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喪服を買った話

 今現在の我が家にはお迎えの近い者が2名いる。

 そのうち1名が愛犬で、今年でなんと18歳にもなるご老体だ。人間なら就職や大学進学を控える頃であり、選挙権を得たりレンタルビデオ屋の暖簾の向こう側へいけたりと独り立ちのスタートと言える年齢であろう。だが犬にはそこから先の人生(人じゃないけれど)は用意されていない。ここがゴールなのだ。とても寂しいことだが、彼はここまで大きな怪我や病気もせずに家族に愛され生きてこられた。悲しいことでもなんでもない。

 そしてもう1名が祖父だ。今回の話の本題。

 年齢は92というこれまた高齢で、これまで病気や怪我もしていない。入院もしたことがなかった。数年前までは毎朝新聞に載ってるクロスワードパズルを解き、趣味兼特技のフルート演奏や書道に精を出す理想的な老後を送っていた。

 だが最近になってほぼ寝たきりになり、ついこの前調子を崩し、睡眠やトイレ、入浴の介助が祖母や他の家族だけでは困難になったため長期入院となった。

 しかし調子を崩したというものの、担当医の見解では驚くことになんと、特にどこも悪くないのだという。

 マジのマジで純粋な老衰で人生の終わりを迎えつつあるのだという。しかもフルートや筆や硯も、使わ(え)なくはなったものの、ほぼ毎日手入れはしていたのだという。このエンディングも悲しいことではないはずであり、むしろ幸福なことだろう。だからこうしてnoteのネタにしているのだ。これは不謹慎ではないと俺は判断する。

 今回の入院を受けて母から家族各位へ「今のうちに喪服を入手せよ」の指示が飛び、俺も喪服の購入に至ったのだ。亡くなる前に用意するのはあまり縁起が良くないことだが、まあ別にどこも悪くないし、本人も痛くも苦しくもなさそうなのでそれくらい許してくれるだろう。

 といいつつも、最近疑問に思うことが出てきた。

 今の病院ってコロナ対策で全然面会受け付けてないのな。

 てっきり祖母は定期的に祖父と顔を合わせているのだと思っていたが、実は入院以来会っていないのだという。

 なるほどな。確かに病院にはさまざまな症状を抱えた患者がたくさんいるからそこに外部から新型コロナウイルスを持ち込まれたら大ごとだ。俺は普段暮らしていてなんとなく「コロナ禍はおわった😀」って印象をもっていたが、医療現場は今も対策を余儀なくされているのだと初めてまともに意識した。知識ではまだ新型コロナがなくなったわけではないってのは知っていたが、実感が伴うと受け止めかたも異なる。

 そこで心配事が一つある。

 じいちゃん、たぶん一人暮らししたことないんだよ、、、常に家族や仲間に囲まれて生きてきた人だ。

 過去に一度、3泊4日程度の検査入院をしただけで毎朝「今日は帰れる日か?」と看護婦に尋ね、違うと聞いては落ち込み、「〇〇さん、今日はセンチメンタルですね」と言われていたらしい。(面会した時に「センチメンタルってなんだ?看護師さんに言われた」と聞かれて判明した。)

 俺は実家を離れているため知らなかった。病院はまだ面会を受け入れられる状況にないことを。今日家族に聞いて初めて知ったのだ。それまでは普通に定期的に面会してるもんだと思って気にしていなかった。

 どんな心境なのか。孤独を感じているのか、ボケが進行しつつある+ほぼ寝て1日が終わるため気にしていないのか、スタッフさんたちが手厚く家にいるより快適かもしれないけれど。いつかは家に戻ってこられることを願っているかも知らない。

 喪服の初舞台がもう少し先延ばしになることを念じつつ押し入れにしまい、自分のやるべきことに取り組むのが今できることかな。


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