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あの寿司への愛

 寿司屋に行く時に絶対頼むのは”かっぱ巻き”だ。

 マグロやトロにサーモン(久保田)にイクラ、真っ白な酢飯の上に赤く艶やかなネタが載った寿司屋の主役たち。そこに迷い込んだ場違いな黒い棒。

 きゅうりの周囲に酢飯がまとわりつき、さらに外側を海苔が覆う。かかっているコストが明らかに違う。だって海や河川で力強く生き抜いてきた魚介類を使った寿司に対してこっちは”きゅうり”だぜ?しかもそのきゅうりも1/4程度しか使われていない。断面が○⇨Δなのだ、他の部分は何処へ?

 回らない寿司屋なんてほぼ行ったことないからそっちの事情は知らないが、回転する方の寿司屋では両者の値段にたいして差はない。かっぱ巻きはボッタクリすぎる。あるいは他の寿司が異様に安すぎる。

 でもなぜか頼んじゃう。回転寿司でかっぱ巻きを頼むと結構面白いのだ。店舗によって、なんなら日によってクオリティがぜんっぜんちがうからだ。全寿司ネタ中もっともクオリティにバラツキがあるんじゃないかな?全国に6人ほどはいるであろうかっぱ巻きフリークにとっては定番のあるあるだと思う。

 回転寿司の寿司は原則バイトが作る。ヘイ(siri)大将!!って感じの腕を組んだ腕利きのおっさんが腕を鳴らして作るわけではない。働いたことがないのでほぼ妄想だがマシーンが作っているはずだ、腕じゃなくてアームによりを掛けて。

 🍣←この絵文字みたいな、シャリの上に長方形のネタが載ったオーソドックスなタイプの寿司ならば、マシーンがアームをふるって成形してくれる。適度に空気を含み、形状の安定した職人レベルのシャリを鬼のように量産しているだろう。これを書いている今も全国のチェーン店で大量生産中だ。

 だけどかっぱ巻きはおそらくマシーンで作っていないはずだ。くどい様だが同じチェーンでも、どころか同じ店舗でも全然違うものが出てくる。

 同じ値段でキラキラした寿司が食べられるこの時代。きゅうりを海苔で巻いたひもじい棒をわざわざ頼む人間はいない。アレを自動化する価値なんてないのだろう。他の寿司と製造過程が全然違うしね。🍣これみたいにシャリにシート状のきゅうりを載せても良いのにわざわざ簀巻きを使ってギュっっってやるのだろう、全編アナログでお送りしま〜す。

 それゆえ供給側も基本的にかっぱ巻きが注文されることを想定していない。他の寿司と同時に頼んでもかっぱ巻きだけかなり遅れて提供されるのはこのせいだろう。私の目の前に流れてくるかっぱ巻きは、抑えが緩くて崩壊しかかっている個体や包丁の通りが甘いのか海苔が全部繋がっちゃってる個体に、しばらく放置されていたからなのか既にあたたまっている個体など千差万別だ。かっぱ巻きはオーダーを受けた時のバイトのダルさの様な概念を一身に背負って流れてくるのだ。雑すぎてほぼおにぎりじゃねえかってのが提供されて笑うこともある。

 良くも悪くも個性的で楽しいのだが、たま〜に当たりが出てくる。きっちりと整った切り口からきゅうりの瑞々しい緑色を覗かせる美しいかっぱまきに時折出会う。見た目の美しいかっぱ巻きは歯触りも絶妙なのだ。歯で薄くピンッとハリのある海苔を突き破ると少し固くしまったシャリにあたる。そして待つのはカリッとみずみずしいきゅうりだ。味の主張の控えめなきゅうりにはわさび醤油がよく合う。わさびと醤油を最も美味しく味わえる媒体はかっぱ巻きだと本気で思っている。

 ああ、最高のカッパ巻きに会いたいよう、、、回らないところに行けば出会えるのだろうか。でも忘れてはいけない、きっと数多の雑魚カッパの存在が絶品カッパの価値を高めてくれていることを。クソだりいバイト君たちも絶品カッパを演出する一員なのだありがとうね!

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