アケビの謎
探検が好きだった。
その探検のほとんどは住んでいた町の裏山に数人の友達と分け入って虫を捕まえるとか蛇を観察するというものだった。
小学校の低学年のころ、僕は豊橋の片隅に住んでいた。そこは自然が豊かで近くに豊川用水が流れていた。
豊川用水は少し小高くなった山の中腹のような場所を悠々と流れていた。その山の裾側には用水から田んぼへの取水口があって、その周りは6畳程の小さな池のようになっていた。そこに小学生くらいの子供がザブザブと入っても、膝から腿ぐらいの深さしかない安全な水溜まりだ。池の底はぬるぬるとした泥に覆われていた。
そのぬるぬるとしたキメの細かい泥を虫取り網で力任せに掬うと沢山のドジョウが取れた。時折、そこにハゼの仲間が混ざることがあって、僕たちはそれに歓喜の声をあげた。
僕たちはハゼ科の魚は綺麗な水に棲むと信じていたので、自分達の遊び場の水質が『悪くない』という証拠を見つけた気分で嬉しかったのだと思う。
池に溜まった水は小さな水路で下流の田んぼの方へ流されていた。その水路は幾つかの田んぼへ水を分けた後は森の中へ姿を消していた。森の向こうには造成が始まったばかりの住宅地があるはずだ。
「水路が森の向こうでどうなってるか探検しよう」
ある日、そういう話になった。
誰も反対する者はなかった。
僕たちはウキウキしながら水路沿いに歩いた。とても小さな水路は粘土質の赤土に掘られたU字の溝を流れていた。少し歩くと水路はやがて自然の小川と合流し、川沿いに歩くのは困難なほど草木が生い茂っていた。
大した野心の無い僕らはさっさと諦めて、その「諦めの地」に基地を築き始めた。地面を何となく平らに仕上げて草木をなぎ倒してちょっとした広間を作った。そして、そこにあった背の高い木を見上げた時、アケビを見つけた。
僕はアケビを知らなかったので、多分、年長の友達が「これ、アケビだぜ」と教えてくれたのだと思う。誰かが木に登って、一つのアケビを3,4人で味見した。
「うーん」
みんな同じ感想だった。
魅惑的な紫の表皮からは想像もつかない淡白な味だった。それに種ばかりで子供ながらに(なんだかなぁ…)と思わされた。
それが僕のアケビとの出会いなのだが、もう何十年もそんなことは忘れていた。
それが去年、常磐道の広野か楢葉辺りを走っていた時、トンネルの入り口の脇にぶら下がるアケビを見た。
僕はアケビがどんなところに自生するのか知らないので、それが珍しいことなのかどうなのか分からない。
そして今日、渋滞中の東名下りの町田辺りで、中央分離帯の樹木に絡み付くアケビを見た。はじめは見間違いかと思ったが、何本かの木に幾つかの実が下がっていたので、間違いじゃない。
さすがにこれは珍しいことなのじゃないだろうか。
それともアケビってそういう何処にでもあるものなのか?
どうなんだろう?
花言葉は「才能」「唯一の恋」ということらしい。