民営化で失われる公共の利益。
普通郵便大幅値上げ。
郵便料金が24年の秋から改定されるらしい。事業モデルが類似している宅配業では、従業員の待遇改善を主な理由として、最近になって値上げしている印象があり、インフレする以上、値上げ自体は致し方ない側面がある。
しかし、現状ではいわゆる公共事業の多くを民間企業が担っており、公共性と営利性は水と油の関係にあるため、本来であればカネにはならないが、社会のために運営されるべき公共事業で、採算を得ようとして無理が生じている。
これまではエッセンシャルワーカーの重責かつ低賃金。それでいて不安定な雇用によって、価格据え置きで公共サービスのレベルを維持して来た。
それが元鉄道員の私然り、アルバイトに毛が生えたレベルの待遇で、社会の歯車として、ひとりの人間というよりも、交換可能な部品の如くこき使われて、手取り13万円は自己責任です。みたいな世の中の風潮から、行動力のある者ほど、やってられねぇと抜け出しては内情をボロクソに記す。
その結果、同業他社が国交省のパブリックコメントで、13連勤手取り14万電鉄と揶揄される、あまりの漆黒具合から誰もやりたがらなくなり、代わりはいくらでもいると豪語していた人事部が、新しい奴隷契約者を集めるのが困難になったことで、賃上げするための値上げに踏み切っているのが現状だが、完全なる自業自得でしかない。
そうして、相次ぐ値上げまたはコストカット、もしくはその両方でサービスレベルを低下させているのが、郵便、宅配、鉄道、バス、銀行など、ここ最近の公共事業全般に起きている事象と言える。
独立採算制でも、コスト意識は生じる。
国鉄の分割民営化や郵政民営化の際に、常套句となっているのが、民営化で高コスト体質が改善され、より良いものになる的なことを、現場を知らない偉そうな方々が得意げに説明している。
確かに組織内でコスト意識を持つことは、事業を継続する上で重要と言える。現に日本航空が2010年に経営破綻して、稲盛和夫氏が経営再建の舵取りを行なった際に行ったのが、一便を運航するのに掛かる費用の算出だったが、規模の大きな組織ゆえにコスト意識が希薄で、算出まで半年以上の期間を要したと言われている。
運航コストと一口に言っても、機材の減価償却費や燃料費に留まらず、退職給付なども加味した人件費、航空機を金融機関からの資金調達やリースで賄う場合の利払い費用、運賃収受で支払う決済手数料などの、細かい数字を把握して、きっちり一便の運航費用を算出するのは意外と難しく、管理会計というひとつの学問になる領域だ。
これらを民営化してしまえば、否応にもコストを意識しなければ永続事業体として生き残れないことと、世論も相まって安直に民営化している印象があるものの、別にひとつの営利企業として再スタートさせるまでもなく、独立採算制にして、公金を投入しなければ、状態としては民営化の狙いとして、割合近いものになるのではないだろうかと素人ながら思う。
公共事業は非営利でやるべき。
むしろ民営化に舵を切って、営利企業として利益を追求してしまう状態は、郵便や上場しているJRがそうであるように、公共機関としての体裁を蔑ろにしてしまわないだろうか。
儲けようとするから、コストカットで普通郵便や窓口は平日しか扱わないとか、後者に関してはお昼休みに窓口を閉めようとしている。そのうえで値上げされる。
鉄道に関してはヤードスティック規制で運賃の改定には国交省の認可が必要だから、値上げは軽微なものの、駅の無人化や、乗務員のワンマン化など、露骨なコストカットを繰り広げている。
健常者であれば無人でも不自由ないかもしれないが、乗降に合理的配慮が必要な方からすれば、前日までに連絡しないと係員が居ない状態では、移動する権利が生存権で定められているにも関わらず、それが憚られている状況を意味する。
人間誰しも、生きていれば突発的に移動しなければならない急用が当然ある訳で、その際に乗降に合理的配慮が必要なだけで、事前に連絡してこなかったのだから、利用できないのは自己責任です。みたいな状態で良いはずがない。
今は健常でも、不慮の事故や病気、老衰によって誰もが誰かの世話にならなければ生きていけない局面が到来するのだから、交通弱者が最も必要としている筈の公共交通が利用できず、費用負担の重いタクシーなどを使わざるを得ない状況は不健全ではないだろうか。
そのために赤字を垂れ流しても良いと言いたい訳ではなく、公共の利益を整備するための事業で儲ける必要はないでしょうにと、つまり収支トントンの非営利で運営すれば、弱者に対して優しいサービス水準で、民間よりは割安な状態が創れるのではないかと思う。
とはいえ、非営利事業だと民間ではメリットがないから、公営事業として独立採算制で運営する。それにより雇用も創出できるし、民間だと儲けたお金は株主に帰属するが、その分が従事者や利用者に還元される筈である。
そうなると、徐々に不便になって困る利用者も減らせつつ、私みたくやってられねぇと、やりがい搾取に嫌気がさして辞める現役世代も減らせるような気がしてならない。
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