
二十歳の君の晴れ舞台 栄光なきクリエイターたち 番外編 ①
人目につかないnoteクリエイターを紹介する「栄光なきクリエイターたち」のシリーズだが、
今回は特別に、一人のクリエイターのその後をお伝えする。(文中敬称略)
「栄光なきクリエイターたち」とは、noteにおいて陽の目を見ない人々という意味を込めたシリーズ名である。御丹珍が非公開の独自基準に当てはまる者の中から、特に皆さんに知ってほしいクリエイターを紹介する趣旨である。
しかし、右腕は取り立ててフォロワー数が少ないわけではなかった。当該記事の公開時点で、御丹珍基準をわずかに1ポイントだけ上回っており、厳密に言えば「栄光なきクリエイター」ではなかった。ただ、どうしても昨年の暮れに合わせて紹介したかったので、良心の呵責と戦いながらも、こっそり下駄を履かせて(規準を下回らせたので、脱がせたと言うべきか)しまった。
そのせいというわけでもないのだろうが、右腕は年を跨いでとんでもない栄冠を手にしたのである。おかげで、私がシリーズ名を偽っている状態になってしまった。実に慶賀すべき大失態である。
全国大会でグランプリ受賞
#003で紹介した右腕こと片桐萌絵(広島大学総合科学部2年・とらでぃっしゅ代表)の「民俗芸能の運営方法と参加システムのリ・デザイン ~サステナブルな民俗芸能を実現するために~」が、去る2月25日「2024年度キャンパスベンチャーグランプリ全国大会」(cvg)において、グランプリ(経済産業大臣賞・ビジネス大賞)を受賞した。主催者によるグランプリ受賞インタビューをご覧あれ。
既にお伝えしたとおり、右腕は女性ビジネスプランコンテストの中国大会において、社会人や大学院生を退けて、学生としては初の大賞を受賞していた。したがって、右腕が全国大会でもグランプリを獲得すると予想しており、私は何の心配もしていなかった。
コンテスト当日から何日か遅れて、審査結果がプレスリリースされるのが通常のようで、コンテストの翌日にニュース検索しても、当日の情報は見つからなかった。すると、御丹珍が運営するコメント解放区(参加制限なし・無料)に、右腕からコメントが寄せられた。
皆さま、ご無沙汰しております!
御丹珍さんいつもお世話になっております。
ご報告です!!!
2/25に行われた全国大会でグランプリをいただいてきました🔥
いつも背中を押してくださる御丹珍さんのお言葉が力になりました。
この場をお借りして感謝申し上げます。
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現在、民俗芸能(日本の伝統的な地域のお祭り・年中行事など)を守り進化させて行くため「とらでぃっしゅ」という団体を立ち上げ活動しております、大学2年生の右腕です!
(この4月に「とらでぃっしゅ株式会社」となります。)
ご興味のある方は是非ご連絡ください!
