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Column Vol.16: GOWS-J 2024 参加レポート

レラテックは2024年9月3日から4日に北海道で開催されたGlobal Offshore Wind Summit – Japan 2024に小長谷・水戸・中里・上月の4名で参加してきました。今回のコラムではそれぞれの視点からイベントの所感についてお届けします。

参加メンバー
小長谷:レラテック代表。神戸大学の学術研究員として洋上風況調査に関する研究も実施。
(一社)むつ小川原海洋気象観測センター理事を兼務。
水戸:風力発電開発のためのライダー観測をはじめとした風況観測業務を行い、ライダーに関した研究も複数実施。
中里:風況観測や解析、シミュレーションを広く担当。
上月:風況シミュレーション・解析を担当。気象予報士の資格を持っている。

GOWS-Jとは

Global Offshore Wind Summit – Japan(以下、GOWS-J)は、日本における洋上風力発電の大きな可能性と強力な産業基盤を活用することを目的とし、2021年から​毎年開催されています。開催期間中は、業界の専門家や企業が集まり、技術革新、政策、ビジネスの機会に関する情報交換や議論を通し、日本の洋上風力市場の成長支援や地域の経済活性化・脱炭素化の目標達成に貢献することが狙いです。

第4回目となる今回は札幌にて開催され、26カ国から1,300名以上の参加者が集まりました。さらに日本、韓国、台湾の風力発電協議会が初めて一堂に会する機会となりました。

レラテックメンバーの所感

講演会について

▼トピックサマリー

  • APAC(アジア太平洋)エリアの洋上風力産業では台湾がリード、外資企業も定着

  • 英国やフランスで浮体式洋上風力の大規模開発が本格化

  • ヨーロッパでは北部は着床、南部は浮体の開発を進行

  • 日本は造船/海洋工事などトップクラスの技術を活かせるよう一丸となることが重要

▼講演についてメンバー所感

上月:
経済・地理・異国政治差に踏み込んだディスカッションも行われ、非常に広い視野から、国内市場を考えるきっかけとなりました。

普段携わっていない、バリューチェーンの上流・下流に位置する技術課題の話から、 今後の技術タスクに関する多くのヒントを得ることができました。特に印象に残ったのば”海象”に関することです。普段は気象寄りの内容ですが、建設~運用のテーマにおいては海象が想定以上に重要であると痛感しました。

中里:海外における洋上風力産業、特に欧州とAPACエリアの比較が興味深かったです。改めて台湾の洋上風力産業は、APACの中でも1歩、2歩先を進んでいますね。外資企業も定着しており、政策がしっかりしている印象です。

海外の有識者も指摘していますが、日本国内は造船や海洋工事等、世界的に見てもトップクラスの技術を持った企業が多数存在するため、それらの技術をまとめ上げることが重要だと改めて実感しました。とにかく海外の潮流と逆行するような状況、つまりガラパゴス化しないことですね。

欧州市場については、特に英国やフランスにて、浮体式洋上風力の大規模開発がいよいよ本格化するとのことでした。欧州は北部と南部で状況が異なり、北部では北海エリアを中心とした大規模な着床式風力、南部では陸上風力+浮体式洋上風力の開発が進められています。日本が目指す先は、南欧の方針に近いような気がします。浮体式洋上風力では、主体となるプレイヤーもまた変わってくるのではないでしょうか。

一方で、欧州北部でもノルウェーやスコットランドなど北海油田開発の技術を利用して、浮体式洋上風力の開発が加速しているケースもあり、注目です。

小長谷:私は三菱UFJ銀行さんによる「洋上風力発電事業におけるオフテイク戦略とバンカビリティ」という講演が非常に勉強になりました。以前にレラテックでも風力発電市場のプレイヤーについて紹介しましたが、その中のオフテイカー(発電した電気を販売する相手方のこと)について注目した内容でした。

私たち風況コンサルタントはウィンドファームが作り出す発電量を予測しますが、その電気がプロジェクト期間(20年以上)を通して売電されないと、プロジェクトは成立しません。このような売電に関わる不確実性(オフテイクリスク)について学ぶことができた良い機会でした。

展示会について

中里:ブース担当者との会話がメインの展示会であり、とても良い情報共有の場となりました。国内のイベントにもかかわらず海外のメジャーな事業者も多数見られ、その数は年々増加しているように感じます。

