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本の感想54『たくさんのタブー②』星新一

前回が思いの外長くなっちゃったからつづき。本を読んで想像したこととか、ユーモラスな話の紹介とか。

チップ

タクシーが、ある客を乗せる。病院からでてきた若い女性で、どことなく暗い雰囲気。まあ、医者に通っているのだから当然かな。

かなりの距離を走り、告げられた家に着く。女は金を払わず、その家に入っていった。「知り合いの家にでも寄ってるのかな、それとも持ち合わせがなかったのかな。」などと運転手は考えた。まあ、ちょくちょくそういうことはある。

しかし、待てども待てども女は来ない。待ち料金は上がる一方。親切にも、それを教えようと家のベルを押す。すると家の中から中年の男がでてきて、「何の用でしょう」と聞く。「何の用もない、今の女性のタクシー料金ですよ」と運転手。

すると男は、どんな女かと聞いてくる。とぼけて料金を踏み倒されたくないから、人相や服装、乗せた場所まで詳しく説明した。すると男の顔は青ざめ、こう言う。「それだったら、私の娘だ。1週間前にあの病院で亡くなった。ああ、やはり家に帰りたかったのだろうな。」こんな話の後で、涙を流し始めるではないか。

運転手はもう料金などどうでもよかったが、男は料金の全額に加え、いくらか上乗せしてくれた。娘の魂をよく連れて来てくれた、と。

別の日、運転手は別の乗客の男にこの話をする。しばらく乗せていると、その男が言い出す。「あれれ、金が少し足りない。ちょっと持ってくる」

長い時間待たせられたので、家のチャイムを押すと、別の女性が出てくるではないか。その女性は男の妻で、男は数週間前に死んだと…

裏では、男は妻に状況をしこませ、縁起をさせていたのだ。タクシー運転手の話を聞いて、ちょっとやりたくなってしまったのだ。妻には、「夫は喜んでるでしょう」などと言わせておいて、ちょっとした金や、酒などのお土産を渡す。

チップを得る方法としてタクシー運転手が考え出したのだろうか?客としては、「面白い体験ができるし、あいつは話もうまかったし、全然金を出してやろう」という気持ちにもなるのだろう。お互いWIN-WINだ。アメリカはホテルでも何でも工夫し、もてなすことでチップがもらえる。それに引き換え日本はとにかく尽くすだけ。経済も回らなければやる気にもならず、想像力も育たない。話が脱線したけど、日本もチップをやったらどうだろう。

それとこの話は、工夫次第でお金を増やせる、生活を豊かにできる、ということを認識させてくれる。客をあるところからあるところに移動させるだけ、というタクシーの仕事でも、想像力や工夫しだいで楽しくできるのだ。

いい酔い方

バーのカウンターに座り、お気に入りの酒を注文し、一人で追憶に浸る。子供のころの良い思い出や、学生時代の恋人のことなど、考えていて心地よく、モチベも上がるようなことを決めておく。いわばルーティーンとしての追憶だ。この酔い方であれば、日頃の嫌なことやストレスをリセットしてから、その日を終えることができる。

デスノート

あるショートショートに、悪いことをしたが捕まらずにいる人間を無意識のうちに殺してしまう能力が授かった男の話が出てくる。殺す瞬間は唐突にやってきて、急な感情の高まりでやってのけてしまう。本人がどんなに拒もうとそれは必ず行われ、周りにもバレないような仕組みになっている。彼は苦悩し続け、最後は不運にも事故で死ぬのだが、その間際は安らかで安心したようであった。

そんな運命になったら、ストレスで酒の量が増えたりよく寝れなかったりで大変そう。これが普通の人間の感覚であろう。

デスノートの夜神月はやばい奴だ。「精神が神を凌駕している」とLは表現してたけど、ほんとにそうだよなぁ。少なくとも、この世をよくしたいなんていう前向きな気持ちにはなれない。


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