#起業の天才 で日本現代史の沢山の様相を振り返れます、学べます
「竹ちゃん、うちは虚業だって」
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3087-3088). Kindle 版.
新たなベンチャーが生まれる時、社会に認知される時、依然として出てくる言葉、それが「虚業」という言葉だと思います。江副さんもこの言葉に強く反応していたのですね。
モノづくりを喜びとしない人が増え、モノをつくらない会社へ優秀な学生が就職していくと、日本の将来は危うい
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3041-3042). Kindle 版.
経団連 5代目会長、稲山氏から江副さんへの問いかけです。1984年のことだそうです。40年近く経った今でも、稲山氏と同じことを信じている人がいる、しかも、そこそこの人数で、と感じます。
藤野英人さんのこの話が思い出されました。
そのとき、弥太郎は気がつきました。「そうか、木材がおまけだったんだ」と。弥太郎は以後、無料で家屋などの修理を引き受け、そこに自分の木材を使うことで、結果として木材がどんどん売れるようになりました。本当にお客さんが欲しかったものは「快適な空間」だったのです。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO24430430Y7A201C1000000/
”快適な空間” って言い換えると、「価値」だと僕は考えます。モノもサービスも情報も、それが「価値」を創り出しているかどうか、なんですよね。昔はモノそのものだけで「価値」を感じられたのが劇的に変わっている、変わり続けている、ということでしょう。最新のスマホも「モノづくり」が無ければ実現しないものなのは確かですが、その技術を使ってどんな「価値」を社会に、人々に、時には、地球に、宇宙に、ということなんだと思います。
「価値」というのは裏返すと「穴」ということになるかもしれません。再び、藤野さんのお話です。
新しい事業を起こすことは、「穴を探して穴を埋めること」だと思っています。つまり、社会的課題を発見し、それを実行すること。
https://next-innovation.go.jp/renovator/presspost/20180302/
探さなくても、何かの拍子につい見つけてしまう、気づいてしまう「穴」。そこから価値は創り出されるのだと思います。江副さんは、「穴」に気づく、とてつもなく大きな「穴」を見つけ出す、そんな天才だったのだと感じました。
そして、大きな穴を埋めるために、「人」のやる気を最大限に引き出そうとする天才でもあったんですね。
江副さんには『こうしたい』という意見がある。でも、それを自分が言えば、命令と服従の関係になってしまう。だからしつこく『君はどうしたいの?』と聞くんです。はじめのうち社員はトンチンカンなこと言っていますが、江副さんは『それで?』『でも、こういうこともあるよね?』と誘導していく。すると、そのうち社員は、江副さんが考えていた正解や、それより素晴らしいアイデアにたどり着く
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1874-1877). Kindle 版.
さらに、「人」こそが価値を創り出すための必須の資源、資本だと考えていた。
江副の「採用狂」は相変わらずで、ひとりにつき600万円、年間にしめて60億円という法外な採用コストをかけて人材をかき集めていた。
学歴やコネではなく、SPIと面接で「優秀な学生」を選ぶのだが、この方法で選んでも東京の有名大学、なかでも東大が多くなる。出身地別で見ると東京だらけだ。
江副は「均質化」を恐れた。
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2988-2992). Kindle 版.
一方で、もう一方の大事な資本、「お金」の調達が、時代だったというしかありません、あの時代の日本独特のものでした。「土地」「地価」これを極端なまでにレバレッジしていたことを知りました。
今で言うところのCFO(最高財務責任者)がいなかった。あえていえば江副がCEO(最高経営責任者)とCFOを兼ねており
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4694-4696). Kindle 版.
「人」という資本調達の天才でありながら、「金」という資本調達には、極端な方向を選び、そこに突き進んでいった、ある方向にのみ流れていれば天才的だったかもしれませんが、いつか流れが逆になると取り返しのつかない痛手になることを江副さんは気づいていたのかどうか。多分、気づいていたのだろうと想像します。でも、もう戻ることは出来なかった、ってことなのだろう、と想像しました。
冒頭に、故・瀧本哲史さんのインタビューが載せられています。
江副さんがダークサイドに堕ちてしまったのは、彼を乗りこなす騎手、つまりまともなエンジェル投資家が日本にいなかったからです。その状況は今も変わっていません。
大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.71-73). Kindle 版.
瀧本さんは「エンジェル投資家がいない」と表現されていますが、これはベンチャー企業に限った話でも無いように思われてなりません。「投資家」そのものがあまりにも少ないのでは、と。
中身を見ることなく「価格」ばかり追いかけている人たちが増えて、「価値」を見極めて判断する、リスクを取る人たちがまるっきり増えないとしたら、、、
江副さんのような天才が仮に現れても、また同じことが繰り返されてしまうのではないか、そんなことを思いました。
起業、事業という文脈以外にも、日本の現代史の様々な姿を振り返ることのできる一冊です。いろんなことを考えさせられる読書となりました。