君に届かない | #青ブラ文学部
仕事帰り、駅のホームでアナタを見かけた。
「お疲れさまです」
「隣の駅ビルで買い物するんだ。お茶でもどう?」
なんとなくついていった。
アナタに興味があったから。
アナタが何を注文したかは覚えていないけれど、わたしはレモンスカッシュをご馳走してもらったことをハッキリ覚えている。
何で誘ってくれたのかはわかっている。
それはアナタもわたしに興味があったから。
カフェをでて、アナタの後ろをついていくと、迷惑そうに言ったね。
「なんでついてくるの?オレのこと好きなの?」
なんてストレートに聞く男なんだ。
失礼にもほどがある。
「好きじゃないよ!ご馳走様でした~」
後ろを振り返らずに駅へ向かった。
見透かされてしまった恥ずかしさと悔しい気持ちで心が潰れそうだった。
なんという敗北感…
悔しいけれど好きになっていた。
絶対にこちらから声をかけないと決めた。
◇
「飲みに行くぞ~」
アナタの参加する飲み会は断り続けた。
断れば断っただけ、誘われるようになり、ずいぶん経ってから参加するようになった。
帰りのタクシーはアナタと乗り合いになる。
いつしかタクシーの後部座席で二人は手を繋ぐようになり、何度目かでキスもした。
でも…
◇
「子ども産まれるんだ」
この想いはどこへやればいいの。
届いてると思い込んでいた想いは、届いていたのかもしれないけれど、無惨に捨てられた。
「そうなんだ。おめでとう」
わたしは何でお祝いの言葉なんて述べているのだ。
罵倒するとか、泣き崩れるとか、もっと女性らしい行動があっただろう。
届かなかったアナタへの想いは、いつしか色褪せて、今では見えなくなってしまった。
幸せですか?
わたしは幸せです。
(了)
青ブラ文学部の企画に参加しました。
山根あきらさん
いつもありがとうございます😊
『君に届かない』は『君に届け』をリスペクトした作品とのこと… 読んでみたいです。