推しについて語りたい。「精選女性随筆集 向田邦子」
本当に好きな人については語れない。
なぜなら上手く伝えられる自信がないから。
好きな人の魅力が半減するのが悲しいから。
ずっとそう思ってきた。
でもこの本を読んで語ってみてもいいのかもしれないと思った。
maiさんの記事にこの本の感想が述べられていて、わたしの言いたいことを言語化してくれていた。
だから、わたしも語ってみようではないか。
推しのことを。中学生の頃からの推し、向田邦子さんのことを。
久しぶりに向田邦子さんのエッセイを読んだ。
向田邦子さんとの出会いは中学生の時。国語の教科書に載っていた「字のない葉書」というエッセイだ。当時の国語の先生は授業で他のエッセイも紹介してくれて、それがわたしのツボにハマった。笑い転げているわたしを見て、先生は文庫本を貸してくれた。それが「父の詫び状」という本だった。そこからわたしは夢中になった。あまりの衝撃ですごいスピードで読み終わり、先生に返すやいなや他に刊行しているエッセイも全て親に買ってもらい、何回も読み返した。何がわたしをそこまで夢中にさせたのか。考えていきたい。
1.書き出しが秀逸である
冒頭からぐっと気持ちを持っていかれる。例えば
えっ?どうゆうこと?と思っているとあれよあれよといううちに読み進めてしまう。するとあっという間にそのエッセイを読み上げてしまっているではないか。あら、びっくり。いつもこんな調子ですぐ読み終えてしまうのだ。
2.無駄な言葉がない
まどろっこしい言葉や難解な言葉は何ひとつ使っていない。潔い文章とでもいうか。淡々としているからといって冷たいわけではなく、温かみも感じる。率直な文章は心にすっと入ってくる。読みやすいのだ。
3.何気ない日常を鋭く観察している
子供の時の話しも多いが、よく細かい心情まで覚えているなと感心する。それだけ観察眼が優れていることだと思う。恐らく小さい頃から周りをよく観察して、気を配っていたのではないか。そうでないとここまで書けないはずだ。天性の何かを感じざるを得ない。
4.家族への愛情に溢れている
お父さんはすぐ怒ったり、亭主関白ぶりが強調されて描かれているが、それを深刻には決してせず、むしろ優しい眼差しで見ている。お父さんは怒りっぽくて情に熱い。魅力的に描かれている。家族を本当に大切に思っていたのが文章に滲み出ている。それが向田邦子さんのエッセイの醍醐味だと言っても過言ではない。
5.4、50年前に書かれているのに共感できる
時代は違えども全く色褪せない。有名な脚本家にも関わらず、驕ったところがなく、出てくる食べ物ものり弁やらおかかご飯やら庶民的である。
「夜中の薔薇」というエッセイに出てくる、歌詞の思い違いの話しなど、今でもよく聞くような内容だ。ふるさとという曲の「兎追いしかの山」を「兎美味しかの山」と歌っていた。とか今でもありそう!わかる!と共感してしまう。時代も違うのに不思議だ。そこが魅力だ。
6.文章の構成がうまい
短い文章で次々に話が変わりながら展開していく文章だ。次の展開は一見すると全く題名と関係なさそうに感じるのだが、実は一貫して同じテーマが根底としてある。最後の締めくくりまで読むと題名の回収がされていて、まるで体操選手がピタッと着地したみたいに清々しい気持ちになる。その上手さに思わず唸ってしまう。天才だ…
7.戦争の事さえ日常のひとコマ
たまに戦争の出来事が書かれている。実際、教科書に載ったのも戦争の話だ。確かに辛く大変な経験だったはずなのに、そこまで悲惨さを感じない。死を覚悟している場面ですら、涙涙とはならないのである。あくまでも日常の一コマとして描かれている。能天気とは違う。淡々と冷静に描かれているからこそ伝わるものもある。わたしは戦争の話しが怖くて苦手だ。遠くて自分とは関係のないように感じることもしばしばあった。でも向田邦子さんの文章は現実味がある。庶民はみんなこうだったんだろうなと想像ができる。やっぱりすごい人だ。うーん。
8.クスッと笑える文章とホロッと泣ける文章と
リズムかな。まるで落語を聞いているような。音楽を聴いているような…
ついケラケラと笑ってしまうところが何ヶ所かある。かと思えば次の瞬間、ホロッとさせられたり、しみじみ感じたり、もう大忙しだ。コロコロと変わる展開に休む暇がない。そこがいい。勢いで最後まで読み切ってしまう。文章にリズムってやはり大事なんだなあと勉強になる。
上手く伝わっただろうか。
向田邦子さんの魅力はこんなんじゃ語りきれていないと思うが、もう今のわたしにはこれが精一杯。
向田邦子さんのエッセイは上質な物語を読んでいるような気持ちになる。
とにかくこれが一番言いたくて、ここまで語ってみた。
もっと長く存命だったら、どんなにたくさんの名作が生まれただろうと残念でならない。
だから、わたしは何回も同じエッセイを読む。内容を覚えてしまっているのに、毎回新鮮な気持ちで読める不思議。
ぜひみなさんにおすすめしたい。
そして、あのエッセイ最高だよね〜と語りたい。
以上、推しについて語ってみた。