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山の記

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山に関するエッセイとか、フィクションとか
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#あはれ

私はなぜ山へ行くのだろう?

私はなぜ山へ行くのだろう?

 なにか欲があるとすれば、私の感性を揺さぶりその震えを肉体にも伝えてくるものが欲しい。美術や音楽の鑑賞では、肉体的な揺れを感じることは稀だけれど、脳の中で起こっている波紋の広がりは確かだ。その波紋はいずれ、過去や未来を行き来しながら言語や形あるものへ作用する。

 山へ登るときは目的がないときもあるが、私が本質的に求めていることは、肉体的な揺さぶりだと思う。見たかった対象があろうがなかろうが、やり

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をかし から あはれ

をかし から あはれ

山を歩きはじめたころ、山野草の可憐さにまず目がとまった。希少な花ならば遠くても見に行った。あの花この花と蜜を求める昆虫のごとく飛びまわったあとで、朽ちた花の美を発見した。それまで、写真の対象になることのなかった姿。つぼみの可愛らしさ、花開いたときの華やかさを経て、色を喪う終わりのとき。

それを美しいとおもうのは、私が中年になったからかもしれない。若い頃は、若いというだけで、随分マシだったんだわ、

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