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My Mind Wanders

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短編小説をまとめました。 有料部分に小銭を投げ込むと、投げなきゃよかったなーと思うような数行のあとがきが表示されるとか。
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2014年5月の記事一覧

浮かぶ猫(短編小説/1565字)

 飛行船が飛んでいるよと友人からメールがきたので、窓の外を見る。

 狭い視界に飛行船は見当たらず、かわりに猫が飛んでいた。

 へえ、猫って空飛ぶんだ、と思いつつ、窓を開けた。

 開けた先に見えるのは背の高い植え込みで、道路とアパートの敷地を区切っている重要な境界線だ。窓から植え込みまではわずか一メートルほど。狭苦しいうえに見通しも悪いけれど、うちには他の窓はない。

 視界からすぐに消えたの

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悪い予感(短編小説/897字)

 僕の彼女は、よく悪い予感というやつに出くわすと、とてもそれを気にして生活する。

 悪い予感はあくまで予感であって、具体的に何が起こるといったことはまるで分からない。ただ、嫌な感じがするらしい。

 占いやオカルトに興味があるわけではないらしいけれど、彼女は予感を気にする。

 なら的中率が高いのかというと、そうでもない。だいたいは外れる。外れたあとの彼女は、しばらく神妙な顔つきになる。当たらな

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浮かぶ人(短編小説/471字)

「すみません駅員さん、ちょっとお聞きしてよろしいですか」
「はい」
 業務用の笑顔で応じる駅員に、地図の一角を指し示して、僕は訊いた。
「ここに行きたいんですけど、ここから歩いてどれぐらいですかね」
「私はあなたがどれぐらい歩けるのかを知りませんから、それをまず教えていただけませんか」
「なるほど、そういえば僕は歩けませんでした。浮いてます」
「ははぁ。では無理ですね。あなたは目的地に辿り着けませ

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空回り(短編小説/340字)

 何をしても、何もしなくても、

 寝ても醒めても、眠くて眠くて。

 頭が回らない回らない。

 回らないなら飛ばしてみるしかないということで、折り紙で作ったプロペラを付けてみた。

 だけど頭に取り付けたプロペラは回さないと飛ばないのが世界の常識、ドラえもんの常識だ。

 手動で回せば回ることは回るが、頭が回らないのにプロペラだけが回るという状況には許しがたいものがある。

 なのでプロペラに

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