「わたしに無害なひと」チェ・ウニョン著 亜紀書房
ふと、「あの本、読みたいな」と思う時がある。「読みたい!」と思って買う時は、たいてい何冊もまとめ買いするので、そのまま読まずに本棚に入っている本がある。チェ・ウニョンさんの本もそのうちのひとつだった。
昨日ふと、「読みたいな」と思って手に取った。やわらかい緑色の本。そして、1番最初に書いてある「日本の読者のみなさんへ」を読んで、私は泣きそうになってしまった。
ここに書くにあたり、胸に響いた部分を引用しようかと思ったけれど、どこからどこまで引用すればいいかわからなくなった。まるごと読んでほしい。そんな気持ちになった。
この本には7つの短編が入っている。どれもある一時期、いつも一緒に同じ時を過ごしたり、他の人とは共有できない話をしていたり、人生に深く関わった人。けれど今は一緒にいない人との物語だ。
長く生きれば生きるほど、今はもう会えない人、「あの頃」が増えていく。あの時わたしはどうすればよかったんだろう。どうして連絡を断ってしまったのか。疎遠になった人たち。過去の美しい記憶の中に混ざるざらついた、自分だけはごまかせない感情。
チェ・ウニョンさんはそういったものをすくいとって、物語にしている。チェ・ウニョンさんの文体なのか、翻訳者の古川さんのなせる技なのか、翻訳本の違和感なく、文がさらさらと流れていくが、その余韻は重い。
この本を読みながら「ライブ」というドラマを思い出した。
韓国版はこのデザインが良かった
日本版(なんでこうなるのか…)
ライブについての感想もいつか書いておきたい。秘密の森も…。
いろいろな人の視点がそのままに描かれていて、そのうちの誰か1人にだけ感情移入することができない。自分の中にみんないる。時の流れや今にフォーカスすることでごまかしているけれど、あの時置いてきたものたちは今の自分の中に全部ある。それを改めて思い起こす本になった。
「わたしに無害な人」は2018年に出版されたチェ・ウニョンさんの2番目の作品だ。2018年小説家50人が選ぶ今年の小説に選出され、第51回韓国日報文学賞受賞を受賞し、韓国で13万部のベストセラーになったという。日本でもたくさんの人に読まれるといいなと思う。
デビュー作「ショウコの微笑」も棚にあるので、明日は続けてこれを読もうと思う。
チェ・ウニョンさんのインタビュー
韓国のデザイン
日本のデザインもよい。
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