読書感想:動きそのもののデザイン Part1
1. はじめに
概要:『動き』のデザインに関する新しい方法論
運動共感エレメントと呼ばれる人やモノの動きに対する観察の視点と新しいモノのふるまいをデザインするアプローチ方法が具体例(プロセス・プロトタイプ)とともに記載してあり、また裏のテーマである 『リサーチ・スルー・デザイン』と呼ばれる研究者自身がデザインの実践活動を通して新しい知識の創出を図る研究手法も載っている本となります。
著者の三好さんのヒトが人工物などを見た時に感じる繊細で一瞬な"感じ覚え"の感覚に対して、とても深く追求する姿勢にはとても感心しました。私自身、人やモノの動きにとても惹かれる人間ですので、早速本書を参考にしつつ自身のモノづくりで追及していきたいそんな内容でした。
2. きっかけ
私自身・ものづくりを行っているエンジニア側の立場の人間で、特に人や物のふるまいには興味がありました。本書にも書かれていましたが、現在このような人工物のふるまいを意図・計画した設計はまだまだできていないと感じており、また今後、生活の中に入りこむロボットが増えていく中で、違和感なく・人と同調するような振る舞いを持つ機能はとても重要であると考えているので、本書の内容にはとても興味を惹かれてすぐにでも取り入れてたい!・研究したい!と思ったことがきっかけでした。
あと、読んだ後でしたが科学的研究とは異なるリサーチ・スルー・デザインも実に面白いデザインならではの研究方法ですね。工学部出身の私にとって、科学的研究との違い・またそのリアル綴られた研究アプローチはとても新鮮な内容でした。
3. 運動共感
人だけでなくモノに対しても、同様に運動共感が起きるケースもある ( なびくカーテンを見たときに得られるフワッとした感覚など ) このとき、どのような要素・法則によって、このような運動共感が起きているのか?本書では、この要素を「運動共感エレメント」と名付けて、現段階で15個に分類でまとめている。この『運動共感エレメント』の観点が得られることで、ものの動きを捉えるための鋭い感性が養われていくことや、また新しい人工物のふるまいの取り入れ・応用が事例とともに紹介されています。
4. 生き物らしさとの違い
動きの要素を取り扱うと「生命感」・「生物感」とすぐに紐づけされてしまうが、本書では「生き物らしさ」を探求することではなく、必ずしも生物的な印象をまとうわけではないモノの動き・現象に対して、人がどのような運動共感を起こすのか。
この辺りのテーマとの違いを述べられているのも、新しい領域としての理解が深まりました。一方で、その関係性もやや気になるところ。「生き物」っぽさを感じる手前に、運動共感があるのか。そうではないのか。
例えば、ある方向だけ顔を向けるロボットに対して、頭脳を持っていると感じるときに運動共感を起こす要素があり、その結果として生き物っぽさを感じるのか。そこは通らずに、過去の経験:動物や虫を見たときの記憶を重ねるときに生き物っぽさを感じるのか。両方の要素自体は存在していて、支配的になるバランスがそれぞれあるようなことは直観的に思いますが。
本書の末尾にも、付録として生き物らいさの部分にも詳しい紹介があります
5. 事例&動画参照
本書の中で、動きの事例紹介がたびたびあったので実際にどんなものかと調べていました。調べたついでに、noteにもリンクをまとめておきます。
こうして見ると、ジュースボックスは動きが丁寧で凝ってますね(笑) ポーダブルDVDは、持ち運べるために簡素化してるとはいえ、パカッていう動きがイマイチなのはわかりますね。なんでそう感じるかも気になるところですが…
これは途中に紹介されていたエキストラ・エフォートがないからですかね。動きは単調な速度で開いて止まるので、とてもシンプルだとは思いましたが、止まる瞬間には、減速感はない。一方で、ジュースボックスはすべての動きが滑らかで、エキストラ・エフォートを感じる印象を持ちました。
※ エキストラ・エフォート(追加の労力) 動きを最小限の力で実現するという動きではなく、その他の目標が加わるとき(例えば、椅子を傷つけないようにゆっくり座るなど) に速度を徐々に小さくするような動きの追加がある状態
この滑らかな動きは好きだな~。後転・前転しているときの加速・減速感だったり、その時の重力に身を任せて動くゆったり感が想起されました。
ボリュームが多い内容なので一旦、ここまでで次は運動共感エレメントとリサーチ・スルー・デザインをそれぞれについて感想等々書いていきたいと思います。次からは単に読書感想していても、面白くなさそうですので本書の中にあるワークショップ用の観察フローを試してみた内容についても書いていきたいと思います。
6. その他
・著者の三好さんの講演内容です。