日本国内のプレイヤーに目を向けると、海運、工事、建築関連企業はもちろんのこと、金融や法律事務所等、多数の異種業界の組織がブースを開いており、洋上風力産業の裾野の広さを改めて実感しました。

風力発電市場におけるプレイヤー関係図
※本図は風況コンサルタントが描いた概略図を示しており、全てのプレイヤーの関係性を描いたものではないことにご注意ください。

水戸:海事系弁護士事務所など、海をフィールドにする異業種の組織の出展があるのは洋上ウィンドファームならではだと思います。レラテックが連携している神戸大学 海事科学研究科と馴染みのある方も多かったです。

施工段階やO&M(運用・維持管理)計画の策定支援ツールや、あらゆるデータを面的に統合管理するGISソフトを紹介してもらえたのは興味深かった点でした。 特に、洋上における施工・O&M計画の予測には、海域における風況や海象が重要なパラメーターになります。質の良い予測を行うためにレラテックの技術を活用できるように感じました。

また、レラテックとしての立場からは、開催地・北海道の地場企業と会話でき、レラテックが担当する観測業務に関わる地元電工企業とつながれたことは大きな収穫でした。

全体について

小長谷:国内における浮体式洋上風力市場の重要性を昨年に増して実感しました。そんな中、浮体式洋上風力に関連する風況分野の研究開発において、レラテックが実施すべき点を明確にする必要性を改めて感じました。具体的には沖合で信頼できる洋上風況データが得られるような調査手法の確立や、O&Mフェーズの取組に注力していきたいです。

上月:当社事業と関係の深い他社との意見交換や交流は、普段のやり取り以上に思考が表面化され、今後の仕事のしやすさやWIN-WINの関係構築につながるものだと感じました。 また、第三者視点を考える機会も多く、レラテックが業界全体において果たす役割がイメージしやすくなったことにも、非常に大きな価値があります。個人として磨いていくべき武器について考えるとても良い機会でもありました。海外の事例も吸収して、技術的に大きなステップアップをしていきたいと思います。

中里:裾野が広い風力発電業界において、風況はその中のほんの一分野である一方、数%の推定誤差で数億円の損失に繋がることもあり、プロジェクトの成功失敗に直接的に結びつきます。精度の高い風況観測や解析は重要であると再確認しました。

洋上風力開発は非常に投資額が大きく、陸上に比べると、風況観測だけでも非常に高コストです。そのため、観測機器の事前精度検証は極めて重要であり、それらを行えるむつ小川原洋上風況観測試験サイトの果たす役割は大きいと改めて実感しました。引き続き、知名度UPに向けた活動や、サイトの活用事例の増加を精力的に行っていきたいです。

むつ小川原洋上風況観測試験サイト

水戸:私にとっては風況調査の関係者だけでなく、環境アセスメントや事業開発などを行う全く別分野の担当者が多かったことで、交流の輪を広げるのに有意義な機会を得られました。
今後のレラテックのステップとしては、O&Mの分野に着手する構想も進めていけたらと考えています。ハード面において、今後20年以上続く各洋上ウィンドファームに対し、メンテナンス業者育成は欠かせないものであり、国内各所にGWO(※1)取得センターが続々と開所しているものの、ソフト面の整備がまだまだ追い付いていない印象があるためなにか打開策があればと感じます。

※1 GWO(Global Wind Organisation)
2012年に設立された非営利組織で、GE、Vestas、Siemens Gamesaなどの風力タービンメーカーや設備オーナーで構成されている。風力発電業界における安全性と品質基準の向上を目的に、標準化された訓練・認証プログラムを策定・運営している。

まとめ

日本国内の風力発電市場に関わるさまざまプレーヤーと交流でき、世界市場の現在についてを知ることができたGOWS-J 2024。刻一刻と変化していく洋上風力市場に対し、レラテックが貢献できることはなにか、改めて考えさせられた時間でした。

レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。風況に関するご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。

参考

一般社団法人日本風力発電協会、Global Offshore Wind Summit – Japan 2024開催について
2024年9月6日
https://jwpa.jp/information/10689/
むつ小川原洋上風況観測試験サイト
https://mo-testsite.com
RX JAPAN株式会社、WIND EXPO
https://www.wsew.jp/hub/ja-jp/about/wd.html


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