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底辺フォトジャーナリスト ミャンマー白骨街道に1週間だけ行ってみた③

ミャンマー軍事クーデターのさ中、白骨街道の取材を試みた筆者。ところが、運悪く到着と同時期に戦闘が激しくなり、先に進むことが困難になってしまいました。いくつか方法を模索しましたが、なかなかうまくいきません。戦闘地域では当たり前ではありますが、待ち時間がもどかしいです。しかし「できることをやるしかない」そう思い、可能な範囲で動くことに決めました。



ミャンマー北西部に生きる人たちの現状

 ここからは、カレーミョの人たちが直面している現実のお話を私が見てきた限りでお話いたします。

 先述したように、現在のカレーミョに住むチン族は、同族が大多数を占めるチン州と戦闘状態のため、彼らのコミュニティはかなりナーバスな状態におかれています。訪問した日曜のカトリックミサも、セキュリティチェックで待たされました。また、コメ価も高騰しているため、教会門前で配給サービスがあります。

 

コメを分け合う住民たち 

そして、これも到着して数日で感じたことですが、街は10代から20代前半の若年層世代、それから50、60代~のシニア世代の姿しか見られません。30代から40代の働き盛り世代、特に男性がまるっと抜けてしまっているのです。おそらく戦闘に参加している、あるいはこの地域を逃げ出して隠れて生活していることが考えられます。

 日常面では、日中開いている店は少なく開店していたとしてもなるべく最小限の時間に留めるようにしています。韓国ヌードル店を営む少女にわけを聞くと、国軍により商品が略奪されたり、物が壊される事件が多発しているから、とのこと。夜中にモトクロス店で商品が奪われる事件も起こったそうです。

店の開店時間は朝10時から夕方17時までとのこと ですが、いつ行っても閉まっているのが不思議でした

「だれも文句は言えません。だって兵士に何をされるか分からないから……」

 彼女は誰にも聞かれないように声を抑えて話しました。

 そのとき、国軍兵士が15人ほどが詰め込まれた深緑のダンプカーが2台、けたたましいクラクションを鳴らしながら、猛スピードで走りすぎます。すぐ後には白い砂埃。道行く人たちはなるべく目を合わせないように下を向いていました。

 ミャンマー軍による横暴はSNSでも毎日のように拡散されています。なかには女性が首を斬られた画像などショッキングな画像が流れてくることもあります。

民主化勢力の波 めざましく

 ここまで話すとミャンマー軍の恐怖で皆が震えあがっている、そのように考える方もいるかもしれません。しかし、一方で国軍の力が確実に弱まっている、そう感じる出来事もいくつかありました。

ある日の爆撃回数を聞こえるだけ集計してみると、午前中だけで12回(どちらの攻撃かは不明) 

 第一が爆撃音の近さです。山間部で闘っているPDF勢力は思ったよりも近くまで迫っています。軍が本拠地をおくカレーミョ大学までは空港から西へおよそ11キロ。本当に目と鼻の先で戦闘が行われていることを実感させられます。夜明け前から日中にかけて山岳部からの攻撃、夜間は街中で銃撃戦が繰り広げられ、軍側にしてみれば息つく暇もありません。

 第二の要素は、反軍のテレビCMの多さ。例えばヤンゴンのテレビはもっぱら中国のニュース番組かミャンマー政府の広報しか流れていませんでした。ところが、ここへ来てみると「民主化をこの手で」「国軍資本企業の商品をボイコットしましょう!」そういった民主派勢力側のCMや、ゲリラ戦を繰り広げる民衆側に立ったマスコミ報道を目にすることが多くなります。この地ではもはや政府がメディアをコントロールしきれないのでしょう。

地方に行くと独立系メディアが精力的に取材していることがわかります

内戦の弊害 生活は尚厳しい状態

 とはいえ、2021年2月1日のクーデターから3年余り。国内経済は停滞し、食糧や燃油、資源の物価も上昇しています。例えば、ある男性はレストランで1万ミャンマーチャット札を60枚以上束にして財布に入れていました。紙幣の価値が恐ろしく下がっているうえに、(私のクレジットカード決済トラブルで分かるように)決済方法がそれ以外ないためです。
「金持ちにみえるだろ?」と冗談を言ってはいましたが、通貨はもう紙切れ同然ということを実感してしまいました。

 そしてこれも痛いのですが、軍による通信遮断の影響で、インターネットが繋がりにくい状態です。ヤンゴンで買った2000円のSIMカードはあっという間に圏外になりました。建物にあるWIFIもしょっちゅう停電になるので、ブツブツ切れます。現地のSIMを何度買いなおしてもそこまでネット環境はよくならないので、ショップ店員にVPNアプリを3つも入れられました。


海外のネットを自動で検索してつなげてくれる便利アプリです

 またこれが一番深刻な問題ですが、現在国軍に学校施設を接収されているため、本来なら学校に通っているはずの若い児童・学生たちが学校に通ことができないということです。前述のように働き盛りの大人はほとんどいないため、働き手はもっぱらこの若者たちです。本来の学業をすることができず、いつ爆撃が彼ら襲うかも分からない戦争の最前線に取り残されているのは、彼らにとってかなりシビアです。一日でも早くミャンマーが平和になり、子どもたちが安全な環境で生活できることを願わずにはいられません。

10代前半の子どもたちがたくましく働いている中華料理屋

帰国 今も続く混沌

 約1週間のミャンマー・カレーミョ滞在。結局チン州行はお預けでしたが、現場の緊張感と市民たちの息づかいはそこでしか味わえない体験でした。一方、帰国して改めてミャンマーのニュースを見るとあまりの酷さに言葉を失います。

 まず今年2月に始まった徴兵制がいよいよ本格的になったというニュースです。それに起因して各地で混乱・反発が起こっています。なかには軍による賄賂や誘拐、そして徴兵を理由にした自殺者も出ているというのも深刻です。

兵役の対象は18~35歳。もし徴兵に応じない場合、禁固や罰金が科せられる、というのもめちゃくちゃです。国民同士泥沼の闘いをしている現状を解決する気もなく、闘いたくない若い人を無理やり戦場に送り込むミャンマー政府の姿勢、いったい何を考えているのでしょうか。

 次に各地で続発する軍を標的にした爆破テロ。4月の水祭りを前にした3月中旬にヤンゴンでも爆発があり、大きく報道されました。ヤンゴン在住の邦人の話によると、今に始まったことではないそうですが、徴兵への不満や怒りがテロ増加につながっているのは明らかです。



 

最後に、ちょっとだけいいニュースがあります。

「ミャンマー保健省3月1日から、これまで入国時に付保を義務付けていた医療保険への加入義務を撤廃」

 ビザと一緒に入らされた(強制)国有保険、現在はなくなりました。できれば私が行く前に止めてほしかったですが、これは仕方ありませんね。次につなげていくしかありません。

 それではまた会う日まで。

※以下は私の本のリンクです。もしよかったら買ってくださるとすごく喜びます。


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