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【ミュージカル】《後編#5》『キンキーブーツ』の楽曲を楽しむ〜ストーリーの回収編

ミュージカル『キンキーブーツ』のレビュー《後編》の#5です。今回は総まとめ。この作品のハッピーエンディングに向かう楽曲を取り上げます。

《前編》では、作品全体の見どころにについて書きました。盛大なネタバレはしてないつもりなので、これからご覧になる方もお読み頂いて大丈夫です。

《後編》はネタバレありの楽曲レビューシリーズです。
順番に読んで頂くのがおすすめですが、お好きなところからでも、大丈夫です。ネタバレはやだよ、という方は#1ローレン&チャーリー編の「まずCDジャケットを愛でてみる」だけで離脱する事をお勧めします。

#1 ローレン&チャーリー編
#2 オープニングナンバー編
#3 ローラのプライス&サン改革編
#4 ローラの解体新書編
#5 ストーリーの回収編(←ココ)

今回は、楽曲レビューシリーズ最終回という事で、最後に歌われる二曲をレビューします。

ネット上をざっと見た感じでは、『キンキーブーツ』の楽曲の中でも、この二曲は、よく取り上げられています。その多くは、作品が伝えようとしているメッセージ、あるいは、春馬君が『キンキーブーツ』を通じて伝えようとしていたメッセージ、といった視点から語られています。実に沢山のファンの方が書いて下さっていて、私も沢山読ませて頂きました。

同じような事を書くこともないなぁと言うことで、このnoteでは、ちょっと趣向を変えて作品としての作り込みにフォーカスして書いてみたいと思います。最後までお読み頂くと、なぜ、『キンキーブーツ』を観て心が震えたのかが、なんとなく腑に落ちる、かも?

ローラとして、サイモンとして:『Hold Me in Your Heart』

『Hold Me in Your Heart』は、ローラが心の闇に決着をつけるバラードです。

この曲は、ローラが、故郷の父親が暮らす施設に慰問に行って、歌手としてショーに出演している設定で歌われる曲です。

この慰問に行く事になる経緯は描かれていないのですが、普段よく着ている原色ではなく、白いドレスに、髪型も控えめで上品。ステージ上は、幻想的な雰囲気で登場します。ちょっと普段とは様子が違うのです。エンジェルスもいません。

前のシーンで、チャーリーと揉めた時、「男性のデザイナーとして成功する」という「成功イメージ」を押し付けられたローラ。
ショービズの世界で生きる息子を、認める事が出来ないままの父親を喜ばせるなら、「男性として成功している」という報告がいいかもしれない。でもローラは、もう大人です。チャーリーに言わせれば「The soul of a man」であり、人として、揺るがないアイデンティティをちゃんと持っている。父親から逃げた過去の気の弱いサイモンではない。で、ドラァグクイーンの歌手として慰問に行ったものだと思われます。

冒頭、ローラが父親の事をどんな風に理解しているのかが歌われます。

You don't want to see me anymore
You can't listen to me laugh out loud
You don't wanna see me dance
You can't even take the chance
That it might reflect on you

私の事を全くわかろうとしない
私が感じる大きな喜びがなにかを知る事もできない
踊る私を見たいとも思わない
あなた自身と向きあえるチャンスだったかもしれないのに

(Ricky テキトー訳)

「reflect on」は、「反省する」「振り返って考える」「よくよく考える」というようなニュアンスなので、最後の2行を直訳すると「あなたはあなたのことをよく考えることができたかもしれないチャンスを手にすることができない」となります。

ローラは、父親が自分を受け入れてくれなかったのは、父親自身と同様、ボクシングのチャンピオンになれなかった息子が、まるで自分自身のようで、正視できなかったのね、という事を婉曲な表現で言っています。
ズバっとわかりやすい言い回しを使わないところに、ローラの精一杯の思いやりと愛を感じるフレーズです。
あぁ、もう泣けて来た。

そんな自分を受け入れてくれない父親なんだけど、なんとローラはこう歌います

the best part of me is standing in front of you
And loves you anyway

私の中の1番素敵な私が、今あなたの前にいるでしょう
私の中の1番素敵なところは、なにがあってもあなたを愛しているってことよ

(Ricky テキトー訳)

