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2日目 名誉毀損罪と侮辱罪で逮捕され勾留されている容疑者へ会いに行った話
前回からの続き
当方に名誉毀損行為を行った容疑者(以降、A)との面会を終え、最初に思った事は「謝罪に対する姿勢が当方と全く違う」という事だった。
もし当方が逆の立場であったなら相手の顔をしっかりと見た上で腰を直角に曲げ「今回は本当に申し訳ございませんでした」と謝罪をするだろう。
だが彼は電車の中で誤って足を踏んでしまったサラリーマンのようなカジュアルな謝り方をしてきた。
逮捕されたのに、留置されて自由を奪われているのに、眼の前に烈火の如く怒り狂っているかもしれない被害者がいるのに、だ。
またAの国選弁護人から口頭で聞いた「Aの書いた反省文」は当方を大いに悩ませた。
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前回書いたテキストでは
>「この反省文、俺の国語力じゃちょっと読解できないなぁ……」
と……一回文章を咀嚼した上で唸ったように書いたが、実際はAの国選弁護人から反省文の聞き取りを終えた瞬間「これって本当に反省文なんですか? どう読んでも5行と6行目が僕に対する説教に読めるんですが? 弁護士さん的にこれは反省しているように読めますか?」と、蝶のように舞い、蜂のように刺す事でお馴染みのモハメド・アリ感覚で矢継ぎ早に質問をしてしまった。
するとAの国選弁護人は一呼吸おいて
「これは私がAさん本人から預かった反省文です。正直に言ってしまうと、読んだ感じ『一部』は間違いなく反省していませんね」
と、まるで「僕が斧で桜の木を伐りました」と答えたMr.正直者ことジョージ・ワシントンのように現実と真実と事実を手短に伝えてくださったので、当方は自身の読解力が狂っていなかった事に安堵しながらも、この文章の中に存在する真意に恐怖する。
その日の夜、当方は「反省していない反省文」という本来であれば禅問答の公案集に掲載されるべき文章を眺めながら、菅原文太が「北の国から’92巣立ち」にて田中邦衛とカボチャの山を眺めながら述べた名台詞「誠意って何かね?」の意味と、その少し前のシーンで菅原文太がガチギレして吉岡秀隆を鼻血が出るまでぶん殴った事を思い出し「明日はどんなに頭にきても透明なアクリル板をぶん殴らないように注意しよう」と心に誓った。
Aとの面会 2日目
前回の面会でわかった事は、Aは犯罪行為をしてしまった事は理解しているが、何が犯罪行為であったかを理解していないという事だ。
また謝罪の仕草で理解できたが、当方とAは色々な意味で感覚が違う。
つまりこれからの対話は黒船で突然やってきたペリーに対する江戸幕府のような感覚で行わねば自身がAに飲み込まれてしまうし、実際Aとの面会を終えた当方は「酒でも飲まなきゃやってられない」という気持ちに苛まれ、帰り道のスーパーで滅多に買わない角ハイボール缶〈濃いめ〉500mlを3本も買ってしまった。
つまりAとの対話は「交渉」ではなく「聞き取り」を重視するべきであるし、当方の最重要性課題は「Aに対してどのような事をすると犯罪行為となるか」を理解させる事なのかもしれない。
そんな事をこれから氷河期世代であるAに伝えるという事は、同じ氷河期世代としてかなり気が重いが、Aが何が悪かったのかを理解をしてくれなければ、2度目の再犯をする可能性は一気にあがる。
そんな事を考えながら当方は午前の早い時間に警察署へ出向いた。
警察署の留置管理係に到着した当方は、昨日と同様に面会者の名前/住所/電話番号/相手との関係性/面会の目的を書類へ記入し提出、内容を確認した警察官から「Aに吉野さんの個人情報をどこまで伝えてよいですか?」と問われ「今日も名前だけでお願いいたします」と伝えるとすぐに面会許可が下り、当方はそそくさとスマホと荷物を預けて面会室へ。
「今日は聞く事よりも伝える事の方が多いな……」
そんな事を考えていると、鉄の扉がギィッッと開き、昨日と全く同じ黒いジャージを着たAが現れた。
当方 「おはようございます」
A氏 「こんにちは」
(既に朝の挨拶すら噛み合わない……)
こうして本日の面会は始まった。
当方 「前回、Aさんから聞いた話をまとめてきたので、また同じ様な質問をしてしまうかもしれませんが、そこは最初に謝っておきますが申し訳ないです」
A氏 「大丈夫ですよ」
当方 「最初に大事な話をさせて頂きますけれども、もう吉野に関する事は書かない、絡まない、ブロックされたからってキャプチャして晒さない、リツイートなんかもしない、こういう約束はしていただけますか?」
A氏 「それはもうしません、実際にブロックされている訳ですから」
(本件はブロック後におきた事件なんだけどなぁ……)
そんなAは罰金刑となり釈放された約一ヶ月後、自身のX(ツイッター)に「ブロックなんかすると行き着く先はこうなる」という趣旨のコメントと共にかまいたちの夜のバッドエンド動画のURLを貼ってポストした。
だから今でも同居人はAに心から怯えているのだ
当方 「これ同居人からの質問なのですが ”もうやらないと言える理由を教えて下さい” だそうです」
A氏 「これからは見ない事にします。でも執着するとつい忘れちゃうんですよ」
(忘れてしまうのか……それは困ったなぁ……)
当方 「Aさんが前回逮捕されて罰金刑に処された際、警察と検察の双方から”もう吉野には関わらない、もうやらない"とAさんが言っていたと聞いているんですが、なんで再び僕に対して書いてしまったんですか?」
A氏 「なんかね、ホームページ(連邦)を読んでいたらムカついてしまいましてね」
当方 「何の記事みてムカついたんですか?」
A氏 「何っていわれても困るんですけども……それはもうわかるでしょ? この話はやめましょうよ」
(攻撃的な事や他人を貶める記事は連邦に書いてない筈なんだが……)
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当方 「Aさんは僕の事を色々と書いているけど、僕のファンなんですか? それとも単に嫌いなんですか? それとも只のネットの一個人と見ているのですか?」
A氏 「どうでしょうね、ちょっと難しいですね。昔から読んでいたから親しみはあるんですけどもね。でも自分的には、内容が合わない時はあるかな……」
(話を聞いている限りファンに近いのかな?)
