日銀総裁は、投資経験あった方が自然かと。
割と現実的な金融資産保有額。
日銀が新旧総裁の保有する金融資産の状況を公開したことが話題となった。植田和男氏は投資信託5,000万円超1億円以下、その他金融商品が2,500万円超5000万円以下とのこと。
しかし、この情報は日銀のホームページには掲載されておらず、直接日銀に出向かなければ見ることができないあたりが、国をあげてのデジタル化に逆行している感が否めない。
とはいえ、前総裁が公開条件に該当する資産を保有していない(=預貯金のみと推定)の状況を考えれば、実際に経済学者として個人的に金融商品を扱った経験のある植田氏の方が、実情に見合った、現実的な金利政策を行なってくれるのではないかとの期待が膨らむ。
ただ、投資信託とはいっても幅広く、公社債投資信託なのか、株式投資信託なのか、外貨建てMMFなのかと多岐にわたる。
ないとは思うが、レバレッジ型やインバース型。ベア型、ブル型まで考え出したら、投資信託という名のギャンブルに近い可能性もゼロではなく、信頼感に繋げるためにも、ファンド名は控えても、どの種類のファンドなのか程度は公表したほうが、メリットの方が大きいように思う。
個人的には経済学者の出自と、70代で7,500万円〜1.5億円を運用している状態は、若い時から長期・分散・積立を行なっていれば、庶民の金融資産保有額と考えても、割と現実的な数値のように思う。
過去のコンビニ弁当発言が、庶民派アピールなどと批判の対象になったり、某ゴシップ誌が審議員の年収や、社宅の豪邸っぷりをほじくり返していたが、その時の植田氏の受け答えが至極真っ当で、堅実さすら感じる内容だった。
国会答弁でも質問通告不要のぶっつけでも、答えに詰まることはない辺りからも、裏があるようには思えず、村社会あるあるの、快く思わない人が足を引っ張っているだけのように映る。仮に全て演技で、庶民が完全に騙されているとしても、それはそれで相当優秀だと思う。
投資経験なく金融の舵取りは無理がある。
そもそも、多くの人が情報として収集している株のニュース番組や、日経新聞、会社四季報などを制作する側の人たちは、インサイダー絡みから自由に売買することが出来ないため、必然的に投資の世界からは遠ざかる。
法令遵守を徹底すると、結果として投資をしていない人たちが、いかにもそれっぽい理由を列挙したり、こじつけてメディアコンテンツを制作せざるを得ない、構造上の問題を抱えている。
これらの媒体で得た情報を、鵜呑みにして取引をしてしまうと、間違った判断をする可能性が高い。だからこそ、ひとつの意見、見方として参考にした上で、自分の考えで取引するのが重要ではないだろうか。
情報強者だと利益が出てしまう、金融商品だからこそのジレンマを抱えている訳で、冷静に考えれば、自社の保険商品を契約していない、保険の営業マンから商品を勧められたり、自社の乗用車に乗っていないカーディーラーから、新車を勧められても、知識や経験がなさそうだと不安になって買いたいとは思わないだろう。
しかし投資の世界では、立場を利用して私腹を肥やさないために、逆のことが求められ、これまで金融資産を運用したことがないような、預金一辺倒な、いわゆる投資の素人がいかにもそれっぽい用語を列挙して、金融政策の舵取りを行なっていた訳である。
某国のトップが、突如「資産運用立国」宣言をしたのは記憶に新しいが、その発言をした当の本人が一切の株式を保有していないのだから、何の説得力もないだろう。
これまでの日本はそうした偉そうなおっさん達が、言葉遊びをしていただけなのだから、経済が上向く筈もない。だからこそ投資経験があり、経済学者でもある新総裁の植田さんが、これからの金融政策の舵取りをする意義は大きい。
あちらを立てればこちらが立たず。
とはいえ、植田さんが日銀総裁として切れるカードは限定的と言わざるを得ない。昨今のインフレは諸外国との金利差によって、円が売られていると捉えられ、他国のように利上げに踏み切れば円高方向に動くとの見方が強い。
確かに米国債では年率4%超の利回りにも関わらず、日本の国債は0.5%と見劣りするため、円を売ってドルを買う動きになるのは明白である。
円安を抑えるために利上げに踏み切ることは、10年物国債の利回りが上昇する=固定金利の住宅ローンの利率が上がることを意味し、不動産業や建設業、ローンを組むのに必要な金融機関、家具などの小売業など、影響は多岐にわたるだろう。
それだけではない。SVBが破綻したように、短期間で矢継ぎ早に利上げすることで、これまでに発行された債券価格は暴落する。日本で多くの国債を保有しているのは、他の誰でもなく日銀なのだ。
700兆円規模の日銀のバランスシートで、純資産は3兆円と少なく、資産の部にある国債は600兆円近く占めている。これが利上げで暴落すれば、日銀は債務超過となるため、FRBのような利上げができないとの見方が市場では強い。
また株価を支えるために、これまで行なってきた公開市場操作(買いオペ)で保有している40兆円近いETF・REITも、日銀が事実上の主要株主となっている銘柄があることから、株式市場の健全化のためにどこかで売却しなければならない。
しかし国策でNISAを拡充するなど、「貯蓄から投資へ」の流れで、ETFの売りオペでもしようものなら、株価が暴落して投資初心者に冷や水を浴びせる可能性があり、その出口戦略は未だに掴めていない。
債券や株価が下落することは、我々の年金保険料の一部を運用しているGPIFにも影響が出る。
各方面で対策が望まれる一方、あちらを立てればこちらが立たずの状況下で、日銀総裁としてどのような舵取りを行うのか、投資経験があるだけに動向が気になる。