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チリン、チリン。 どこからか響く風鈴の音。 夏になると迷い込んでくる涼だ。 鳴ったからといって、身体が涼しくなる訳じゃないのに。 見えない場所に涼しさを纏っている。 いつだったか買った風鈴は、どこにやったっけ? 物を整理する時間があるなら、寝ていたい不精者。 その割に、なにかを始める時には活発になり。 必要な物を揃えるだけ揃えて、それで満足してしまう。 ほとんど使われずに終わった趣味のガラクタは、押し入れに詰め込まれて、わたしの中からすっと消えてしまう。
GPSで示された現在位置は、海の上だった。 テントの外では、雪が舞い踊っている。 スマホの画面の中で点滅するアイコンは。 山の上とは正反対の、ハワイに程近い北太平洋の真ん中だ。 もう少し行けば、小屋があるらしいという予想で進んできたけど。 小屋など全く見当たらず。 陽も沈んできたので、テントを張ってこの場所で一泊することになった。 完成した頃に吹雪きはじめた雪は。 宙の黒さえ飲み込んで。 あっという間に白い世界を作りだした。 お互いに寝袋に身を包み。
物語は残酷だ。 現実には終わり等ないのに、物語には終わりがあるのだから堪ったものではない。 それが終わった後も、生き続けねばならぬこちらの身にもなって欲しい。 あの輝かしく切り取られた時間の果てを、きちんと描いてはくれぬものか。 ハッピーエンドで終わるもの程、信用がならないと思うのは、僕がひねくれているからだろうか? そんなことを、会社の屋上でコンビニで買ったサンドイッチを頬張りながら考える。 僕は物語が嫌いだ。 こっちの頭を一杯にして、さっさと去っていってし
「君は、偽善者だね」 夢の底から、私は必至で水面へ顔を出す。 心臓が全速力で走った後みたいに苦しい。 毛布を強く握りすぎて爪が痛かった。 あの日以来、夢で何度その言葉に貫かれただろう。 あの日、国語辞典くんが放った言葉は、棘みたいにずっと私に刺さったままだ。 小学三年生の時だった。 「あーちゃん、ごめん。今日はエミちゃんと帰るね!」 昨日もそう言って、サキちゃんはカナちゃんと帰った。 「ううん、大丈夫」 どうにか口だけは笑う。 「じゃーねー、明日は一緒に帰ろう