当方 「昨日Aさんから弁護士が20万円で和解交渉をしようと提案したら、それをAさんがは突っぱねたっていう話があったじゃないですか? それはなんでですか?」
A氏 「吉野さんはたった20万円が手元にあって、それを一体何に使うんですか?」
当方 「えっ??」
A氏 「20万っぽっちじゃ何もできないでしょ?」
(何故この状況で俺の金銭感覚を見定めているのだろう……)
当方 「じゃあもしAさんの手元に20万円があったら何に使うんですか?」
A氏 「うーん、難しいなぁ。普通に手元に置いておいて、本当に必要な時に使いますよ」
(今がその時だと思うのは自分だけだろうか……)
当方 「Aさんは僕の事を色々と書いているけども、あれってソースあるんですか」
A氏 「ネットに書いてあるやつですね」
当方 「というと、どこですかね?」
A氏 「BとC(共に個人名)の記事ですね」
当方 「Bは一昨年にAさんと同じように逮捕されて、BもCも今年Aさんと同じように家宅捜索されました、逮捕はされていないですが。そして彼らの記事は既にほぼ全て消えています」
A氏 「え?」
当方 「それについてはですね、彼らは今……(以下略)」
(やっぱりなぁ……けどBやCの記事とは別にAが考えて投稿したデマが沢山あるんだよなぁ……)
当方 「前回お話をした時に"何が悪いかわからない"と言っていましたが、そもそも僕が嫌がる事をしちゃいけないって話なんです」
A氏 「けど表現の自由ってのがありますからね」
(デマは表現の自由じゃないし完全に嫌がらせ目的で投稿しただろ……)
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当方 「今日はそれを説明しますけれども、そもそもですね公……(以下略) ……という事です、ご理解いただけましたか?」
A氏 「うーん……」
当方 「理解できない部分がありましたら、Aさんの弁護士や担当の検察官に聞いてみてください。僕より詳しく説明してくれると思うので」
(最後は法律のプロに丸投げしたから流石にもう大丈夫だろう……)
と右方 「今のうちに伝えておきますが、僕はこの件の事をネットに書くつもりです」
A氏 「別に……でもそれ書いて何か吉野さん楽しいんですか?」
(ネットに対する価値観が違いすぎる……)
警察 「あと3分です」
当方 「Aさんは、まだ僕と話すつもりはありますか?」
A氏 「私は吉野さんにもう関わる事はないですからねぇ……」
当方 「会う気があれば来ますけれども」
A氏 「じゃあ、また話しましょう」
当方 「ではまた明日来ます」
面会の時間は終わりAは鉄の扉の向こうへ帰っていった。
話があまり噛み合わない、これは最初から覚悟していた。
しかしこの違和感は一体何なんだろう?
自分は何か大事な事を見落としているのではないか?
そんな事を考えながら当方はAの書いた反省文についての意見を求める為に、本事件を担当している警察官の元へ向かった。
警察官からすれば名誉毀損の被害者と名誉毀損の容疑者が留置所で面会するというのは前代未聞であるし、通常であれば警察官が捜査中に容疑者が被害者に宛てて書いた反省文を読む機会なんてまずない。
なので会うなり「Aはどうだった? 取り調べをしている俺たちの気持ちがちょっとわかったでしょ? ところでどんな反省文なの?」と蝶のように舞い、蜂のように刺してきたので、当方はケン・ノートンのパンチよりも素早くAの反省文を印字した紙を彼に手渡した。
「うーん……読んでみたけどこれ反省していないよね。吉野さん、検察官にこの手紙の事は聞いてみた? 俺だけじゃなくて検察官の見解も聞いた方がいいよ。あと俺は個人的に検察官の見解も知りたい」
当方は警察署を出るとすぐに検察庁へ電話を入れ、担当の検察官へAの弁護士から反省文の内容を伝え聞いた事を伝え、この反省文を読んでどのような感想を持ったのか聞いてみたところ
「あくまで個人的意見ですが、反省文を読んだ感じは吉野さんと同様で反省しているように到底思えませんでしたね」
これを聞いた瞬間、ゾクッとした。
昨晩までこの手紙は禅問答のような反省文と軽く見ていたが、司法にかかわる者全てが反省文ではないと感じる反省文に何の意味があるのだろうか?
そして当方はAとの会話を思い出す。
「でも執着するとつい忘れちゃうんですよ」
きっとAは前回の逮捕時に反省しているし、今も間違いなく反省している。
だが反省文を書いているうちに自身の意見に執着してしまい反省している事すら忘れてしまったのではないか……と。
頭の中でゾクリと変な音がした。
次回 リーク
ここまで長々と読んで頂き、本当にありがとうございました。
↓以下は続きである「3日目 名誉毀損罪と侮辱罪で逮捕され勾留されている容疑者へ会いに行った話」となります。
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