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身体動作と脳指令の関係 "Cosine Tuning : コサイン調律" その1

 ちょっと前に、数学のサイン・コサイン・タンジェントなんかは義務教育で教えても大半の人は使わないじゃんって話から いる・いらない論争が色々話題になっていましたね。役に立っている・立ってないは人それぞれあるよなぁ〜と思いますが、好奇心をくすぐると言う点では、サイン・コサイン・タンジェントの三角関数は世の中の色々な物事と関係しているので、関連した面白い話はいっぱいあると思っています。

 なので、今回は個人的にではありますが、好奇心をくすぐる話の一つをしていきたいと思います。こんな雑学があるんだ!みたいな感じで読んでもらえればいいなと思います。中身は一言でいうと、普段皆さんが無意識に手や足を動かしていることにもこの三角関数が関係していると言うものです。専門的にも寄っちゃいますが、なるべくわかりやすいように書いていきたいと思います。

1. 四肢を動かす時の各筋肉への神経指令の特徴

※コサイン調律は響き的に言いやすいので僕が勝手に読んでいるだけです。学術的には"Cosine Tuning"と呼ばれています。

 ツイートの内容を丁寧に説明しますと...  腕や足を動かす時は筋肉が収縮して関節を回しています。通常、ロボットだと一つの関節を動かすのに関節を回すモータが一つとなりますが、人は一つの関節を回すのに複数の筋肉が付いていて冗長な機構(一見無駄に多く見える)になっています。例えば、上腕筋だと肘の関節を回す機能、上腕二頭筋は肘の関節を回す機能と肩の関節を回す機能の両方があります。本来、肘を曲げるために関節を動かすだけならば上腕筋のみで十分みたく。

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 数学的・制御的に、この複数の筋肉が無駄に多く付いている状態だと厄介な問題が発生します。一つの関節に一つのモータを動かす機構ならば 指示と結果が1 : 1で結びつくのですが、複数あるとそれぞれの筋肉に出す指示の仕方は組合せとしては無限大になります。(昔、日本の教科書はこう。イギリスではこうって言う算数の中央出版のCMがありましたね。それのイギリスの問題のような感じ。)

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組み合わせは無限大ですが、ある決まったルール:制約があるとこの問題は解決できます。

例えば 
・〇+■ = 10 である。 
※ ルールとして 〇^2 + ■^2 が1番小さくなる整数(自然数)の組み合わせ
 
〇 = 1, ■ = 9 のとき      1^2 + 9^2 = 1+ 81 =82
〇 = 2, ■ = 8 のとき      2^2 + 8^2 = 4+ 64 =68
〇 = 3, ■ = 7 のとき      3^2 + 7^2 = 9+ 49 =58
〇 = 4, ■ = 6 のとき      4^2 + 6^2 = 16+ 36 =52
〇 = 5, ■ = 5 のとき      5^2 + 5^2 = 25+ 25 =50

このとき、〇 も ■ も 5 となるときの組み合わせが
一番小さくなることがわかります。

 これが冗長な機構である腕や足の四肢の場合、力を出す時に、神経から筋肉へ送られる電気信号のノイズをなるべく小さくして、四肢の力の変動を抑えると言うルールで考えると、わりと実際の筋の活動度(筋電位)と一致する傾向があります。 ( 上の計算式のような、各筋の活動度の二乗和が最小となる組み合わせ )

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※ 細かいところですと、このルールには他にも色々な考え方があります。それぞれの筋の疲労度をなるべく小さくしたいとか、関節のせん断方向の力を抑えたいだとか。実際には、色々な要因が複合的に絡んでいるので、正解がどれというところは未だ解明はされていません。

※ よくある筋骨格モデル(open sim等)での筋活動度推定手法では、説明した神経から送られる電気信号を小さくしたい ( 各筋の活動度の二乗和最小のルールを用いられることはよくありますね。)

一旦、まとめると
・腕や脚の四肢は、機能的にたくさんの筋肉がついている冗長な機構である
・冗長な機構である四肢を動かす時には、あるルールを課していそう
・そのルールとは、各筋肉への電気指令ノイズをなるべく小さくすること。
 ( 各筋肉の活動度の二乗和が最小 )
・その結果として、四肢の動きの変動が小さくなるような神経からの電気信号が送られている。

2. 四肢の関節のトルクと筋の活動度との関係

下肢の膝関節と股関節のトルクとある筋の筋活動度 (筋電位)をセンサで計測してみて、プロットするとこんな感じになります。

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 このプロットしたものは、一つの平面っぽく見えます。あれだけ、複雑な機構にもかかわらず、結構シンプルですね。仮に平面だとすると、数学的に表すことができるようになります ( けっこう重要 )
   高校数学の内容ですが、一平面を数式で表すと二つのベクトルの内積で表すことができます。ついでに、内積で表現できると言うことはベクトルの大きさで表すとコサイン関数になるんですね。

M T・P   =  |T||P| cos(θ - φ)  

M:ある筋の筋活動度
T = (Tk, Th) : 膝関節トルク、股関節トルク のベクトル
P = (a, b) : ある筋肉の至適方向ベクトル 
φ : PTD ( preferred torque direction) : 至適方向の角度 (下図の平面上)
θ : 膝・股関節トルクベクトルの角度(下図の平面上)
※ 至適方向:ある筋肉が最も活動しやすい力(トルク) の方向

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 だいぶ理解しずらい話に入ってきましたね... この辺りはなかなかパッと伝えるのが難しい(笑)  この Cosine Tuningという関係式は、上記で説明した各筋肉への電気指令の組み合わせでノイズをなるべく小さくして、力の変動を抑えたいということを数学的に考えると同じ関係式で導出できます。

 ざっくりまとめると、普段皆さんが身体を動かす時には、脳内が"Cosine Tuning" と言うルールの下で、力のバラツキを抑えるような各筋肉への電気信号を指令している。そうやって、冗長な機構である身体を上手く動かしております。

3. プラス α

 あとは、ここらへんの知識があると何に役立ちそうかと言うと、筋トレとかに活用できたりします。下肢の各筋肉の至適方向をプロットしたものが下図になりますが、太腿の表側の筋肉である 内側広筋・外側広筋、お尻の筋の大殿筋を見てもらうと単に膝を伸ばすだけの動作より、股関節を伸ばしたり・曲げたりするのを組み合わせた方が筋が活動しやすい(ちゃんと筋肉が使えている)状態となります。

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 そのため、のちのち身体を動かすときや筋トレをする時に常に見えるようになれば、自身の筋トレ時の動きが至適方向に沿って、できるようになり狙った筋を効率的にトレーニングできます。

4. 最後に

 色々難しい部分も多々てきましたが、この辺りの解説はまた今度していきたいと思います。今回、説明した内容については、東京大学の野崎大地先生のものを参考にしておりますので、詳細に内容知りたいという方はこちらの資料や動画・論文を見てください!ではでは。

"Muscle Activity Determined by Cosine Tuning With a Nontrivial Preferred
Direction During Isometric Force Exertion by Lower Limb"
https://journals.physiology.org/doi/pdf/10.1152/jn.00960.2004

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