#067 お客様は神様です
インカムからノイズ混じりの声が聞こえる。
「オープンします。お客様ご来店です」
自動ドアの電源が入り、ガラスの扉が左右に開く。
午前の太陽が逆光となり、お客様には後光がさしている。
「おお!神よ…」
副店長はぬかづき、涙している。
「神は偉大なり!」「我らが主よ!」
スタッフは口々に神を讃える、声さえ出せずに嗚咽を漏らす者もいる。
新人スタッフは、一瞬のうちに失禁していた。
神がわたしに語りかけた。
「あのさ、店長さん呼んできて」
おお、神は試しておられるのだろうか。
私です!私が店長です!と叫びたい衝動を抑え、慎重に言葉を選んだ。
「あいにくですが、店長は本日不在にしております。差し支えなければ、どのようなご用件かお伺いできますか?」
神は答えた。
「あなたに話してもしょうがないから、もうそういうレベルの話じゃないんで。じゃあ店長さんの次に偉い人呼んできて」
副店長はあまりの威光に失禁していたが、ご寵愛を受ける機会であると説得し、神の御前に連れてきた。
「これ、動かなかったよ。おかげで昨日一日、仕事ができなかったんだけど、どうしてくれんの?」
副店長は震えながらに答えた。
「失礼ですがお客様、どのような不具合か、拝見してもよろしいでしょうか」
神は言った。
「疑ってんの?客の時間奪っておいて。じゃあこれが本当に不良品だったら、あなたどうするの?」
副店長は後ろからも失禁しながら、答えた。
「大変失礼致しました。それではお客様、ご返金いたしますのでレシートを拝見しても宜しいでしょうか」
神は震える子羊に、更なる試練を課した。
「ねえよ!普通捨てんだろレシートとかよぉ!不良品売りつけといてなにその態度?おたく、おかしいんじゃないの?」
副店長では信心が足りなかったか。
いや、神はそれすらもお見通しでおられる。
かような試練を賜るのは、きっと我々の行いにご不満があるからだ。
明日からはもっと、スタッフを厳しく教育し、神様にご満足いただけるよう、頑張ろうと思う。