【製本のある暮らし】森鴎外を拵える。1
綴人のnnote にお越し頂き、ありがとうございます。
ここでは、本の仕立て直しを拵える(こしらえる)と題して、あらためて製本の紹介をして参りたいと思います。少々長くなりますが、ご興味のある方は、どうぞお付き合いください。
初めに、拵える(こしらえる)という事についての記事を以前に書きました。宜しければご覧ください。⇩
私の部屋に、集英社から出版された日本文学全集があります。シリーズ物で40冊ほどがあります。元々は私の姉が所有していたものですが、何十年も実家の蔵に埃まみれになっていたものを、コッソリ私の所に移動させたものです。
実家の母が施設に入ることになりました。認知症が進み、母と二人暮らしの弟への負担が増したのと同時に、母の身の安全も考えての事です。
私が若いころ、私の夢を完全否定した母です。私は随分追い込まれ、この母に酷いことをしようと考えたこともありました。そんな私は幼いころ母親っ子でした。もらい物は母の手からでなければ受け取らないような子でした。
母が大好きでした。が故に夢を否定された時、母が私に抱く愛情の強さ分、ふりこが反対側にふれ、憎しみの感情を抱いたのでしょう。
その母が施設に入る。
そのことを聞いて、母のところに「帰る」という意識から実家に「行く」という意識に変わった氣がしました。
私は手仕事で自己実現を果たすという夢に近づいています。自分以外何ものでもない、否定されることもない。親が亡くなってからが第二の人生が始まると聞いたことがあります。本当にそうだと実感がこみ上げて来ています。
そして実家に眠っていた本を拵えようと心が動いた。母が私の夢の結晶を認識することはありませんが、せめて生きている間に完成させたいと思っています。
手にした本は森鴎外、だいぶ傷んでいます。
上の画像4枚を見て頂くとわかりますが、量産本の作りは随分簡単に出来ています。特にチリ(本文より一回り大きく表紙は出来ています。その余白部分のことをチリと言います。)のずれを見ると少し残念な気持ちになります。改めてこの本を綺麗に拵えたいと思う部分です。
まず、見返しのノドにカッターを入れ、表紙と本体を切り離します。その後、折丁ごとに分離していきます。
下の画像を見て頂くと解かりますが、綴じた本文を表紙でくるむように接合させることから、ブラデルのことを日本ではくるみ製本と呼んでいます。
と、ここで気が付きます、あるはずのものがありません。
クータです。
クータとは、本の背の本文と表紙の間にある筒状の紙のことです。これがあることで表紙を開くとページがスムーズに開くようになりますし、接合部分の補強にもなります。先ほどの画像でノドの部分が裂けていたものがありました。クータがあればあの部分がもう少し丈夫になったはずです。
次は折丁の処理をしていきます。
この本はアジロ綴じです。糸で綴じるのではなく、アジロ刃で切り込みを入れ製本糊あるいはニカワで綴じるものです。
この切り込みに製本糊あるいはニカワが入り込んでページを繋いでいます。人の手で綴じるという作業がないので圧倒的に量産できます。
このアジロ綴じを拵える訳ですが、ばらしたものを今度は糸で綴じていきます。で、この切り込みがくせ者です。この場合細い糸を使うので、糊でわずかに繋がっている切り込みを糸が裂いてしまうのです。
なのでそうならないため、同じ色合いの和紙を折り目に貼ります。
ここで問題なのが、和紙の厚みです。厚すぎると本の背が和紙分の厚さでずいぶん幅広になってしまいます。小口と背の厚みが不ぞろいになってしまい、見苦しい本になってしまいます。そこで薄い和紙を使いたいのですが、古文書などの修復で使われる極々薄い和紙をこの程度の製本で使うのは気が引けます。なので自分で薄くすることにします。
正直、画像の薄さでもまだ厚い気がしますが、私の技術ではこれ以上深入りすると紙を破いてしまいます。ここで止めます。
先ほど言った細い糸を使うという意味は、この和紙の厚みにあります。丸背の本にしますので、糸の太さが重要になります。糸の太さで丸背のアールを作る訳ですが、そこを細いものにし、和紙の厚みで丸背の効果を狙おうとしています。
貼る和紙の幅5mmの意味は、折丁を二つ折りにすると2.5mm幅になります。使うボール紙の厚さは2mmを予定していますので、耳出しの長さ=表紙のボール紙の厚みというところから由来しています。
これを繰り返し、一冊分の折丁を処理します。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
私のやっている製本は、日本ではまだまだ知られていません。かなり極に位置した行動だと感じます。私なりの工夫で行っていますので、正式なものとは異なる場合があります。そこのところをご理解いただき綴人の note をお読みいただけると幸いです。
それでは今日はこの辺で。
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