涙腺崩壊ポイントきました。

英文のニュアンスを伝えたくて、くどくど訳してしまったのですが、父親を愛している、という事がローラの人間としての核なのです。
なのに、なのに。切ない‥

さて、この曲をCDで聴くと、チャーリーがローラの留守電にメッセージを残すシーンから始まります。

演出上、イントロがチャーリーのセリフにかぶっているから、そうなっているんだと思いますが、私には、このチャーリーの留守電のセリフも、『Hold Me in Your Heart』の一部のように思えます。そこまでのチャーリーとの決裂、からのチャーリーのローラへの謝罪メッセージを観ていると、サイモンと父親との関係とまったく同じだし、この歌はチャーリーへ向けてのサイモンからの返信メッセージにも思えて来ます。

最も信頼したい相手には、なぜか理解してもらえないローラですが、ローラはその理由の一端が自分にあると、わかっているのです。
ひとたび理解してもらえないとわかると、心の扉をパタンと閉じて逃げてしまう。
ドンには、「他人を受け入れろ」と言っておいて、自分は父親からもチャーリーからも逃げてしまった。
でも、父親にはこうして、父親の望む姿ではなく、本当の自分の姿で会いに来ている。

Hold me in your heart till you understand
Hold me in your heart just the way that I am
With all your faults, I love you
Don't give up, on me
I won't give up, on you

心で抱きしめて わかるまで 
心で抱きしめて これが私
あなたの悪いところ全部 大好きよ
私を見離さないで
私もあなたを諦めないから

(Ricky テキトー訳)

シーンとしては、父親に対するメッセージなんですが、チャーリーに対するメッセージとしても成り立ちます。
『キンキーブーツ』は、こういうひとつのフレーズに複数の意味を持たせるのが多いなぁ。

タイトルにもなっている「Hold me in your heart」は、「心で抱きしめて」と訳しましたが、言うまでもなく「理解して受け入れて欲しい/認めて欲しい」という意味です。
see(向き合う)、understand (理解する)、accept(受け入れる)、love(愛している)、を全部ひっくるめたような表現かなと思います。

チャーリーにもこのフレーズが向けられるのは、一旦はわかり合えたと思っていたのに、売り言葉に買い言葉とはいえ、あまりに心ない言葉を浴びせられて、ローラは、いや、サイモンはすごく傷ついているからです。サイモンにとって、誰かとわかり合うという事は、それほど難しい事なんです。

歌を聴いた父親は、黙ってローラの手に自分の手を重ねます。
愛しているよ、わかっているよと。
感極まるローラ。

短くて、台詞のないシーンですが、ローラにとってはとてつもなく大きな出来事。
「Not My Father’s son」から、「My Father’s son」になった瞬間です。この時をローラがどれだけ待ち望んで来たことか。

そして「どこかへ行かなくちゃ!」という風情で立ち去る。行き先はもちろんミラノ。次はチャーリーです。サイモンもまた、他人を受け入れる勇気を、父親の手の温もりから、あるいは、チャーリーの留守電メッセージから貰ったのかもしれません。

チャーリーとの友情の証であるキンキーブーツ。あの思い入れのあるキンキーブーツを自分の手でなんとしてもお披露目したい、とローラは思っているのです。

楽曲レビューの#1で書いた通り、『キンキーブーツ』のストーリーラインは、チャーリーの人間的な成長物語と共に描かれています。
ローラは、そのチャーリーの成長を導いていくガイド役。だからローラは、ある意味でヒーローだし、わりと人間的に完成されたキャラなのです。旧態依然としたもの全てにアンチテーゼを突きつけ(『Sex Is in The Heel』)、弱いものの味方で、言いたいことは言う(『What a Woman Wants』)。言いたい放題に見えて、思いやりに溢れ、気遣いもできる(『In This Corner』)。
ところがローラの根本はサイモンで、サイモンは欠点だらけの未完成で弱い人間なのです(『Not My Father’s Son』)。

自信がなくて自分を出せない。自分が思う自分の良さを相手が受け入れてくれない時には、自分の殻に閉じこもる。そんな自分を変えたいのに変えられない。闇から抜け出したいのに抜け出せない。
そんなサイモンとローラが、愛してやまない父親とチャーリーからの愛情を感じる事で、1人の人間として再生するのが、この『Hold Me in Your Heart』なのだと思います。

というわけで、この曲は、ローラだけではなく、サイモンのナンバーという事にもなるかと思います。サイモンが、あるべき姿で父親に認められる。この物語最大にドラマチックなシーンなのです。

