本の感想48『ヴィヨンの妻(第2回)』太宰治
違う小説でも作家が同じなら、でてくる主人公や登場人物に共通点がある。人物たちの性格であったり、話し方が似てたりとか。
太宰治の小説の主人公も然り。奇妙なくらい女性から好かれたり、いつでも死ぬことを考えてたり、何かに怯えてたり、金銭面にだらしなかったり。この「ヴィヨンの妻」もそんな一面を大いに見せている。
今回はそれに加えて、題名にもなっているヴィヨンという実在の人物に、登場人物を(というか太宰自身を?)照らし合わせてもいる。
ヴィヨンは実在した人で、「フランソワ・ヴィヨン」というフランスの詩人。15世紀の人だから、かなり昔の人だ。
ヴィヨンは、酒や女に溺れている放蕩者で、強盗事件などを起こしてパリを追放されてたりする。さっちゃん(登場人物の妻。主人公かな)の夫である大谷も、ヴィヨンのように放蕩三昧な生活を送っている作家。さらに大谷も酒屋の金を盗むという強盗的事件を起こしてる。まさにヴィヨンやね。この小説はさっちゃん視点の物語で、夫の大谷=ヴィヨンだから、「ヴィヨンの妻」ということなんだ。
今回は、そんなヴィヨンのようないわばあまり良くない部類の男の妻である、「さっちゃんの魅力」がひしひしと伝わってくる作品でもある。
さっちゃんは夫の放蕩を知り尽くしてるし、家を長い間平気で空けられたりする。夫がよく行く例の強盗事件も起こしてる酒屋で働くようにもなる。
側から見れば悲劇のヒロインだ。夫は家に帰らない。女と遊んでいる。酒と金のクセが悪い。
さっちゃんは、ただただ静かに、大谷に知られないところで密かに夫のためにがんばっている。なんと健気な愛情だろうか。
人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。
話は変わり、↑これは最後にさっちゃんが吐いた名言だけど、太宰はこれを書いた時どんな心境だったんだろう。太宰は、どの作品も自身を描いていたのはよく言われてる。常に死を考えていた太宰にも、こんな思いになった時期があったのかな。
※追加
書いてから気づいたけど過去にもヴィヨンの妻の感想書いてたわ、わろた。読み返したらちょっと内容というか視点が違くて、時を感じた。意外と面白かった。