『女性のいない民主主義』-既存の学問をフェミニズム的観点から問い直す|REING Library vol.4
📕REING Library
REINGから皆さんへ、本の贈り物です。
小説だったり、ノンフィクションだったり…ジェンダーに関するものだけでなく、背中を押してくれた本、辛い時寄り添ってくれた言葉などなど、毎月1〜2冊、REINGのメンバーがお気に入りの本をピックアップします。
REINGが主催するコミュニティの中でも、「ジェンダーについて知りたいけど何から始めたらいいかわからない」「アカデミックな本はたくさんあるけど、どんな本を読むのが自分に合うのかわからない」という声を聞きます。
REINGを運営する私たちも日々学びながらジェンダーイシューに取り組んでいるところです。わたしたちに影響を与えた本をシェアすることで、みなさんと二人三脚で一緒に歩んでいくヒントを見つけることができたなら…そんな思いを込めて本を紹介していきます。
本って、わたしたちの世界を少しだけ広げてくれたりする。
ぜひ、わたしたちの頭の中を覗きに来てください🌷
📕今月の本📕
『女性のいない民主主義』前田 健太郎
わたしが肝に銘じていることの一つに、既存の学問は基本的に男性優位社会において、男性により、男性の目線から研究されてきたものである、という視点がある。
その中でも、数ある学問の中から、政治学をフェミニズム観点から問い直しているのがこの本だ。
先日の森喜朗氏の発言をご存知ない方はおそらく少ないだろう。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)の「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」をはじめとする複数の女性蔑視的発言はあらゆる方面へと影響を及ぼし、国外のメディアも取り上げるほどの注目と批判を集めることとなった。
2月18日、渋りながらも辞任を決めた森喜朗氏の後を、橋本聖子五輪相が継ぐことになったと報じられた。
世間からはさまざまな声が上がったが、その中の一つに、橋本氏が大臣を辞任することにより、日本におけるジェンダー平等実現への道が遠のくのではないかという不安がある。
例えば、橋本聖子大臣は、男女平等参画基本計画策定の際に、30歳以下の若者を対象としたプロジェクト「#男女共同参画ってなんですか」にて、若者から集められた声を元に作成された「第5次男女共同参画基本計画パブリックコメントに伴うユースからの提言」を受け取り、取り入れた。
また、緊急避妊薬の市販化、選択的夫婦別姓の導入にも彼女は積極的な立場をとっていた。
そもそもJOCの中にも、少数ではあるが女性の理事は数名いる。女性蔑視発言を反省し、東京五輪・パラリンピック、そしてJOC組織内におけるジェンダー平等を推し進める気が本当にあるのであれば、なぜ、組織外の女性を任命させようとするのだろうか。
丸川珠世氏が橋本大臣の後任となり、菅内閣における女性閣僚は二人キープしている。とはいえ、ただでさえ少ない女性議員をどうしてわざわざ辞めさせる必要があったのだろうか。
わたしの声は国会に届いているのだろうか。わたしの大切な友人が同性愛者として社会的に認められ、法的に結婚できる日は果たして来るのだろうか。
そんな風に不安に思う日もある。
明るい希望を常に抱きながら今の日本で生きるのはわたしにとっては難しい。
それでも、無闇に絶望する必要もないのだと、この本はわたしにそう教えてくれた。本書には政治分野におけるジェンダー平等に向けて、わたしたちが知っておくべき知識と具体的な解決策が詰まっている。どうか今こそ、この本を読んでほしいと思う。
”黄金の3割”(クリティカル・マス理論)の話をみなさんは知っているだろうか。ある集団においてマイノリティである人々は、その組織における構成比率が30%を超えた時、もうマイノリティではなくなり、組織内において影響力を持つようになるという理論だ。
つまり、社会的弱者である女性やLGBTQ+の方の比率が30%を超えた時に初めて、我々は臆することなく、社会的強者(マジョリティ)としての男性と対等に議論することができるようになるという。
LGBTQ+の人々は女性以上に「存在しないもの」として扱われ続けてきた。
先行きが見えない時、どうすれば良いのか全くわからない時に、人は強く恐怖や不安を覚える。
でも幸いなことに、これらの差別は決して解決策のない問題ではない。まずは、国会における女性・LGBTQ+当事者の議員の比率を30%まで引き上げればいいのだ。
容易い道ではないけれど、とるべきアクションはわかっているし、確実に社会は前に進んでいるとわたしは思う。
『ジェンダー規範からの逸脱に対する制裁が繰り返されることは、女性が自発的に政治の世界から退場するという結果をもたらす。「女性は女性らしく、他人と表立って競争するのではなく協調するべきだ」という規範の下で社会化された女性は、選挙活動に常にともなうような激しい競争を避けるだろう。(中略)女性に競争を回避させるジェンダー規範がある限り、自由な競争に開かれた選挙制度は、それが競争的であるがゆえに、男性に有利な仕組みになってしまう。』ーp.21, 第1章「政治とは何か」より
女性差別は、女性だけの問題では決してない。
研究に基づくデータと解決策を提案することで、社会に蔓延りジェンダー平等の推進を阻むさまざまな”都市伝説”がいち早く消え去ることを願っている。
(前田健太郎 / 岩波書店/ ¥820)
Recommender: Ai O'Higgins
Writer: Ai O'Higgins
Editor: Maki Kinoshita