの果てに、愛と信頼を失ってゆく諜報部員の、孤独と虚しさに耐えながら、真相を究明しようともがく姿をペパードは好演しています。映画冒頭に、黒幕との銃撃戦の終わったあとの惨状を見せ、そこに至る過程をじっくり描いて、ラストにその銃撃戦の開始から再び見せる、という演出が新鮮でした。
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補足:「ティファニーで朝食を」に大抜擢!
オードリー・ヘップバーンの「ティファニーで朝食を(1961年)」で相手役の作家に抜擢、次世代のハリウッド・スター有力候補であったペパードですが、その後は、「非情の切り札」・「野良犬の罠」などハードボイルド系B級アクション映画でのタフでニヒルな男というイメージが似合うようになりました。日本の俳優では、佐藤浩市にちょっと似ている感じです。
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リー・マーヴィン:Lee Marvin
ポイント・ブランク/殺しの分け前
Point Blank 1967年アメリカ
この映画は、フィルム・ノワールとも言うべき独特の雰囲気に包まれ、斬新な映像と凝った音響による実験的な創りです。マーヴィンは、仲間の裏切り、妻の不貞、裏組織の暗躍に巻き込まれつつ、寡黙で冷徹な面差しの奥に暴力性と猜疑心をじっと飼いならしている、そんな屈折していぶし銀のような男の美学を体現しています。
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ブラック・エース:Prme Cut
1972年アメリカ
敵対するギャング組織の抗争を背景に、凄腕の雇われ殺し屋マーヴィンが手下とともに敵の本拠地の「養豚場」に殴り込みをかけるという設定。
全員、背広を着こんで車に乗り込み出陣。皆一様に押し黙ったまま、やがて訪れる銃撃戦に緊張した表情。おもむろにマーヴィンがケースを開けて鈍い光沢のマシンガンを取り出すと、黙々とマガジンを装填して銃の調子を確かめる、・・・といった流れで、観る側も緊張感が高まります。
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それにしても、マーヴィンの存在感は凄い!駆け出しの頃は悪役が多かったようですが、60年代半ば以降は、その特異な風貌と長身痩躯を活かした映画「特攻大作戦」・「北国の帝王」などで強烈な存在感を打ち出しています。
補足:アカデミー主演男優賞受賞!
マーヴィンは、コメディ西部劇「キャット・バルー」(1965年)で、ふざけた酔っぱらいの殺し屋を演じて、アカデミー主演男優賞を受賞していますので、ただのアクションスターでは終わらなかったのでした。
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ニック・ノルティ:Nick Nolte
ダブルボーダー:Extreme Prejudice
1987年アメリカ
ニックがまだ30代の時に主演したベトナム帰還兵の話「ドッグ・ソルジャー」も印象深かったのですが、その後、少し肥満気味の体型と化していたのを、引き締まった筋肉質の姿にまで鍛え上げてのぞんだのが、この「ダブル・ボーダー」です。原題 Extreme Prejudice は、「問答無用・裁判なしで始末」の隠語表現らしいです。
ここでニック演じるテキサス州保安官は、メキシコ国境沿いに無法地帯を築く麻薬組織の掃討に明け暮れており、まさに西部劇の主人公さながらに、愚かしいほど頑固で喧嘩っ早く、融通の利かない正義感の塊のような男。言うことを聞かない悪党どもには容赦なく鉛の弾丸を撃ち込んで黙らせる、・・そういう人物像を、ニックは見事にはまって演じ切っています。
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敵のアジトに潜入して、主人公以外は全員絶命するようなラストの激烈な銃撃戦では、撃たれても痛みに耐えながら、逃げずに正義を貫く男の意地を示そうとする戦士たちの涙ぐましい姿に、画面を見ている男性観客たちは痛切に共鳴して、心の中で叫んでいるのです、「俺もやるときはやるぜ」と・・。
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補足:「ワイルド・バンチ」へのオマージュ
この「ダブル・ボーダー」の監督ウォルター・ヒルは、サム・ペキンパー監督の名作西部劇「ワイルド・バンチ」へオマージュしている通り、スローモーションや細かいカットのつなぎと、断続的に挿入される音響とが呼応し合って、画面に絶妙な流れとリズムが生じています。
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ブルース・ウィリス: Bruce Willis
ラストマン・スタンディング
Last Man Standing 1996年アメリカ