ハッピーエンドの正しい終わり方『Raise You Up / Just Be』

似たもの同士のチャーリーとローラの物語。修羅場を潜り抜けて成長した2人が、いよいよラストナンバーとなる『Raise You Up / Just Be』メドレーで、再会して友情を確かめ合います。細かいサイドストーリーも、一気に回収し、ハッピーエンドで、スッキリ終わる。
エンターテイメントの終わり方は、こうでなくては!という見本のような一曲。

このナンバーは、メドレーです。
続けて演奏されるけど、れっきとした二曲メドレー。
『Raise You Up』は、ミラノの劇中ショーのナンバーで、『Just Be』は、『キンキーブーツ』カンパニーとして、お客様へのエンドロールのような位置付けかと思います。アンコールの前のアンコール、というか。

歌詞の内容もさる事ながら、とにかく華やかで盛り上がるアレンジ。
コロナな鑑賞スタイルには、全く不向きなナンバーなのが、個人的には困ってしまいました。
いつの日か、絶対ノリノリで踊り狂いながら観る!

さて、この曲について、ひとつどうしても気になっていた事がありまして。
この曲の冒頭、ローラがランウェイに登場して、ここに来た理由を説明する台詞があります。ジャパンキャストの映像などでも出回っているので、ご覧になった事がある方も多いと思いますが、日本語では、ローラはここに来た理由は「賞賛の嵐」が欲しいから、だと言います。

あのシーンのインパクトがありすぎて、あのイメージでローラを見ていた私は、作品を通して観ているうちに、なんか違和感が。ローラ、そんな事言うかな、と。どうやったら、あの自信満々な「賞賛の嵐〜!」に繋がるのかなと。

で、元の英語ですが、「adulation(お世辞/社交辞令)」と言っています。

雰囲気としては、

ここにきたのは、ただの、「つ き あ い」よ♡


という感じでしょうか。

プライドの高いローラ様が、「お世辞を言ってもらいたくて来た」わけはないので、言外に、チャーリーの留守電メッセージへの限りない感謝の気持ちが込められた照れ隠しの「adulation」なのではないかと思うのです。
そう、ここに来たのは、魔法のヒールを履いているサイモンなのだから、シャイなんです。
だから、ババーンと歌ではなく、ここはセリフなんです。恥ずかしいからちょろっと本音をバラして、「Ladies and Gentlemen ‥」と、さくっとショーへ入ります。

サイモン、可愛いヤツだなぁ。ふふふ。

で、まずはローラが歌います

Once I was afraid, but then you came along
Put your faith in me and I was challenged to be strong
When I lost my way, you were there to see me through
Now let Lola lend some love and do the same for you!

私、臆病になってた
でも、あなたが現れて、
信じてくれて、強くなれって支えてくれた
私が自分を見失っても、あなたはずっとそばで見ていてくれたのね
さぁ、今度は友情をあなたにお返しする番よ

(Ricky テキトー訳)

ローラがミラノに来た理由は、ひとえにチャーリーとの友情ゆえ、です。
根本では分かり合えているんだよ。うん。

お次はチャーリー。
日本風に言うと、返歌です。

Never put much heart in anything before
You strut into my life and help me go for something more
Now I stand up for myself
Now I stand out from the crowd
Now I'm standing on high heels
If Dad could see me now!

昔は、なにかに入れ込むようなヤツじゃなかった
そこへ君はすごくカッコよく現れて、立ち向かっていく事を教えてくれた
今、僕は自分で立ってる
見てよ、人前で目立ってるよ
さぁ、このハイヒールでも上手く立ってみせるよ
父さんがこの姿を見てくれてたら!

(Ricky テキトー訳)

はい、もう言うことないです。
よかった、ちゃんと分かり合えていた。
キンキーブーツをはいたチャーリー、最初はヨロヨロしてるのに、やがてちゃんと立って、ノリノリでローラと踊り始めます。まるでこの物語を象徴するようなシーンに、客席が思わず湧きます。
それだけで、この物語がハッピーエンドに向かってるのが実感できる演出です。

さらに自信をつけて、調子に乗ったチャーリーは、プロポーズします。

I was a loose shoe but you need two to make a pair

僕は靴の片方なんだけど
靴にはもう片方が必要なんだ

(Ricky テキトー訳)

靴屋さんらしいプロポーズ。ベタだけど、嬉しいヤツです。
ローレン、今度は幸せになってよ!
公開プロポーズをされたローレンの慌てっぷりもツボ。

最後に「まだ女の子が好きなの?」と確認してるけど、え????まさかニコラだけじゃなくローレンも疑ってたのか?
たしか、ローレン、男の子を好きになっちゃう人に惚れて、後悔してたよね?(笑
全然学習してないけど、この人はもうこのままでいいや。幸せならなんでもオッケー!