本人の口から報告があると嬉しいものだね。そういうわけで、右腕に祝いの言葉を贈るかわりに、勝手に本人に成り代わって思う存分自慢させてもらう。あくまでも自慢するのは御丹珍の暴走なので、右腕とは切り離してお読みいただきたい。言うまでもないが、右●切●という意味ではない。また要らんことを思いつきで書いてしまった。縁起でもない。例によって、上から目線の放言をご容赦願う。
存続の危機に瀕する祭り
日本を代表するともいえる愛知県奥三河の「花祭」は、豊根村ではいくつかが行えなくなり、東栄町でも3月初めの布川の花祭は、2019(令和元)年を最後に休止となった。布川の戸数は14戸で、祭りに携わる10人のうち6人が80歳以上となり、休止せざるを得なくなった。
民俗学の界隈では、「奥三河の花祭」を知らぬ者はいない。文字通り日本を代表する民俗芸能だが、過疎化と少子高齢化の荒波には逆らえず、花祭を休止する集落も出始めている。
右腕は、大好きな花祭がいつまでも続くように、また日本各地の民俗芸能が存続するように、外部から担い手を送り込む仕組み作りに取り組んだ。これが高い評価を受けて今般の全国グランプリ受賞となった。
誰にも負けない好奇心と郷土愛
右腕は、三河地方の新城市の出身で、さらに北方の山あい奥三河の北設楽郡東栄町にルーツを持つ。民俗芸能の代名詞とすらいえる奥三河の花祭の中でも、最も伝統に忠実とされる古戸集落の花祭に携わってきた。
現在は故郷を離れて、東広島市にある広島大学に通学する。人並みに泣き笑う至って普通の女子大生である。
御丹珍から見た二十歳の右腕の奇特(辞書で語義を調べよう)な性質を挙げる。
気分の切り替えが早い
自らの興味に忠実
進んで他人に奉仕する
あくまでも、私が右腕のnoteを読んでコメントなどのやり取りを経た印象であり、本人と面会したことはない。しかし、いつしか娘を見守るような心持ちで応援するようになった。右腕の愛すべき人柄もさることながら、限界に迫るハードなタスクを明るくこなしていたからである。
学業以外にも、民俗芸能を支える活動、アルバイト、短期留学、山間地でのフィールドワークに、なんと野球部のマネージャーまでこなしている。ドラマ『スクール☆ウォーズ』に出てくる、川浜高校ラグビー部マネージャーの山崎加代(演・岩崎良美)も真っ青になるような八面六臂の活躍である。
気分の切り替えが早い
この上ない栄冠を手にした右腕だが、noteには苦悩も綴られている。
私はこうした右腕の独白を読んでいるので、グランプリを受賞したことよりも、日々の感情に流されずに前を向いて歩く彼女の姿を誇らしく思う。若き日の我が身を振り返ると、いかにちっぽけなことでくよくよして引きずってきたか。気分を切り替えて一歩を踏み出す勇気は、何ものにも変え難い財産である。
しかし、私は愚痴を吐く等身大の右腕を見ると、張り詰めて破裂しそうなストレスから解放されていることを確かめ、安堵を覚えるのだ。
自らの興味に忠実
右腕は、つくづく人の世話をやくのが好きらしい。大学の軟式野球部の選手達は、女子マネージャーの右腕を打席に立たせてくれたという。粋な計らいをしてくれる仲間は大切にしたいものだ。
夏休みには短期留学と忙しい。うんうん、今のうちに多くの文化に触れておくことだ。
この他にも在学中にテキサスへ短期留学をしている。多用な中でも決して出し惜しみをしないことが成功への秘訣だろう。
進んで他人に奉仕する
右腕の願いは、これからもずっと花祭を舞い続けたいだけなのである。それだけに留まらず、自分の願いを社会全体の課題として捉えた。
民俗芸能の継承という同じ危機に瀕する地域の役に立とうと、大学が所在する東広島市の三津祇園祭では、大名行列に加わる有志を募った。「余所者」による突然の提案が受け入れられるまでに、どれほどの誤解に苦しんだか想像がつかない。
今も右腕が携わる民俗芸能は増え続けている。
年はうんと離れているが、御丹珍が右腕から見習うことのほうが遥かに多い。
ここからはうざい説教が続く
御丹珍らしくぐだぐだと上から目線で、右腕に注文をつけていく。
民俗芸能を政治利用から守りなさい
