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事業はニーズからなのか、シーズからなのか

事業作りを目指す方々から、問われる定番の質問の一つが「事業はニーズスタートなのか、シーズスタートなのか?」というものがあります。アカデミックなスタンスを持つ方々には、どちらかのスタンスに立つ必要があるので明確な解をお持ちの方もいらっしゃると思います。しかし、実務を支援することに重きを置いている私にとっては、どちらでも良いと思っています。この質問は、自転車のペダルは右足から漕ぎますか?左足から漕ぎますか?という問いに似ていると感じます。

ニーズスタートの王道「デザイン思考」

デザイン思考は、デザイナーさんの思考を事業創出活動に活用しようとした技術の事です。例えば、コーポレートロゴを作る過程を見てみましょう。

1、企業そのものを正しく理解する。
2、次に企業の顧客(=ロゴを通して情報を受け取る人)を理解する。
3、そのうえで2者が行う情報のやり取りを、最もスムーズに行えるようにロゴを創作する

3に至るまでの、1・2の過程は事業創りにおいても同じプロセスを踏んでいます。

事業創りをす企業や起業家はアウトプットである「ロゴ」「製品またはサービス」に変わっていると考えると、前工程ではデザイナーさんの力を借りる、或いは思考プロセスを習うと良いのではないか、と考えられます。

この手法に求められるのは、ビジネスを分析から組み立てる方法、ビジネススクールに代表されるような論理的で計画的な手法ではありません。曖昧さや偶然性を味方につける為の心構えや、高度なコンテクストを読み解き合成していくような力が必要なのかもしれません。

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スタンフォード大学 d.schoolの提唱する8つのコアな能力

スタンフォード大学といえば、デザイン思考のビジネス転用の発祥の地と呼んでも過言ではない場所かと思います。同校のd.schoolでは、下記の8つの能力を学習目標として提起しています。まさに、ニーズスタートの事業を創るときの心構えと呼べるのではないでしょうか。順番に解説をしていきましょう。

参考サイト


1、曖昧さをナビゲートする。

デザインの世界は不確実性に満ちています。様々な情報を瞬時に判断し、存在する問題を幾度となく、多角的にリフレームする力が必要だと言われています。リフレームとは、同一の事実・事象を全く違った視点で見ることで新たな解を導く手法です。多角的に物事を見ることで、襲い来る曖昧さから脱出する力を養おうという事なのでしょう。

2、他人の文脈から学ぶ

デザイン思考の1ステップ目は、「共感」のプロセスと言われています。顧客や様々な利害関係者、仲間と出会い、その中から学んだことで感受性を養う必要があるとされています。自身の1通りの価値観だけで突き進むのではなく、絶えず新しい視点を取り入れながら精度を高める力は、事業創出においても重要なスキルだと考えられます。

3、情報を合成する

得られた情報の意味を理解し、顧客がもつ真の意図や機会を見つけ出す能力が必要だと言われています。情報は顧客が発した言葉や、誰かがまとめた二次的なデータを鵜呑みにするのではなく、どのように解釈をしていくかが大切で、重要なスキルであるといえるでしょう。

4、すぐに実験する

頭に浮かんだアイディアをいつまでも「温める」癖は、私にもあります。しかし、そこには損失が大きいものです。書いてみる、描いてみる、組み立ててみる、聞いてみる…方法は何でも構いません。すぐにトライアルしてみる事が大切です。自分が考える「できそうにない事」が、他人の視点に触れる事で「解決可能なこと」に変えられる機会が来るかもしれません。奇跡のような話に聞こえるかもしれませんが、奇跡を待つのではなく引き寄せる力も大切と言えるのではないでしょうか。

5、具体と抽象の間を行き来する

意味や目的、原則など、事実から導かれた本質的な課題感と、対になるのがその解決に向けた具体策になります。この二つは接合される必要があり、課題感も具体策も交互にブラッシュアップされていくべきだと言われています。どちらかに強く固執をしてしまうのではなく、柔軟に、よりよき課題と具体策に変化をしていく事が大切です。その過程で、何かとしっかりと決まったことがないと、不安な感覚を持つかもしれません。そこを乗り越える為のトレーニングが必要なのかもしれません。

6、意図をもって作り上げる

これまでの得られた事実の情報を解釈し、その解釈を反映した提供物を具体的に形にしてみる事です。ここでは、取り組む領域に適した知見を反映することが大切だと言われています。しかし、必ずしも事業を起こす人がすべての知見を網羅している訳ではないのが実態かと思います。その際には、迷わず人に力を借りるべきです。その手助けをしてくださる方の輪が得られる得られないかは、自分がその領域に取り組むべき人間か否かを判断する一つの材料になるかもしれません。

7、適した人へ説明してみる

自分たちの考えや概念、これまでの学習、ストーリーなどを適切なステークホルダへ説明をしてみる力です。まず、適切な相手、例えば将来の投資家候補、初期のユーザ候補に自身のプランを説明してみるとします。その際にはその相手が本当に適切であるかを見極める力、相手の望む論点に適切に説明する力が必要です。そして、そこからフィードバックを次の糧にしていく思考も大切です。

8、デザインワークを設計する

一連のプロジェクトを実現していくにあたり、誰と、どんな方法で、どのような手順で実行をしていくか。そのプロセス一つ一つで何を解き明かし、何を学び、どのように活かすのか。それらを組み立てていく力が必要です。繰り返し学べるチームと、そのための環境を構築できる想像力が必要になると考えらます。


なぜ、自転車のペダルか

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今回はニーズスタートの事業創りに必要な能力を中心に書かせていただきました。次回は、逆の立ち位置の際のお話も記載していきます。

さて、冒頭の問いに戻りましょう。なぜ自転車のペダルなのか。結論はシーズスタートでも次にやることは、そのシーズがニーズを満たしているかを確認するからです。右足で漕ぎ始めた自転車は次に、左足で漕がないと車輪が進みません。その後、右足、左足、右足、左足、徐々に力がたまって速度が増していく感覚は、ニーズとシーズが相互にブラッシュアップされていく様に近しいと感じています。


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