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「あたまにつまった石ころが」 キャロル・オーティス・ハースト/文 ジェイムズ・スティーブンソン/絵 千葉茂樹/訳

 絵本というのは、対象年齢の子供だけでなく、それを読み聞かせる親のためにも書かれているのだなあ、とたまに思う。
 この絵本は特にそう思わせてくれる本だ。

 話の内容は実話で著者の父親がモチーフとなっている。
 石が好きで、他に別の仕事を持ちながらもずっとその好きを捨てないでいた特に学歴のない男が、無職になったのちアルバイトで務めた博物館で鉱物学部長になり、最終的には館長になるというお話だ。

 何のことのないサクセスストーリーではあるのだけれど、実話だと聞くと胸に迫る。まず、何の学位もない、ただふらりとやってきたおじさんの能力を認めてきちんとしたポストに付けるような館長がいたということに感動する。この世には劣等感ややっかみや自己保身が満ち溢れていて、それは必ずしも悪いことではないとは思う。
 けれどそれを飛び越えて、きちんとそれなりの苦労と時間を以て学問を収めた人が学位のない人を石を探求するという同士としてきちんと向き合える人というのは、得難いことだ。

 でもそれは所詮自分の能力の限界がうっすら見え始めた大人の意見なのだろうなと思う。
 子供はこの物語をまた違ったように読むのだろう。
 もうその時の気持ちを想像できない私には、この絵本を読んだ後、何かを好きだという他人の気持ちを尊重することの大切さだけが残る。

 他人を否定しないこと、バカにしないこと。
 それなりの年月生きていれば、それぞれに経験から生じたプライドがあり、信念があり、譲れないことがあり、それは少しずつ難しいことになっていくような気がする。
 けれどこの物語の中で、家族や周囲の人たちが作者の父親の情熱を尊敬をもって受け入れたことが、結果として素晴らしいことに繋がっていく。
 バカにするより興味を持って受け入れた方が、お互いの人生は豊かになっていく。

 子供たちに自分の好きなことを極めることの素晴らしさを伝える半面、これはきっと、大人のための絵本なのだなあと思う。

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