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新刊『新しい自由論』刊行のお知らせ

この度、文藝春秋社より新刊を上梓しました。
『新しい自由論』という本です。

”パンデミックを終わりにするための”という副題がついていますが、ウイルスやワクチンの解説本ではありません。

各国のパンデミック対策、なかでも対策を徹底させるプロセスや方法を見ることを通じ、パンデミックによって問われた民主主義や自由の価値、意義といったものについて考える本です。

対策を取ることを通じ、また対策を取ったにも関わらず、パンデミックで失われたものはたくさんあります。命や健康、お金や仕事、友人や家族とのつながり、友人や家族そのものを失った人もいるでしょう。わたしも例外ではありません。

誰もが少なからぬ影響を受けたパンデミックとは、世界にとって、日本にとって、いったいどんな「時代」だったのか――。それを書きたい、書き留めておきたい。そういった思いからもこの本を書きました。

以下、この本のコンセプトが分かるよう、前書きから一部を抜粋しますので、どうぞご覧ください。

二〇二一年の夏頃から、わたしは各国の新型コロナウイルス対策を追うことを通じて、自由や民主主義について真面目に考えようという青臭い取り組みを始めていた。最初に注目したのは、特にアメリカや中国で顕著な「パンデミック対策はウイルスとの戦争である」という考え方や取り組みだった。
パンデミック対策と戦争は、国を挙げて行う必要があるのと同時に、国民の自由や権利を制限しなくてはならない場面が出てくるといった点で似たところがあった。

欧米各国は、行動制限やワクチン接種の義務化を自由権の侵害だと主張するデモに手を焼いていた。では、国は国民との間にどうやって合意を取り付け、政策を進めていくのか。つまり、民主主義はそこでどのように機能するのか。わたしの関心はそこにあった。パンデミック対策を戦争と呼ぶのであれば、ウイルスと戦うためのワクチンは軍事兵器と同じ位置にある。各国がワクチンをどのように手に入れ、使っていくのかにも興味があった。

もちろん、こうしたことに関心を持った背景には、国が国民の行動を制限するのではなく、国民が国からの要請で「自粛」するという、極めて独自の方法で新型コロナを抑えようとした日本の存在があった。一九四五年の第二次世界大戦敗戦以来、戦争や全体主義を想起させるような政策は民主主義に反するとして、すべて排除してきた日本らしいやり方だった。国産ワクチンの早期開発は実現せず、東京五輪という大国際イベントを控えながら、外国産のワクチンの確保にも出遅れ、集団接種に消極的だったのも独特だった。

ところが、二〇二二年二月、ロシアとウクライナとの間に本物の戦争が始まると、パンデミック対策をウイルスとの戦争とする考えも、行動制限やワクチン接種は自由や民主主義を侵すものという考えもとたんに空虚で薄っぺらな話に思えて、はたりと筆が止まってしまった。

同じ頃、ドイツでは毎週のように行われていた反ワクチンデモも止まった。それまでは毎週のように反ワクチンデモを取材していたわたしも成り行きで、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモに参加することになった。
デモは親の世代のもの、一部の活動家市民のものだと思っていたし、取材することはあっても参加したことはなかった。人生で初めて参加するデモが、反戦デモだとも思っていなかった。テレビでは連日、破壊された街や家族を失って涙を流す人々の映像が流れ、ツイッターでは死体の山の写真が拡散するようになった。コロナ一色だった世界は、突然ウクライナ一色になった。

「難民列車に乗って――はじめに」(村中璃子『新しい自由論』より)

本のカバーはわたしが撮影した写真です。「雲がきれい」ということで、デザイナーの方がすてきな形に仕上げてくれました。noteを継続して購読して下さっている方の中には、これが何の写真なのかお気づきの方もいるかもしれません。ヒントは下の方に映っている”水”です。

本書にはnoteではオンタイムで読んでいただいた話も出てきますが、1冊の本として読み直していただくと、それぞれの事件の最中では見えなかった、パンデミックという時代の輪郭が見えてくるのではないかと思います。

パンデミックは「終わる」のではなく、終わらせるもの。ポストコロナの時代を新しい気持ちで前に進んでいくためにも、ぜひ読んでいただきた本です。

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