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「あしなが」 あきやま ただし/作・絵

 児童文学に携わる人間に必要なのは倫理観だ、とかつて高校の国語教師が言っていた。国語の授業があまり好きではなく全く聞いていなかったにもかかわらず、この言葉だけは何十年もたった今でも覚えている。
 その言葉の是非はさておいて、それはきっと、まだ心の柔らかい十代の子供たちを相手にしていたあの先生の矜持の現れだったのだなあと今は少し思う。

 この絵本はそんな言葉を思い出させる、悪く言えば教訓くさい絵本である。
 あらすじはこうだ。
 舞台はのらいぬたちの世界である。あきやまただしの描く犬たちはそれぞれ個性的でとてもかわいい。ちょっとぶさいくなのもかわいい。
 そんなのらいぬたちの町に、ある時あしが長くすらりとしたうつくしい犬が現れる。
 自分たちと全く違う姿のこの犬を野良犬たちはあしなが、と呼び、あることないこと見てきたように噂をする。
 そんな噂を真に受けていた野良犬のケンはあしながに出会ってやさしくされることによって、自分たちの行いを反省するのである。そして彼は野良犬たちとあしながの橋渡しをして、あしながは彼らの仲間となりました、で物語は終わる。

 噂を真に受けてその人間を判断してはいけない、というお話だ。

 なんかかいつまむと話の筋は説教くさいのだが、興ざめしないのは絵と言葉が素晴らしいからだと思う。
 あしながのやさしさに心打たれた時のケンの表情もすてきなのだけれど、
私はこの絵本の中では最後のページが一番好きだ。
 くったくのないあしながのセリフと、大きく描かれた笑顔。
 ここに長々書いてしまうのはもったいないので、是非絵本を開いて味わってもらいたい。

 そんな素敵な絵本である。

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