本の感想53『たくさんのタブー』星新一
いくつか感想。題名をつけてショートショートを紹介したり、感想を書いたり。
逃亡先
裏の組織から勝手に逃げ出した人間。犯罪を犯し、遠くへ離れようとする奴。会社の金を横領し、一時避難する人。
そんな人たちが逃亡先や一時の避難場所として選ぶところは、似通っているんじゃないだろうか。例えば地方の自然に囲まれた隠れ家的なホテルとか。
逃走する人間たちは、この世に無数に存在しうるだろう。あるいは、同じ時期に事件を起こして同じ時期に逃亡し始める奴も大勢存在しうるだろう。そうなれば、そういったいわば特殊な人間たちが一か所に同時に集まることも無いことは無いんじゃないだろうか。
◯ある旅館にて
殺人犯「やあ、こんな時期にこんな場所に、会社の有給ですか。」
横領した人「そんなもんです。のどかでいいですね。」
スパイ「まったくです。現実から解放される気分だ。みんなで晩酌でもいかかです。」
組織に追われる人「それは良い。ちょうど心から安心できる話し相手と、心地よい酔い気分がほしかった…」
コンサル
会社の経営を良くするために、コンサルがある。外部からの客観的な意見やアドバイス、直接的な手直しを取り入れるのは大事なことだ。アドバイスの内容は、業績などの数字で見たものや、経営面での意見などが一般的だろう。
会社というのは一人一人の人間が集まって構成されている。この一人一人の能力の水準が高くなれば、それだけ会社も良くなりそうというのはなんとなく想像できる。
ある会社に怠けている社員Aが在籍している。Aが休暇の際、怪しげな老人が訪ねてくる。その老人が言い出す。「あなた(A)は実は会社の、いや日本経済の急所的な存在なのだ!」
老人はツボや急所などの研究に生涯を費やしてきた人間で、古来より続く、人類を陰から支える一族の一人だという。
「経済の急所」なるものが存在するにしても、大手企業や中央銀行などの、さらにそこの役員など社会的に大きな存在が急所なのではないか?いや、そうではない。
例えば建物も、ある柱の、とるに足りない一部が無くなるだけで建物全体が崩壊してしまう。人体においても、地味で目立たない部分がその人にとって致命的であったりする。
こういった話で説得を受けた後、最後に老人は言う。「このことは誰にも話してはいけません。海外のスパイや、政権を握りたい国内の組織などに命を取られる危険がある。そして健康だけは気をつけてください。あなたの家族や友人、そして見知らぬ人間までもがあなたにかかってるといっていい。」
それからのAは、並々ならぬ活力とオーラに溢れ、勉強と体作りにも励み、結果会社では大活躍するようになった。なにしろ彼には、「私は日本の急所だ」という自覚があるのだ。
その裏で、いつかの老人と、Aの会社の社長が話し合っている。
「Aの変わりようは見事なものだ。これで我が社から怠ける人物が減り、水準も一段と高まった。これが君への報酬だ。…」