最後には、ドンをはじめとするプライス&サンの従業員たちも、怒涛の早がえの後(笑)、全員が真っ赤なキンキーブーツを履いて登場します。生で見てたら、どこ見ていいか、わけわかんないだろうなぁ。
そして、ショーの大成功を確信させる盛り上がりも最高潮になると、そのまま『Just Be』になだれ込みます。
そのなだれ込む二曲を繋ぐフレーズは、ローラが歌うこちら。

We're the same, Charlie Boy, you and me...

このミックスのセンスよ!
そう、『Not My Father’s son』の一節。
2人が本音で話してわかり合ったあの日の関係に再び立ち戻った事を表しています。
今や、父なき後、一人前の経営者となったチャーリーにとって、ローラはCharlie boyでいさせてくれる、唯一の場所なのかもしれません。
お互いに得難いパートナーなんだと、最後にダメ押しされた感じですね。

からの。

ラストナンバー『Just Be』
私が『キンキーブーツ』の音源を初めて聴いた日から、毎日聴いても聴き飽きる事のない曲です。

この曲は見事な「回収ソング」です。 

曲の最初では、「キンキーブーツは話題沸騰(clamor for kinky boots)」、急いで帰って仕事をしなくちゃと。見事ショーが成功して、プライス&サンが活気を取り戻した事がわかります。よかった、よかった。

そして、この作品のメッセージを伝えるために、嗜癖、強迫性障害、その他行動問題からの回復のための「12ステップのプログラム」から、6つを取り上げて紹介します。

この12ステップは、もともとアメリカのアルコール依存症の人たちが集う相互扶助団体(Alcoholics Anonymous:AA)の著作で示されたもので、後に、広く問題行動の治療に取り入れられるようになりました。『キンキーブーツ』では、6ステップになっていますが、もともとは、アメリカ心理学会(American Psychological Association:APA)が、6つに要約したものを、より、一般的な言い回しに意訳して歌詞に取り入れたものと思われます。

[ENSEMBLE]
One! Pursue the truth
真実を追及する

Two! Learn something new
新しい事を学ぶ

[NICOLA]
Three! Accept yourself and you'll accept others
自分も他人も受け入れる

[LAUREN]
Four! Let love shine
愛をもって

[CHARLIE]
Five! Let pride be your guide
誇りに導かれるままに

[DON]
Six! You change the world when you change your mind!
自分が変われば、世界も変わる

(Ricky テキトー訳)

歌詞の尺の問題とかもありつつ、かなりシンプルなセンテンスになっていて、もはやオリジナルのAAのステップとは程遠い代物になっています。にもかかわらず、わざわざ「12ステップの云々」と説明のセリフを入れている意味はなんだろうと考えると、「人の意識や価値観を変えると言うのは、難しいことだけど、でも必ずできる」というメッセージをより強く言いたいがため、なのだろうと思います。
はっきり言ってしまえば、依存症の人も変われるんだから、あなたもできる!と言いたいのかなと。

またこの部分、3つ目以降のニコラ、ローレン、チャーリー、ドンのリレーもいい。
セリフの内容とキャラが合ってるんです。
プライス&サン、いや、プライス&サイモンの全員で、力を合わせて成功を手繰り寄せたんだなと、ここで改めて感じます。誰一人欠けても、この物語は成立しない。
ひとりでなし得ない事も、みんなで力を合わせればできる。
そのためにも必要な6ステップなんだよねと。単なるハッピーエンドなだけでなく、色んなことが一気に腑に落ちてきます。

ちなみに、ニコラもいいタイミングで、チャーリーが退路を断つきっかけになっていますから、陰の功労者とも言える。まさに全員野球の『キンキーブーツ』なのであります。
人生は全て必然なんだなぁ。

後半は、この2つのフレーズの繰り返しになります。

You'll see
Its beautiful
いつか美しいとわかる

Just be
Its beautiful
そのままで美しい

ダサい訳ですが、ここはあえて直訳で。
そう、これはオープニングの『The Most Beautiful Thing in the World』からの回収です。
「世界で1番美しいものは? 」という問いに対する答えが、「Just be」になっている。