全国グランプリを受賞したことが広く世間に知らされる君だからこそ、気をつけなければならないことがある。老婆心ながらあえて公開の場において上から目線で忠告する。
民俗芸能の継承には公的な保護も必要となろうが、政争の具に利用されてはならない。
特定の政治家に傾倒することは避けなさい
君はまだまだ世間知らずだ。信用ならない政治家の口車に乗せられてしまう危険性を孕んでいることを自覚しなさい。以下の文を読んで、賛同すべきかよく考えてみることだ。
私がこの活動を始めたきっかけは悔しさでした。変わりそうにない日本、自分の生まれた国、日本に誇りを持てないことについて、とてつもない悔しさを感じました。私たち日本の若者は政治離れの世代だといわれていますが、日本の若者は政治に興味がないのではなく、政治を信頼する理由、投票する理由が今はまだ見つからないことが多いのです。差別発言、議会中の居眠りなどを繰り返す様子が日々放送されています。このようなことをする政治家の皆さんばかりではないのは分かっています。市民の声を最初から聞いてくれないように見える日本の政治に、誰が協力しようとするのでしょうか。放送されているような政治家の皆さんばかりだと日本は変わることはないでしょう。
けれども、39歳の市長が居眠りする議員に向かい「恥を知れ」と叫んだ時、日本はまだ変われる。私はそう思うことができました。政治家として議会で寝ないのは普通のことのはずです。政党や思想関係なく、その普通を取り戻そうとしてくれている大人たちがいる限り、日本は私が誇れる国になれるはずです。
政治家の皆さん、私の発言は実現性がないでしょうか。理想的すぎるでしょうか。私たち若者は見るはずではなかったつらい、悔しい日本の現実を見てきています。それでも理想や希望をまだ持っています。政治家になる前にかっこいい大人になってください。私たちに子どもらしく夢を持たせてください。私たち日本の子どもは皆が理想とする、かっこいい日本になってくれるのをずっと待っています。私たちはいつまで待てばいいでしょうか。
どうだい?私は彼女のスピーチを聴いてかっこ悪い子供だと思った。幼くして頭が良くて弁が立ち、おまけにリーダーシップまで発揮したがゆえの驕りが見られる。一部の世論に釣られてバッシングに便乗してしまった自覚が彼女にはない。若者が政治を見つめることは大切だが、二十歳の君には政治行動の正邪を判断できるほどの知見が、まだ備わっていない。
議員の居眠り?(睡眠時過呼吸症候群で意識を喪失、のちに病死)を議場で咎め、SNSで繰り返し追及する市長の、どこがかっこいい大人なのか?子供だけではなく多くの大人がこの欺瞞を見抜けなかった。
しかし、こんな横紙破りの市長でも民俗芸能には理解を示してPRして見せるのだ。油断は禁物である。
SNS戦略やブランディングを提案するPR会社の女性社長が執筆したnoteの記事が大炎上した。
PR会社に依頼した斎藤元彦は、兵庫県知事選挙に当選したが、PR会社には公職選挙法違反の疑いで兵庫県警と神戸地検がダブルで家宅捜索に入った。
対岸の火事ではない。彼らは君と同じように、社会やビジネスの在り方やその仕組み作りを、若くして真剣に考えてきたのだよ。
恥じることはない。わからないことは正直にわからないと言いなさい。これから勉強すれば良いのだ。生兵法は怪我のもとである。
「いくら御丹珍さんとはいっても、なんで自分が起こしたわけでもないことで、長々と説教されなきゃならないのか?」
君が立ち上げた会社も、このPR会社と立ち位置に大差はないのだ。君も今後はこの会社と同じく、広島県や広島市などの自治体を相手にプロジェクトの提案をすることになるだろう。人は目の前にニンジンがぶら下がっていると、これほど盛大にやらかしてしまうのだ。今のうちから襟を正して他山の石としなさい。
画一的なグローバリズムと偏狭な民族主義からは距離を置きなさい
グローバルとローカルを結合させた造語として、グローカルが定着して久しい。glocalはglobalのbをcに変えただけだが、gの後ろにはlocalがそっくりそのままつくのである。