監督はペキンパー仕込みのアクション演出を得意とするウォルター・ヒル、音楽はスライド・ギター独特の奏法で有名なライ・クーダー、舞台は禁酒法の吹き荒れる30年代アメリカ、砂漠地帯の架空の町で二つのギャング団が抗争中という設定で、黒澤監督の「用心棒」を翻案にしたとのこと。
ふと町に立ち寄った流れ者のブルース、邪魔者扱いをして車を壊したチンピラに、二丁拳銃で全弾撃ち尽くす仕返しをしたところから、対立するギャング団の間に割り込んで、打打発止と手練手管の攪乱を引き起こしたあげくに、膨大な量の銃弾が飛び交う大量殺戮の過激な銃撃戦へと突き進んでゆきます。
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ここでのブルースは、ひたすら寡黙でニヒルな風情を漂わせる孤高の一匹狼、銃を持たせたら相手は死を覚悟するしかない凄みが全身にみなぎっていて、「ダイハード」のマクレーン刑事よりカッコいいと思うのです。
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補足:男らしさの美学と幻想
敵地に乗り込む前に、ホテルのテーブルにズラッと並べたスペアの弾倉に黙々と弾を込めてゆくブルースの姿には、まさに「汗と血と硝煙」そして「闘いと孤独」しかない男の人生が滲み出ていました。
そういうスクリーン上のヒーローの姿に、「男らしさの美学」という幻想を勝手に抱いて惚れ込んでしまう男たちがこの世にはいるのです、・・。
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ラッセル・クロウ:Russell Crowe
プルーフ・オブ・ライフ:Proof of Life
2000年アメリカ
1964年生まれで現在60歳、1997年33歳の時の「 L.A.コンフィデンシャル」での粗暴で無頼な刑事役で一躍注目された頃に比べ、ネットでの近影画像で見る限り、まるでサンタのおじさん風の体型になっています。、。
もっと若い頃のラッセルの魅力が強く押し出された作品は、2000年、36歳の時に主演した人質救出アクション「プルーフ・オブ・ライフ」です。
彼の役柄は保険会社の依頼で危険の伴う現地調査や交渉を行う仕事人(元軍人)です。南米で発生した、身代金目当ての反政府ゲリラに拉致された外資系企業のダム建設技師を開放すべく、その妻(演じるはメグ・ライアン)と協力しながら奔走するうちにお互いに魅かれ合う物語です。
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夫は保険適用外とみなされてショックを受け、何とか自腹で身代金を工面しようとする妻を見捨てることができないラッセルは、昔の軍隊仲間とともにジャングル奥地のゲリラ基地を急襲、人質を奪還、夫を無事に妻の元へ送り届けます。
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夫婦二人を乗せた車を見送りながら、ラッセルが実に微妙で複雑な表情をします。愛のために愛を諦めた男の姿を、カメラは徐々に遠景でとらえながらズームアウトします。見ていて思わず胸がつまる見せ場です。私はこのシーンを見て、逞しく優しく男らしさにあふれる男を演じきったラッセル・クロウの、スターとしての魅力に脱帽したのでした。
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余談:アカデミー主演賞と不倫関係
ラッセルといえば、古代ローマ軍の闘将を演じてアカデミー主演男優賞に輝いたR・スコット監督の2000年「グラディエーター」が代表作でしょうが、2007年の西部劇「3時10分、決断のとき」で演じたアウトローの、非道で悪辣な無法者の表情の奥にチラッと知性と人間味が光って、いい顔つきになるところなど、この役者はほんとにスターだな、と感じました。
この「プルーフ・オブ・ライフ」撮影中に、ラッセルは、共演したメグ・ライアンと不倫関係となったことは有名なゴシップです。映画の最後、夫の面前であるゆえに、お互いは本当は魅かれ合っているのに、ラッセルがその思いを振り切って別れてゆくのですが、プライベートでは、メグ・ライアンは離婚するも、ラッセルと結ばれることはなかったのです。
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終わりに
アメリカ映画ばかりのセレクションになってしまいました。「山猫は眠らない」のトム・べレンジャーや、「トランスポーター」のジェイソン・ステイサム、ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」で名を挙げたチョウ・ユンファも、まさに「汗と血と硝煙の似合う」男たちですが、出演作が多すぎて選びにくいので今回は見合せました。
いずれは、日本の男優たちのこともまとめてみたいです。たとえば、世良公則「クライムハンター」、渡瀬恒彦「影の軍団 服部半蔵」、中井貴一「壬生義士伝」、真田広之「亡国のイージス」、緒形拳「激突」など、・・。