マガジンのカバー画像

文系女医の書いて、思うこと【スタンダード】

noteでわたしが書く記事が大体ぜんぶ読める基本のマガジンです。継続的に執筆を応援してくださる方、わたしの書いた記事を大体ぜんぶ読みたい!という方にお勧め。引用の際には出典のご記…
医学に関するデータやその解釈をいつも最新にアップデートしておくことを通じて命や健康を守りたい、とい…
¥3,000 / 月
運営しているクリエイター

記事一覧

手術からもうすぐ1年、わたしの声はどうなったのか?

顎下の腫瘍の手術から10カ月が経った1月末、ようやくハンブルク大学病院の耳鼻科にある「リハビリ外来」を受診することができた。手術後、わたしの滑舌や声、嚥下には問題が残り、回復のための診察を心待ちにしていた。しかし、その道のりは平坦ではなかった。 もともと半年以上待ちの予約だったが、直前に予想外の事態が起きた。受診の2週間前に電話で確認をとるよう指示されていたので、指示通りに連絡し、日時と持ち物の確認を済ませた。ところが、受診の3日前に「電話がつながらないので予約をキャンセル

音の消えた部屋:ネズミ、感染症、そして静寂

3か月ほどアパートをまた借りしている。人気のカフェの隣にある1階の部屋で、裏は小さな池を囲む森。街中まで直通のバス停まで1分、地下鉄の駅まで5分という素晴らしいロケーションだ。 ところが、ある晩、アパートのキッチンの下を小さな影が走り抜けた。一瞬の出来事に戸惑ったが、数日前に見かけた貼り紙のことを思い出した。「うちにネズミが出ました。他にも出たうちはありませんか?」——貼り紙の主は真上の部屋の住民だった。 ドイツでネズミと言えば「これ」が必須!夜遅かったが、すぐに階上へ向

WHOとCDCの縮小—トランプ新政権の決断が国際保健に与える影響

第2次トランプ政権が発足した初日、トランプ大統領は大統領令に署名し、アメリカが世界保健機関(WHO)から脱退することを正式に表明した。 トランプ氏は前任期中から「WHOは中国の操り人形」などとして、WHOに厳しい批判を繰り広げてきた。特に、新型コロナウイルス発生初期の情報共有やウイルスの起源の調査への協力体制に関し、WHOの姿勢は中国に対して甘すぎると主張。アメリカはWHOを脱退するとまで発言していた。 その後、トランプ氏は大統領選で敗北してバイデン政権となり、再びトラン

医学的に見た、安全に寒中水泳を行うための「5つの具体的ルール」

前回のnote「寒中水泳で風邪を引きにくくなることのエビデンス」では現在、健康に良いとして世界的なブームにある寒中水泳について、そのエビデンスを検討してしました。 今回のnoteでは、「寒中水泳を実際にやってみたいと思った!」という人のために、安全に寒中水泳を行うための具体的なアドバイスを医学的観点から書いてみました。 前回のnoteはこちらです。

「寒中水泳で風邪を引きにくくなる」ことのエビデンス(科学的証拠)

1月から2月にかけての今の時期、日本では全国各地で寒中水泳が行われる。コトバンクによれば、寒中水泳は、元来、日本古来の泳法を伝える各流の水練道場が寒稽古として行なったものであり、「寒中」とは1月5日の「小寒」から2月3日の「節分」までの30日間を指す。寒い中で泳ぐから寒中水泳なのかと思っていたが、寒中水泳には歴史があり、今でも新春や新成人の門出を祝したり、古来の泳法を披露したりといった具合にあくまでも伝統行事として行われることが多い。 ロシア人の6%、スウェーデン人の20%

「麻疹(はしか)は感染すると数年間、すべての感染症にかかりやすくなる」という話についての最新情報

もう10年も前のニュースですが、「麻疹(はしか)は感染すると回復しても向こう2~3年はすべての感染症にかかりやすくなる」という話をわたしのFacebookで改めてシェアしたところ、大きな反響がありました。 そこで今回のnoteではこの話の元論文(2015年発表)を紹介するとともに、その後の研究でさらに分かってきたことについて解説したいと思います。 まず、2015年の論文はこちらです。