グローバリズムと聞くと、ユニバーサルな連帯を想起するかもしれないが、早い話が先進国が定めた基準に各国を従わせるのが実情である。
大切なのは地域の自律性であり、グローバルな規模でそれぞれの独自文化を認め合うことが、グローカルの真髄である。
いずれは君の前に、「民俗」を「民族」と混同し、民俗芸能を民族主義と牽強付会する凝り固まった思想の持ち主が現れるだろう。彼らは、「保守」「民族派」などを自認するから要注意だ。中国地方だと、杉●水●とか小●田●美とか。特に後者のプロフィールを一読すると、多様性を尊重していると誤認しやすい。
民俗芸能を守るには、地域を限定されない全世代とりわけ女性の参加が不可欠だ。しかし、多様性を軽んじ、隙あらば日本民族の優越を唱える者は、あらゆる属性による民俗芸能へアクセスする権利を台無しにする。「民俗」とはすなわち「民族」を意味しないと明言しなさい。民俗とは世界中の何処においても尊重されるべき、それぞれの地域に住まう人々の生き様なのだ。民俗を知ることと日本SUGEEEEEとは対極に位置する。
先住民の民俗を敬いなさい。君の愛する民俗芸能が失われないように。
日本だけでなく、世界の民俗にも関心を持ちなさい。単にアカデミックなアドバイスではない。君の活動が国粋的な勢力に利用されることを防ぐためでもある。
しかも、日本の民俗の特徴をより深く理解するのに役立つだろう。
ライティングのスキルを磨きなさい
以前はこのシリーズで聞き書きについて書いた。記事中の聞き書き引用文は、君にも読んでほしくて選んだものである。
花香(民宿の名称)を続けてこれた原動力はお客さん。お客さんが来てくれんと終わりだもんでね。私はこの地域の人たちをすごく大事にしてる。民宿を始めたころから、「花香に行ってみ」って地域の人から聞いて来てくれたっていうお客さんの声があって。これはやっぱり、地域の人たちを大事にしないと、お客さんができないなって思った。そいで、応援してくれる人たちの言葉を信じて、頑張らなきゃって思う。もし、生まれ変わっても花香をやってみたいと思う。もっとほかにも、やりたいこともあるけど、できないでいいから、生まれ変わっても、みなさんに可愛がられたかなって感じるし、この仕事が好きだから。それが一番良かった。名古屋の方行ってたから、そっちで結婚して、戻ってこなきゃこんなとこにはいなかったかもしれんなって思うけどね(笑)。だから、ここに備わった人生だなって思う。何もできないけど、お客さんだけは大事にしようと、なんとかやってる。
この「民宿 花香」は愛知県北設楽郡豊根村にあった。残念ながら現在は閉業してしまった。豊根村は人口1000人を下回る寒村である。豊根村で民宿を開くことがどんなに大変かは、三河人の君には説明しなくてもわかるだろう。耳を傾けるべきは、このように細々と地域を支える人達による生の声なのだ。
民俗芸能の多くは口承を基本としていた。これほど取材調査に聞き書きのスキルが求められるジャンルはないだろう。
何よりも先んじて自分が幸せになりなさい
胸糞悪い説教を続けてしまった。
最後に、学業もライフワークも遊びも仕事も恋も、どれも諦めることはない。やりたいことのすべてに励みたまえ。君がやりたいことを理解してくれ、その労苦を忘れさせてくれる相手を選びなさい。
ただし、勘違いしてはいけない。君が床に伏せった時に、枕元で甲斐甲斐しく付き添う男よりも、「何かあったらすぐに連絡するんだぞ」と言い残して勤めに向かい、飛んで帰ってくる男を選びなさい。なぜなら、君が家庭と仕事の両立に悩んだ時に、一時的にでも安心して家庭に入るには、パートナーの経済的自立が欠かせないからだ。すべてに励めとは言ったが、体は一つしかない。やがて何か一つを選ばなくてはならない時が来る。
その時は、迷わず自分の幸せを選びなさい。
理解があって経済的に自立したパートナーさえいれば、またチャレンジできるよ。
恋は焦らず、ただし後回しにしてはいけない。鉄は熱いうちに打て。
命短し恋せよ乙女
月並みだが、この言葉を君への餞として贈る。くれぐれも体には気をつけるんだぞ。