これ、初見の時に、そこまでロジカルに深読みしながら観ている人はいないんでしょうけど、『キンキーブーツ』が、見終わった後に「あー楽しかった!」とすっきりとした気持ちよさが残る理由は、こういう細部にわたる、「何一つ取りこぼしのない作り込み方」ゆえなのだと思います。
本当によく出来てる。

文化習慣に関わるすごく難しいテーマを含んでいながら、世界中の多くの国で人気を博している理由は、このロジカルな作りのおかげなのではないかと改めて思います。
ああ、だから私はこの作品が大好きなんだなぁ。

終わりに〜楽曲レビューを書いた理由

『キンキーブーツ』の楽曲のレビューを「ややがっつり」書いてみようと腹を括ったきっかけは、春友さんのとある一言が、心に引っかかっていたからでした。

キンキーブーツの主役は春馬君。春馬君以外が主役のキンキーブーツなんて、見る価値がない。

この言葉を聞いて、私は咄嗟に言葉を返す事ができないほど、びっくりしました。
また、この感覚に共感する春馬くんファンが、決して少なくない事にも、さらにびっくりしました。

この考え方に共感できない私としては、こういうファンの方が大勢でないと願いたいのは言うまでもありません。だけど、こういう方たちに春馬君が支えられていた事も事実で、そのおかげで、周回遅れで沼に足を踏み入れた私も、春馬君に触れる事ができているわけです。
非常に複雑だけど、やはり、春馬くんを応援しているファンの方には、どんな考え方の方であっても感謝しています。

ジャパンキャストの公演を観ていない私が言うのもなんだけど、『キンキーブーツ』は、日本においては道半ばの作品だと思います。
三浦春馬というカリスマ俳優をローラに迎え、再演までは実現し、興行的には成功してきました。でも、そこはゴールじゃない。内容的にもブラッシュアップの余地がまだまだあると思います。

また、何事もなくても、チャーリーとローラの年齢設定を考えたら、次の再演は、若返りの新たなコンビだった可能性もあります。
春馬くんの再々演があったとしても、いつかは卒業する時がきます。
いずれにしろ、春馬君の手を離れる時は来る。

そうなった後でも、日本でこの作品が上演し続けられ、観た人が元気になって、愛され続ける作品となっていくのが、春馬君の願いだったんじゃないかな、と思うのです。

エンタメの行く末を案じていた春馬くん。「ミュージカルや舞台にもっと人を呼びたい。そのために、自分は映像の世界でも第一線で活躍し続けなくては」という趣旨の発言をされていたのも読みました。
そんな春馬くんだからこそ、『キンキーブーツ』が愛され続け、形を変えても上演され続けて行くのを、きっとどこかから、ニコっとしながら応援してるんじゃないかなと思ったりします。

私の書いた駄文が、「春馬君じゃなかったら観ない」というファンの人に届くのは、なかなか難しいと思っています。それでも、あえて春馬くんにはほとんど触れずに、作品そのものに出来るだけフォーカスして、淡々と書いたのは、この作品をある意味においては、日本に連れてきてくれた春馬君への私なりの感謝であり、リスペクトでもあります。

ブロードウェイで、稲妻に打たれるほどの感動をうけたひとりの日本人俳優の熱い思いがあっての、日本の『キンキーブーツ』旋風だし、今回は映画という形ではあったけど、日本でまた観ることができたのだと思います。だからこそ、誰が演じるか、どこの国で上演されるかに関係なく、作品としての良さを書き残しておこうと思い至ったのです。

日本でキンキーブーツの事を書くのに、春馬君に触れないのは、確かに変かもしれない。また現実的な事として、noteを書く時、「三浦春馬」の文字が入っていないと、圧倒的に読まれないのはよくわかっているのですが(笑)、敢えて入れずに書いたのはそういうわけです。
ここまでお読み頂いた方には、そっとお伝えしておこうと思います。

自分で言うのもなんですが、「春馬君のローラが観られなくて後悔してる世界ランキング」があったら、トップ3以内にいる自信があります。
でも、その私の個人的な気持ちは、作品の良さを伝える事とは別次元の話なので、一緒には書けなかった。不器用ですみません。

次はぜひ劇場で観られますように。
どんな形であっても。。。

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