映画『ぼくのお日さま』氷上スポーツ×子ども×先生=傑作の方程式が成り立ちそう
『ぼくのお日さま』傑作でした!
すごいよこの作品、前半~中盤と終盤の話のテイストが違いすぎて驚きを隠せず少しもやもやした人もいたと思いますが、僕は大好きできっと定期的に見返したくなるような作品になりました。
年間ベスト級の作品は年末にまとめて書こうと思っていましたが、いてもたってもいられなくなったので書いてしまいます。
話は小さな北の町に住む少年がフィギュアスケートをしている少女に恋をしてしまい、それから自身もスケートにチャレンジしてみることになり、元フィギュアスケーターの先生に教えてもらいながら男女でアイスダンスに挑みます。
とにかくこの映画の素晴らしいところは雪や氷の映像です。
雪が積もる町のスケート場で話が主に進んでいくので雪や氷が至る所にでてきますが、氷や雪の冷たさが表れているのではなく太陽やスケート場の光が反射して温かみのある雪と氷になっており、温もりさえ感じられる作品となっています。
終始「なんでこんな綺麗な映像が撮れるの!?」と思ってしまうくらい素晴らしい映像なので、是非劇場で見て欲しい作品。
こんな映像撮れるものなら撮ってみたいけど、撮りたいと思って撮れるような絵ではない、そんな奇跡に近いような映像の連続です。
どのくらい心揺さぶられたかというと、僕が感動を実感するタイミングというのは、登場人物が物語でこういう背景を持っていたり、こういう経験をしたからこそ、ああいう展開や結末になって泣いてしまうといういわゆるロジックで泣かせるような瞬間で(例えばアルマゲドンでいうと婚約者に厳しくて娘想いな父親が最後、身を挺して婚約者の代わりに地球を救って娘も託したみたいな)そんな映画を好んでいますが、この映画は映像が美しいという情景美だけで思わず涙がこぼれていました。
そんな美しい情景の上で描かれるのは少年・少女・先生それぞれの物語。
少年のたくやは夏は野球、冬はアイスホッケーをやっていますがスポーツは苦手で友達や兄がやっているからという理由で消極的に続けていました。
そんな日にフィギュアスケートをしているさくらに心奪われます。
見よう見まねで自分もスケートをやってみるとさくらにスケートを教えている荒川に声を掛けられ、スケート場が閉まった後、無償で秘密のレッスンを受けます。
美しさ表現するスケートが自分に合っていると気が付き、夢中になったたくやはさくらとタッグを組んでアイスダンスの大会にエントリーします。
そして、2人で呼吸を合わせるうちに自分の好きに気が付いていきます。
彼は吃音症を持っているのですがそれは父親譲りです。父親は家庭ではめったに話さないのですが、スケートとホッケーどちらを取るか迷っている時に父親が優しく「好きな方を選べ」と声をかける姿が印象的でした。
さくらはフィギュアスケートを荒川に教わっていました。あまり感情を表に出さないような少女で大人びています。
たくやとアイスダンスを一緒にやってくれと荒川に頼まれた時は際はなんでフィギュアスケートではなく男とアイスダンスを挑戦しなければいけないのかとやや不満そうでしたが、たくやのひたむきさと3人で同じ目標に進んでいくということに充実感を覚えるうちに、徐々に心が開き表情が豊かになっていきます。
荒川にも先生として、もしかしたら異性として憧憬の気持ちを持っていたのかもしれませんが、彼の隠していたとあるプライベートを見て失望してしまうのです。
たくやとさくらがアイスダンスを練習するシーンはとても印象的で手を繋いだり、腰に手を回しての表現もあり、2人の距離が縮まるのが直接的に心情的に紡がれています。
その練習風景をたくやの同級生に見られてしまい、このシーンで2はいじられてしまうような展開になると恐れていましたが、はにかみながら「まあ、いいじゃん」みたいな感じで大人の対応をするのを見てアイスダンスのおかげで紳士淑女の精神が宿っていたことが分かり、スポーツというのは体だけでなく心も成長させる素晴らしいことなのだと実感しました。
2人にアイスダンスを教える荒川はプロのコンクールにも出場した経験のある有名なフィギュアスケーターでした。引退後も実績が買われ、都内や大規模な街で有名なコーチになることもできましたが、何故か北の町にある小さなスケート場でコーチをやっています。
荒川は池松壮亮さんが演じているのですが、このキャラの描き方が個人的にかっこよすぎる。優しい眼差しで丁寧かつ的確にコーチングをしている穏やかな人なんですが、乗っている車は古いアメ車でワイルドです。
「この先生車でタバコとか吸ってそうだな~」と上映中思っていると、車内で洋楽を流しながらタバコを吸っているシーンになり、荒川に対する僕の解釈と造形が早々に一致しました。
何故、先生が小さな町でスケートのコーチをしているのかという疑問が伏線となっており、物語の転換におけるカギとなっています。
荒川は先生は少年少女の成長と恋愛模様を見守ることで、自分自身の人生を見つめなおします。
それ以上はネタバレになりますが、序盤のガソリンスタンドのシーンは大きな意味を持っていて、鑑賞後は関心してしまいましたので一言一句、挙動1つ見逃さないようにしてください。
純粋無垢で心躍らせる話になっており、ずっと綺麗な世界で3人の人間模様が描かれて欲しいと願ってしまうくらいハートフルでヒーリング効果もある映画。
一方後半は、少年の少女への恋心とアイスダンスの予期せぬ結果、少女の先生に対する憧れと裏切られたことによる失望、先生の切ない恋が展開されていて、美しい前半がすべて後半の複雑な人間模様の伏線になっており、90分の映画とは思えない起伏となっています。
そして、この記事のタイトルになっている通り氷上スポーツ×子ども×先生の要素がある作品の傑作率は個人的に高く、もうすぐ方程式が成り立ちそう。
『スマイル 聖夜の奇跡』という映画をご存じでしょうか、2000年後半くらいに公開された映画で森山未來さんや加藤ローサさんが出演されています。
見たのはずっと昔で記憶はあいまいですが確か、森山未來さんの役がタップダンサーで、何故かその人が小学生にアイスホッケーを教えることになります。タップダンスのリズミカルな技術をアイスホッケーに持ち込み弱小チームを救うような話なのです。
さらに、この映画もまたアイスホッケーをしている少年達がフィギュアスケート少女に恋をしています。(このスケート少女が難病を患っていて感動展開になったはず)
この映画結構好きで『ぼくのお日さま』を見ていて『スマイル聖夜の奇跡』のことを思い出してしまいました。
さらに、僕はまだ読めていませんが『メダリスト』という漫画もプロのフィギュアスケーターを目指す少女に元スケーターが教える話になっており、評価も良いとききます。
このように氷上スポーツ×子ども×先生=傑作の方程式が成り立つ日はもうすぐです。
この方程式が公式に認められ、広まる前に、とりあえず乗り遅れたくない人は『スマイル 聖夜の奇跡』と『ぼくのお日さま』と『メダリスト』は見ておいたほうが良いです。