¥980

生物医学先端研究開発局(BARDA)が塩野義に開発助成金を提供

米保健福祉省の下部組織「事前準備・対応担当次官補局」の中にある「生物医学先端研究開発局(BARDA)」が塩野義製薬の免疫不全者向けの新型コロナ予防薬の開発に対し、3億7500万ドル(約585億円)の資金を提供するとの発表がありました。 日本語ではあまりニュースになっていないようですが、興味深い話なので解説します。

お酒を飲まない1ヶ月「Dry January」

「ドライ・ジャニュアリー(Dry January)」をご存じだろうか。クリスマスが過ぎて年が明けた1月、健康のために1ヶ月間、アルコールを1滴も飲まずに過ごす、イギリスの慈善団体Alcohol Change UKが始めた健康キャンペーンだ。Dry Januaryが始まったのは2013年。当初は約4000人だった参加者は毎年増え続け、今では世界から21万5千人(2023年)が参加するグローバルなイベントへと成長している。 アルコールの適量はゼロアルコールと言えば、かつては「肝

¥980

悲報:小児用RSウイルスワクチンの開発が打ち切りに

昨年、米モデルナと米ファイザーが高齢者や妊娠中の女性向けのRSウイルスワクチンの開発に相次いで成功し、承認を受けたことについてはわたしのnoteでも折に触れて書いてきました。 特に、小児に直接投与するのではなく、妊娠する女性に接種することで生まれてくる赤ちゃんにを守るファイザー製のワクチンについては注意点があり、こちらの記事で詳しく書いているので是非ご覧ください。 インフルエンザなどと同様、RSウイルス感染症が重症者しやすいのは高齢者と子どもです。高齢者用のRSウイルスワ

飲み物で儀式で映画でもある「フォイアー・ツァンゲン・ボール」のこと

この記事はマガジンを購入した人だけが読めます

まるでおとぎ話!リューネブルクのクリスマスマーケット

12月になって降臨節(アドベント)に入るとドイツでは街のあらゆるところにクリスマスマーケットが立ち、急にクリスマスめいてきます。 わたしの暮らすハンブルクでも市庁舎や教会の前、広場の前はもちろんのこと、エルベ川沿いや駅前などにも大小さまざまなクリスマスマーケットが立ちます。 ドイツでは、ドレスデン(最も古い)、ニュルンベルク(最も大きい)、シュトットゥガルト(最も美しい)が3大クリスマスマーケットと呼ばれ世界的にも有名ですが、ハンブルク近郊ではリューネブルクのクリスマスマ

野生動物と「ヒト」にはご用心!―米国でコウモリに噛まれ女性が死亡

米カリフォルニア州の保健当局は11月29日、マーセド郡ドスパロスにあるブライアント中学校の教室に迷いこみ、床に倒れていたコウモリを保護しようとした美術教師、レア・セネン氏(60歳)が、コウモリに噛まれて死亡したと発表した。セネン氏がコウモリを死んでいると思ったのか生きていると思ったのかは分からない。死因は狂犬病だった。このニュースを筆者のXでシェアしたところ、大変な反響があった。

今年のインフルエンザワクチンは「あまり効かない」予測?

頸の腫瘍の手術をしたこともあり、今年は新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを両方接種しました。わたしにとってはどちらも重症化のリスクが高いわけではありませんが、まだ飲み込みや発声が元通りではない中、喉が腫れたりすると非常に厄介だからです。 ところが、実は先週、米CDCから「今年のインフルエンザワクチンはあまり効かない」というレポートが発表されました。 米CDCの9月の発表によれば、今年のインフルエンザワクチンの有効率は昨年の50%から減少し、

¥980

カナダで10代の子が重体に!―鳥インフルエンザ・パンデミックのリスクは高まっているのか

日本ではあまりニュースになっていませんが、A(H5N1)鳥インフルエンザが少し今までとは違う動きを見せています。